目の前の机の上に、突然一枚の紙と一本の鉛筆が現れた。榊原の脇にいた四人の兵士が、生徒全員に、紙と鉛筆を配布し始めたのだ。別に今から授業を始めようという訳ではないだろう。
「その紙に鉛筆で“私たちは殺し合いをします”と五回書け!」
 なるほど、そういうことかと、雅史は榊原が言った事を、自分でも恐ろしいほど冷静に理解した。
 もちろんそんなこと書こうとなんて思いたくはないが、今の状況では書かずにいられなかった。四人の兵士が生徒達に向かって、いつでも撃てるように銃を構えていたからだ。渡辺先生が殺害されるのを見た直後なので、それに恐れを抱くのはなおさらだった。
 しぶしぶと鉛筆を動かし、『私達は殺し合いをします』と五回書く雅史だったが、自分の書いた文を見て怒りがこみ上げてくるばかりだった。
「今からこの殺し合いゲームの説明を簡単に話すから、よく聞けよボケがぁ!」
 生徒全員がその紙を書いたのを確認すると、新しい担任、正確には当プログラムの担当教官である榊原が言った。
 榊原五郎の目の前には、先ほど亡くなったばかりの渡辺先生の遺体が、手もつけられずに、そのまま放置されている。周りには渡辺先生の血液が飛び散ってひどいありさまだ。木造の教室中に、血の匂いが広がっており、雅史はそれを嗅ぐたびに気分が悪くなっていくのを感じていた。だが、榊原はそのことにまったく気を止めることなどなく、乱暴に説明をし始めた。
「まず言っておいてやろう! お前達がいるこの場所は、愛知県沖から数キロ沿岸に位置する『獄門島』という島だ! ここからの脱出など不可能だと肝に銘じておけ! その理由を今から説明してやる! お前らの首に巻き付いてる首輪があるだろ!」
 雅史はこのとき初めて、自分たちの首に見知らぬ金属の首輪が取り付けられているのに気がついた。今までそんなことに気がつけるほど、精神が安定していなかったのだから仕方がない。
 ほかのクラスメートの大半もそうだったらしい。自分の首に手を当てて驚いている生徒が大勢いるようだった。
「言っておくが、その首輪は対ショック製、完全防水で絶対に外れないようになってんだぁ!
 それでこの先が重要だ! その首輪には爆弾が入っててなぁ! お前らが脱走しようとしたりしたら、この分校内で首輪のすべてを管理しているメインコンピューターを操作し、お前らの首輪に向けて電波を送るんだ! そしたら首輪に内蔵されてる小型爆弾が爆発する仕組みになっている! それに、首輪を無理に外そうとしても、すぐに爆発する仕組みになってるから下手な事するんじゃねえぞ!」
 クラス中がまたもや青ざめた。当然だ。自分の首に巻きついてる金属の首輪は、自分を死に至らしめるための爆弾だったのだから。
 こ、これが爆弾?
 雅史も再び首輪に触れてみた。硬い金属のひんやりした感覚が手に伝わってきた。
「ただし、島内なら何処に行こうとそれぞれお前達の自由だ! 事前に島の住人達は他の場所に移動させているから、民家の中に潜むのもオッケーということだ!」
 教室内にいた生徒たちは、泣きながらでもおとなしく座って説明を聞いていたが、どこからだろうか、女子の啜り泣きが聞こえてきた。
 周りを見渡すと、それが誰の啜り泣きなのかすぐに分かった。
須藤沙里菜(女子10番)だ。
「何でこんな事になっちゃったの……。なんで……? なんで……?」
 沙里菜は、まるで壊れたおもちゃのように、ひたすら泣きながら、小声で「なんで」を連呼した。それが気に食わなかったのだろう。
「うるせぇ!」
 榊原が何かリモコンのようなものを沙里菜の方に向け、それについているボタンを押した。
 ピッピッピッ…。
 突然、沙里菜の首につけられた首輪のみが、まるで何かをカウントするかのように電子音を一定間隔で鳴らし始めた。
「なに?  なに?  なに?」


