一人の男子生徒が教室の出入り口に向かって歩いていく。最初にこの教室から出て行く
相川透(男子1番)だ。
「おらぁっ! さっさと歩けぇ!」
 透の肩が一瞬ビクッと揺れた。透はこのクラスのお調子者男子代表のような存在であったが、さすがにこの時ばかりはいつものような明るさは全く無かった。
 透は出入り口付近まで来たとき、山済みにされているデイパックのうち一つを兵士に投げ渡され、慌てながら両手でしっかりと受け取った。
 そう、何度も言うようだが、あの中には武器が入っているのだ。
 山積みにされているディパック一つ一つを良く見てみると、なにか棒のような物が入っているのか出っ張っていたり、何がはいっているのかはよく分からないが、表面が丸い曲線を描いているものなど様々あるのが分かる。
 透は自分の荷物を背中に背負いながら、渡されたばかりのディパックを両手で抱え、榊原に無理やり押し出されるような形で教室を出て行こうとした。そのとき、透がまだ教室に残っている四十三人の方を一瞬だけ振り返り、無理やり押し出したような笑顔を見せた。
「次の奴が出発するまで二分時間をおくぞ! 次は女子の1番だからなぁ!」
 つまり次にスタートするのは
石川直美(女子1番)ということだ。当然、直美は沈んだ表情をしている。いや、それよりも直美の次に出発する上原絵梨果(女子2番)の方が暗い表情になっているようにも見える。
 そもそも上原絵梨果といえば、例の女子グループの中では最もおとなしく、そして目立たない存在であった。対して石川直美は特別明るいとまでは言わないが、同グループのお調子者の
戸川淳子(女子12番)の相方のような存在だ。
 その直美の顔つきもがどんよりと濁っているのだ。絵梨果があれだけ暗い表情になるなど、なんら不思議なことではない。
「おらぁ! 女子の1番の番だぞ!」
 いつの間にか二分経っていたらしい。気がついたときにはもう、直美が出口の方へ向かって歩き出していた。
「男子の2番はもう死んじまったから、次は女子の2番だから覚えとけよ!」
 榊原が全員のほうを向いたその時だった。直美が絵梨果の横を通り過ぎようとした時、榊原には絶対聞こえないくらいの小さな声で、ぼそっと「外で待ってるから」と言ったのが、近くに座っていた雅史にはかすかに聞こえた。
 そうだった。飯田健二が死亡したので、出発する順番が変わり、直美の次が絵梨果ということになったのだ。
 直美と絵梨果は同じ仲良しグループに属しており、直美が出発して二分外で待っていれば、次には仲の良い絵梨果が出てくるのだ。そうして再会した彼女たち二人が一緒に行動するということは、十分に考えられる。
 そう考えると、同じグループの
小野智里(女子3番)も、一緒に行動するという可能性は高い。先に外に出た二人が奥村秀夫(男子3番)に見つからないように入り口付近で隠れていれば、智里との合流も実現可能なはずだ。
 それに再会ができた時点では、その三人以外には、まだ相川透と奥村秀夫しかスタートしていないのだ。この時点ではまだ他のクラスメートに襲われる心配は少ない。
 ただ、あの仲のいいグループの他のメンバー、
新城忍(女子9番)は出席番号が離れているため、再会は難しいだろう。なにしろ智里の次の次には、あの悪名高き不良女、霧鮫美澪(女子4番)が出てくるのだ。入り口付近に隠れておくのは危険である。
 もちろん三対一で戦うなら、仲良しグループのほうが有利な気もするが、相手がいくら美澪だといっても、彼女たちは殺し合いに乗ったりなどしないだろう。
 それに美澪だけに限らず、忍が出てくるまでにはかなりの生徒が分校から出てくるのだ。長い時間入り口付近に隠れておくのは、どっちにしろ危険だ。
 同グループ内の
椿美咲(女子11番)戸川淳子(女子12番)は出席番号が近いため再会は難しくは無いかもしれないが。
 そうだ。殺し合いなんてしなくていいんだ。みんなで集まって脱出方法を考える。そう、それがいい。
 おそらくその女子グループに限らず、多くの生徒達は殺し合いを拒んで、仲間になれる者を探そうとするに違いない。『三人寄れば文殊の知恵』という言葉があるように、クラスメート同士が集まれば集まるほど、脱出方法を考え付く可能性は高まる。
 何度も考えたこの“皆で集まって脱出方法を考える”という考えは、もしかしたら不可能ではないかもしれないと、わずかながら希望が湧いてきた気がした。
 いろんな思いをめぐらしている間にも、生徒達は次々と出発していった。
 剣崎大樹(男子7番)佐藤千春(女子7番)剛田昭夫(男子8番)島田早紀(女子8番)が順番に教室を出て行き、ついに親友の一人である稔の順番となった。
 稔もかなりこわばった表情をしていた。
 当然、雅史は稔とどうにか合流できないものかと考えたが、出発の順番が離れすぎているために難しい。雅史があれこれ考えている間に稔はディパックを受け取り、雅史の視界から消えていってしまった。
 くそっ!
 おそらく稔は雅史とはもちろんのこと、出席番号が比較的近い浩二とでもさえ合流は難しいだろう。稔と浩二の間には三人の生徒を挟んで八分もの時間が開いているのだから。
 なんとかまだ教室に残って自分の番を待っている靖治や浩二に、再会方法か何かを書いたメモでも渡したかったが、兵士達が銃を構えて見張っている中、そんな事をする勇気はなかった。
 さまざまな思いをめぐらしている内に、浩二ももうとっくに出発してしまっていた。浩二は出発の際に残った生徒達に笑顔を見せて手を振りながら出ていった。浩二らしいと思った。
 ほとんどの、もう会うことのないクラスメートに向けての最後の笑顔のつもりだったのだろうか……。
 中井理枝(女子15番)が出発してから二分が経った。
「おらぁ! 男子16番の名城ぉ! 早く出てけ!」
 雅史はその言葉に立ち上がり、出口へと向かっていった。浩二が出発してから十八分後。最初に出発した相川透にはほぼ一時間の遅れをとったスタートだ。
 入口に向かっていく途中、まだそのままにして放置されている渡辺先生や、飯田健二、須藤沙里菜の三人の死体が目に入った。
「グズグズするな!」
 気がつくと榊原が雅史に向かって左手を突き出していた。そして案の定、そこには黒く光る拳銃が握られていた。どうやら三人の遺体を目にして、自然と足を止めてしまっていたらしい。
「なんだその目は!」
 しかも榊原を睨み付けてしまったらしい。焦った雅史はとっさに榊原から視線をそらして前に進み出た。
「ふざけんじゃねえぞ! 外に出たらきちんとやれよ!」
 当然殺し合いのことだ。
 デイパックを受け取った。投げ渡されたディパックは思っていたよりも重く、受け取ったときはかなりの衝撃があった。
 靖治……。
 教室を出る前に振り返ると、笑顔などは浮かべず真剣な顔で、一度だけ頷いてみせる靖治の姿があった。
 雅史も靖治に向けて小さく頷き、教室を後にした。
 こうして男子16番、名城雅史はスタートした。


【残り 44人】



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