雅史はもう何が何だか訳がわからなくなっていた。
 渡辺先生、須藤沙里菜、そして飯田健二の三人もの人間が、この短時間の間に次々と死んでいくという信じられない光景を目の当たりにして、目に映る物全てが、もはや現実なのか夢なのかが全く分からなくなっていた。
 雅史はそもそも死体というもの自体を見たことがほとんど無かった。唯一見たことがあるのはかなり昔の話、雅史がまだ小学生だったころ、祖父が病死して葬式に出席した際に、顔に白い布をかぶせられた遺体を目にした事はあった。ただ、あの時見た祖父の遺体は白く清潔な衣をまとい、胸のところできちんと両手を合わせていた。しかし今回の三人の遺体は祖父の時とは違い、説明するのが嫌になるほどの凄惨な状態であった。
 状況が違いすぎる……。人間の遺体がこんなに醜いものだったなんて思ってもいなかった。
 真っ赤っかだ! 何もかも……。
「バカが!」
 榊原は頭に赤い穴が開いた飯田健二の遺体を睨みつけ、銃口からまだ煙を出し続けている拳銃を腰にしまいながらセリフを吐き捨てた。
 飯田健二。ちょっと乱暴な所があり、成績も良くなかったために、何人かの教師に軽く目をつけられていた奴だった。だけど、さほど悪い奴ではなかったはずだ。雅史も親友とまではいかないが、普通に話が出来る程度の仲ではあったので、それなりに健二の事は知っているつもりだ。そう、健二はあんな榊原なんて男に殺されるべき奴ではなかった。
 渡辺先生や須藤沙里菜に関してもそうだ。みんな“あんな奴”に殺されるべきではない人間だ。
 雅史は榊原に殺意まで抱いた。本心で殺意を抱いたのは生まれてから初めてのことかもしれない。
 それからクラスメイト達の死を見ていながらも、ワクワクしながら座っている沼川貴宏にも怒りが込み上げてきた。
「さてと、とんだ邪魔が入ったが続けるぞ! これから二分おきに出席番号順に名前を呼ぶ! 名前を呼ばれた奴はデイパックを一つ持って、とっととこの教室から出て行きやがれぇ!」
 気が付くと教卓の隣には、兵士によって台車で運ばれてきたデイパック四十六個が山のように積み上げられていた。
 あの中には武器が……。
 恐ろしさについ身震いしてしまった。
 これから本当に残った四十四人での殺し合いが始まるのか……。
 考えたくも無い。靖治や浩二や稔とも殺しあうのか? いや、自分はそんなことは出来ない。勿論、靖治も浩二も稔も、三人とも望んでいないはずだ。そうだ。このクラスには殺し合いを望んでいない人間が沢山いるはずだ。みんなで手を組めばこの島を脱出する方法が見付かるかもしれない。そもそも前にこのプログラムからは二人も脱走者が出てるじゃないか。しかもその二人だって自分達と同じ普通の中学三年生だ。その二人に脱出できたのなら、自分達にも脱出する方法を見つけることが出来るかもしれない。
 雅史はチラッと沼川貴宏のほうを見た。
 しかしだ。いくら仲間になれる奴がいたとしても、その反面、沼川のように殺し合いに参加する生徒はおそらく何人かいるだろう。つまり脱出方法を考えようにも“そういう生徒”をかわしながら仲間になれる生徒を集め、さらにそれから、ほぼ脱出不可能なこのプログラムからの脱出方法を考えなくてはならない。これは相当難しい話である。
 万が一“そういう生徒”に遭遇してしまった場合、こっちにやる気が無くても、向こうは襲い掛かってくるだろう。
 雅史は体力にはそこそこ自信はあったので、男子はともかく、たいていの女子に対しては、戦うにしろ逃げるにしろ何とかなるだろうと思ったが、問題は銃などの強力な武器を持ったやる気の生徒だ。いくら体力があろうとも、自分に銃口を向けられたらそこでアウトだ。
 そもそもこのプログラムで支給されるあの四十六個のデイパック(既に二人死んでるので、使われるのは四十四個だけだろうが)にどんな武器が入っているのかは全く見当がつかない。銃以外にも警戒しなければならない武器は多数存在しているかもしれないのだ。
 教室を見渡した。
 この中にどれだけやる気のある生徒がいるのだろうか?
 今の時点では貴宏はもうほぼやる気のある生徒として考えてよいだろう。それ以外に警戒すべきクラスメイト……。
 
霧鮫美澪(女子4番)だ。
 直感した。彼女がこのクラスメート達との殺し合いを拒むとは全く思えなかった。
 チラッと霧鮫の方を見た。雅史よりも遥か前方に座っているため、後ろ姿しか見えないが、先ほど渡された鉛筆を右手でくるくると回しているのが見えた。
「それじゃあ始めるぞ! 男子一番、相川透!」
 榊原が叫ぶように言った。
 雅史は最後に後方を確認するかのようにチラッとだけ見た。
 雅史の視線の先には微かに笑みを浮かべた
須王拓磨(男子十番)がいた。


AM1:00 ゲームスタート


【残り 44人】



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