 今まで泣きつづけていた沙里菜が一度だけ泣き止んだが、彼女が再び泣き始めるまで時間はかからなかった。
 さっきの榊原の説明を聞いていた者ならもう分かりきっていることだ。そう、榊原が須藤沙里菜に向けたあのリモコンのようなものは、首輪に内蔵された爆弾を起爆させるためのスイッチであったのだ。
 ピッピッ……。
 カウントのような電子音が鳴り続け、ちょうど十回目が鳴ったとき。
 ボンッ!
 沙里菜の体と頭が分断された。首輪が爆発したのだ。
 沙里菜が座っていた場所には、頭をなくした少女の体のみが、まだ説明を聞きつづけているかのように椅子にきちんと座っていた。
「ヒィ!」
 北川太一(男子6番)が声を上げた。太一の足元に沙里菜の頭だけが転がってきていたからだ。
 沙里菜の分断された首の切り口部分から、次々と血液が流れ出し、沙里菜の体の足元に血だまりが広がり始めた。これによって教室内の血の匂いがぐっと濃くなったように感じた。
 この異常な空間に閉じ込められている生徒たちは、皆気が狂いそうだっただろう。何せ自分たちの目の前で、すでに知人が二人も殺されているのだから。しかし、爆弾を起動させた当の本人、榊原は平然としていた。
「ったく! 今みたいにうるさい奴は爆弾起動さすぞ!」
 榊原が生徒たちに向かって叫んだ。今の一件で、結果的に生徒たちは首輪爆弾の威力を思い知ることとなった。榊原に言われなくても、声を出す者すらいなくなっていたのは当然だろう。
「あとこのゲームには禁止エリアというルールがある!  この島は北から南へ向かってAからJ、西から東へ向かって1から10の、合計で100のエリアに分かれている!  ゲームがスタートしてからは決められた時間ごとに、その一つ一つのエリアがランダムに禁止エリアへと変化する! 時間がきた時点で、まだその禁止エリア内にいた生徒の首輪は爆発するぞ! 死にたくない奴は、禁止エリアになる前に、その場所から安全なエリアに逃げるんだな!
 とりあえず最初の禁止エリアはこの分校だ! 最後の生徒が出発してから二十分後に、この分校のある7−Eが禁止エリアになるからな。少なくとも二百メートル以上は遠くに離れとけよ!
 あと一日に四回、島内放送を流してやる! その放送で、その時点までに死んだ奴の名前を読み上げて、それが終わったら、その後の禁止エリアの場所と時間も発表する!
 ゲームの制限時間は三日間だ! 万が一、三日過ぎても複数の生徒が生き残っていた場合、残ってる奴全員の首輪が爆発するからな! つまりその場合は優勝者はなしだ!
 それともう一つ、二十四時間誰も死なないなんて事が起こった場合も、即座に全員の首輪が爆発するからな! そうならないようにも、全員頑張って、きちんと殺しあえよ!」
 榊原はおおざっぱでありながらも、意外と細かな説明を続けた。それを真剣な面持ちで聞いているクラスメート達。はたして、彼らは今、何を思って聞いているのだろうか。雅史はそんなことを考えた。
「それから、お前らには出発前に、デイパックを一つずつ配布する! 中には水と少量の食料、懐中電灯にこの島の地図が入っている! さらに、このゲームでもっとも重要な物、武器も入っているぞ!」
 その言葉を聞き、今まで静かだった教室がほんの少しだけざわついた。“武器”というキーワードを聞き、自分たちが殺しあうことを改めて実感したからだろう。
「他の物については別だが、武器に関しては全員に違う物がランダムで配布される! 拳銃もあればナイフもある! これは一人一人身体能力が違うクラスのメンバー全員に優勝の機会を与えるための配慮だ! ありがたく思え!」
 榊原が勝手に「ありがたく思え」などと言ったことに腹が立った。


 『須藤 沙里菜(女子10番)・・・死亡』


【残り 45人】



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