教室内に照明が灯ったとたん、木造校舎の教室内に、聞きなれない怒鳴り声が響き渡った。
 声のしたほうを見ると、見たこともない中年男性が、体格の良い四人の男を引き連れて、この教室の前、黒板の隣の入り口から入ってきていた。その見慣れない男の外見はかなり特徴的だった。
 スキンヘッド。伸ばしたあごひげ。そしてサングラス。体格もかなり良い。かなり厳つい外見だ。
 だが雅史はその中年男性が引き連れてきた四人を見たとき驚いた。手にはマシンガンのようなものを抱え、迷彩服を身にまとった男たち。そう、兵隊だ。
 この中年男性は何者なのだろうか? そして、なぜ兵隊など連れてきているのだろうか?
 雅史の頭の中で不安がよぎった。



 その厳つい男がまた怒鳴った。
「ったく、いったいいつまで寝てんだぁ! 説明時間が無くなっちまうだろーが、このボケがぁ!」
 そう言って、男は教室の一番前に座っていた
牧田理江(女子20番)の右足を思いっきり蹴り飛ばした。ところが、べつに理江はまだ眠っていたわけではない。今現在この教室内で眠っている生徒は一人もいなかった。つまり、理江の足を蹴ったのはただの八つ当たりである。
「あうぅっ!」
 理江が蹴られたほうの足を押さえて唸った。
「理江!」
 とっさに牧田理江の親友、
文月麻里(女子19番)が理江の名前を叫びながら席を立った。
 ガウンッ!
 突然大きな音が響いた後、麻里の後方の壁に穴が空いていた。見ると男は左手に拳銃を構え、その銃口から一筋の煙が立っていた。
「かってに席を立つんじゃねー!  ただでさえ時間がないんだぞ!」
 男がそう叫ぶと、麻里は理江の方へ行きたくても、恐ろしさに負け、その場に座るしかなかった。
「ううっ…」
 理江が苦しそうにまだ唸っている。当然だろう。ありえない方向に曲っている理江の右足は、さっきの一撃で折れたのだと一目瞭然だ。
 雅史も昔、自分の足を骨折した経験がある。発狂してしまいそうになるほどの、あの耐えがたき激痛、今でもその苦しさを忘れてはいない。
 当然、今骨折したばかりの理江にも、それと同じ痛みが襲い掛かってきているはずだ。苦しまないはずがない。
 しかし、男が「おまえも早く座れぇ! 本当に撃たれたいか!」と叫びながら、理江にまで銃を突き付けると、床の上に倒れ込んでいた理江も、必死になって椅子に這い上がるしかなかった。
 さすがにこの一連の出来事に関しては、雅史の内にも怒りが込み上げてきていたが、銃を持つ男に反発するなど出来はしなかった。
「ったく手間かけさせやがって。んじゃ説明するから、テメェらよく聞いとけよ!」
 手間がかかったのは自分の責任ではないかのように、男は平然と話を始めた。
「もう気づいてる奴もいるだろーが、おまえらは今年のプログラム対象校に選ばれた」
 クラス全員の顔から一気に血の気が引いた。
「いいかー! 簡単に説明すると、今からこの四十六人で殺し合いをしてもらう! そして生き残った最後の一人だけが家に帰れる! つまりは45人は死ぬってことだな!」
 男の容赦なき宣告に、クラスメート達の顔色がさらに悪くなったようだった。
「あっ、忘れてたが、お前たちの担任の渡辺先生にも、お前たちへ最後の別れの言葉を述べてもらうために、ここに来てもらってるぞ!」
 男がそう言った直後、教室内がどよめいた。
 生徒の誰にでもやさしく接してくれる、あの渡辺先生がここにいる?
 だが次に、男は信じられないことをも口走った。
「渡辺先生はこのクラスでプログラムが実行されるのを賛成してくださった!」
 クラス全員が驚愕の表情を浮かべた。
 まさか? 生徒たちが殺し合いをすることに、渡辺先生が賛成しただって?
 誰もがそんな話を信じられるわけがなかった。
「今、渡辺先生はここの廊下にいる! おい! 入ってこいよ渡辺先生さんよぉ!」
 中年の男が廊下に向かって叫んだ。雅史たちはそれがはったりであることを願ったが、そうはいかなかった。教室の前のドアが再びガラガラと開くと、そこからのそっと渡辺先生が入ってきたからだ。しかし、その顔には生気が感じられない。
 渡辺先生は教室の教卓の前に申し訳なさそうに立った。そしてしばらくじっとクラス全員の顔を見渡し、そして言った。
「み、みんなすまない……。こうしないと……こうしないと先生のほうが殺されるんだ……」
 渡辺先生はひどく脅えながら言った。
 信じられない。あの渡辺先生が、クラス全員の命と引き換えに、命乞いをしたというのか。
 雅史は信じたくなかったがこれは現実である。
「先生だって……先生だっておまえたち全員死なせたくはない……しかし……しかし……」
 渡辺先生は黙り込んでしまった。うつむいているが目に涙を浮かべているのが誰が見ても分かる。渡辺先生も相当悩んだに違いない。あんな銃を向けた兵隊たちにプログラムの同意を求められたのだ。それは相当恐ろしいことだっただろう。
 渡辺先生の足元に一滴の雫が落ちた。そして意を決したかのように、
「やっぱりおまえたちを死なせるなんて出来ない!」
 先生は前触れ無く、突然叫んだ。
 いままでも生徒たちの何人かが泣いていたが、この発言を聞いたとたん、ほとんどの生徒たちが先生とともに号泣し始めた。しかし、これを見た男は突然怒りだし、「テメェぶっ殺してやる!」と叫んだ。
 男が叫んだとたん、渡辺先生が吹っ飛んだ。先生の四方にいた兵隊がいっせいに銃弾を放ったのだ。
 全弾を浴びた渡辺先生は、四方八方に真紅の血液を撒き散らしながら、驚くほどあっけなく絶命した。
 先生が撃たれる光景を目の当たりにした生徒たちは、先ほどとは違う意味で泣き叫んでいた。
「しかたねーな……渡辺先生が死んじまったので、今から担任は俺、
榊原吾郎(さかきばらごろう)が受け持つことになった! てめぇらぁ! 担任である俺の言うことを聞かないと、今の渡辺の奴みたいに銃弾撃ちこむからな! 覚悟しとけよボケがぁ!」
 生徒たちが大声で泣き叫ぶ中、榊原と名乗る男はさらに大きな声で叫んだ。


【残り 46人】



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