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 雅史は入口から廊下へと一歩を踏み出した。
 教室の外には一本の長い廊下が、闇の中へと向かってまっすぐに延びていた。雅史はこの廊下を進むことに多少の恐怖を感じた。
 今よりももっと幼き頃、恐怖映画などを見た後は怖くて一人ではトイレに行けないというのと、今の心境はにている。状況が状況だけに、本当に暗闇から誰かに襲われるという恐怖感があった。しかし、実際は校舎の外に出るまでは誰かに襲われるということはないだろう。
 雅史は自分に言い聞かせながら、背中に自分のリュックを背負い、先ほど兵士に渡されたばかりの重いデイパックを右手に持ち、闇の廊下を一歩一歩進んでいった。
 途中で何となく、もう一度教室の出入り口の方を振り返ったが、出入り口の前で待機している兵士と目が合ったので急いで前を向き直った。


 それにしても、廊下の窓から外を見ようとしても全く何も見えない。この廊下の中もかなりの暗さだが、ここから外に出たら、さらに何も見えないほどの暗闇になってしまうのだろうか?
 廊下の奥、遙か前方にある出口の方に目を向けると、外からぼんやりと光が差し込んできているのが見えた。おそらく月明かりであろう。どうやら、思ったほど外は真っ暗ではないようだ。
 それならば、何故窓から外が見えないのだろうか?
 雅史は歩を少し止め、窓に近づいて目を凝らしてみた。すると窓には外側からなにやら黒い板状の物が貼り付けられているように見えた。
 鉄板だ。この校舎の窓にはすべて鉄板が張リ付けられているのだ。
 はたして、この鉄板はいかなる理由で貼り付けられたのだろうか。ふと、雅史の頭の中に考えが浮かんだ。
 このゲームには禁止エリアというルールがあって、この分校はその最初の禁止エリアになるので、ゲームが始まった後、すぐに生徒達はここには近づけなくなる。
 正確には、たしか榊原は最後の生徒が出発してから20分後に、この分校は禁止エリアになると言っていたはずだ。だが逆に言えば、この分校が禁止エリアに変化する前なら、まだこの校舎に近づくことも出来るというわけだ。つまり生徒達が集結して、ここが禁止エリアになる前に攻めてくる恐れがあるために、こうやって窓に鉄板を張ることによってガードを固めているのだろう。
 くそ、ご丁寧にいろいろと考えやがって……。
 そのとき、廊下の窓とは反対側、右手の方にある別の教室の扉が半開き状態になっているのに気がついた。
 雅史は通り過ぎ際に、その半開きになっていた扉から内部を覗いてみた。見てしまった。
 その教室内には所狭しとコンピューターを始めとした大量の機材が設置されていた。おそらくこの中に、プログラムからの脱出を不可能にしている首輪を管理しているメインコンピューターがあるのだろう。雅史はそう直感した。
 できることなら今すぐにでもこの教室内に入り、メインコンピューターを破壊したいと思った。もしかしたら、そのメインコンピューターを破壊すれば、首に取り付けられている首輪が発動できなくなるかもしれないと思ったからだ。だがそんなことは当然不可能だった。教室内には、所狭しと並ぶコンピューターを取り囲み、それぞれの作業に没頭している二十数人ほどの兵士達の姿があったからである。そう、兵士達は榊原が連れていた四人だけではなかったのである。
 兵士の数が二十以上だと知り、雅史は分校を襲撃することの無意味さを痛感した。圧倒的な力を前に、ねじ伏せられてしまうのが目に見えたからだ。
 そんなことを考えている内に、雅史は廊下の端まで歩いてきていた。
 すでに全開にされている左右の扉の間をくぐり、廊下から一歩外へと踏み出した。この校舎を出た時点からが本当の殺し合いゲームのスタートだ。
 雅史が内心ドキドキしながら外に出てみると、そこにはだだっ広い運動場が広がっていた。
 相当長い間使われていなかった運動場なのだろうか。地面はでこぼこで、そのうえ様々な雑草が伸びてきている。長い間整備されている様子など全くなかった。
 また、ふと校舎の窓の方を見やると、やはり外側からかなり厚手の鉄板が窓じゅうに張り巡らされているのが分かった。
 雅史は運動場に誰もいないことを確認して、ちょっと安心した。とりあえず襲撃者はまだいないようだ。だがまだ安心はできない。敵はどこから襲いかかってくるか分からないのだ。
 早く安全なところに移動するか、仲間になれるクラスメートを捜すべきだ。こんなただ広いだけで身を隠す場所もない校庭の中にいるのは危険かもしれない。
 雅史はいそいで校庭の奥に見える林の中に走っていった。林の中は茂みが生い茂っていて、身を隠すにはもってこいに感じたのだ。
 急いで林の中に飛び込んだ。そして周りを見渡した。見た感じでは誰もいないように思う。しかしここは林であるため、もしかしたら先に出発した誰かが、今の雅史と同じように気配を殺しながら茂みの中にでも潜んでいるかもしれない。油断は禁物である。
 雅史は精神を研ぎ澄まして、周りに誰か隠れていないかを探った。しかし何者の気配も感じ取れなかったので、この近くには誰も隠れてはいないだろうと思った。
 少し安心した雅史はとりあえず、いったんリュックを背中から降ろした。そんなに長い間背負っていたわけではないが、緊張のためか背中は汗でびっしょりだった。
 一息ついたものの、ここはまだ分校のそばである。いくら茂みの中なら敵にも見つかりにくいとはいえ、まだまだ遠くに移動しないと危険であろう。やる気になっている人間に遭遇する可能性があるのはもちろん、最初に禁止エリアへと変化するのは、分校とその周辺を含むエリアだ。いずれにせよ、この場からは離れなければならないのだ。
 とりあえずデイパックを開けてみると、一番上に地図が入っていたので、まずはそれだけを取り出した。
 地図を見て最初に気づいたことは、雅史が飛びこんだこの林は、島内のかなりの面積を占めているのだということだった。
 さらに、林の奥まで入っていくと、そこはもう森と言っていいほど深い区域もあるようだ。
 雅史はまたリュックを背負い直して立ち上がった。もちろんすでにデイパックはファスナーを閉めて肩にかけている。
 再び林の中を歩き始めた。手に持った地図を見ながらの移動である。
 地図によると、この林を南西方向に抜けた所に、数十軒ほどの集落があるようだ。とりあえずそこに待機しよう。
 そう思って移動を始めたときだった。突然、誰もいないと思っていた茂みの中から、ハンマーを両手で振り上げながら
奥村秀夫(男子3番)が飛び出してきた。


【残り 44人】



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