「それから島の外に脱出するのは絶対無理だからな! バカなことは考えんじゃねぇぞ! 万が一島から逃げ出そうとしても、てめえらが生きてる限りは、その首輪が主の心臓パルスをキャッチし、分校内のコンピューターにデータを送ってくるようになっているんだ! つまり、お前らの居場所は俺達には手に取るように分かるってわけだ! 海から泳いで逃げようとしても、島の周りで見張ってる監視船から狙撃されるぞ!
 分かったか! 数年前の『沖木島脱走事件』みたいなことは百パーセント不可能だ! てめぇらに残された道は死ぬか優勝するか、もうこの2つしかねぇんじゃこらぁ!」
 榊原が言った。『沖木島脱走事件』とは、今から五年前、1997年度、プログラムが香川県高松市沖の沖木島という場所で行われていた際、生徒二名がプログラムから脱走したという事件だ。生徒の名前までは記憶してはいなかったが、確か男女それぞれ一名ずつが脱走に成功したらしい。
 当時この事件は、絶対脱出不可能のはずのプログラムが始まって以来、初の脱走者が出たということで、一大事件として国中で報道されていた。国民ならまず知らない者はいないだろう。
 しかし、なぜわざわざ榊原はこの事件の名前を口にしたのだろうか。もしかしたら、榊原も再びこのプログラムから脱走者が出ることを、多少であれ恐れているのかもしれない。だが、今の状態では、脱出などどう考えても無理にしか思えない。
 島の拠点であるこの分校内で、銃を構えながら待機している兵士たち。
 絶対はずれない爆弾入りの首輪。
 海上で島を取り囲んでいるという、武装した政府の監視船。
 無理だ。どう考えても脱出なんでできそうにない。と、雅史は愕然とするばかりだった。
「先生!」
 突然誰かが榊原に向かって言った。
沼川貴宏(男子17番)だった。
「武器の中に銃って本当にあるんですか?」
 貴宏が榊原に質問したことに雅史は心底驚いた。まさかこの雰囲気の中で、榊原に質問をする生徒などがいるとは考えてもいなかったからだ。実際、この教室に入ってから、榊原に質問をした者など一人もいなかった。
「なんだぁ、てめぇ! 銃撃ってみたいのかぁ?」
 榊原も少し驚いたのだろうか。貴宏に怒鳴るでもなく聞き返していた。
「撃ってみたい」
 貴宏がそう言ったことで、教室内が再びどよめいた。
 こいつは『やる気』だ!
 全員の頭の中にその考えが浮かんだのだろう。
「運がよければ最初から手に入るんだがな。まあ、運悪く手に入らなかったら、銃持ってる奴を殺して、それを奪えばいいだろ」
 榊原がそう言ったので貴宏はうなづいた。
 雅史は衝撃受けた。まさか自分のクラス内には、クラスメイトを殺せる無慈悲な奴なんていないだろうと、ほんの少しだけでも希望を抱いていたのだから。しかし、その想いはもろくも崩れ去ってしまった。
「てめぇ、ふざけんなぁー!」
 突然、長髪の男子生徒が席を立ったかと思うと、そのまま貴宏に飛び掛かった。その男子生徒は
飯田健二(男子2番)だった。


「お前は、銃が撃ちたいからと言って、そう易々と俺たちを殺す気なのか!」
 健二は我を忘れている。怒りで表情を歪ませ、今にも食いつきそうな勢いだ。
 健二は貴宏に飛び掛かって胸ぐらを掴み、全力を込めた拳を相手の顔面にぶつけた。小柄な貴宏は健二の放ったパンチ一発で吹っ飛んだ。
「大体てめーはいつもいつも、銃、銃ってうるせーんだよ!」
 健二が貴宏に再び飛び掛かろうとしたその瞬間だった。ドンと耳を劈くような破裂音が教室じゅうに響き渡ったのは。
 教室内を見回せば、その音の出所が何処であるのか一目瞭然だった。
 榊原の手に再び拳銃が握られていた。同時に、拳銃から再び一筋の煙が上がっていた。ただ今回は文月麻里のときとは違い、銃弾が貫通したのは壁ではなく、飯田健二自身の頭蓋骨であった。
 銃弾によって空けられた健二の後頭部の穴から、後方に何かが噴き出した。おそらく脳の一部だったのだろう。あまりにも無残な光景だった。
 銃弾が頭を直撃した飯田健二には、もう生命の気配は感じ取れなかった。この教室がまたもや血の海と化したのだ。
 健二の死にクラスの皆がおびえる中、貴宏だけが榊原が持っている拳銃を見て興奮していた。


 『飯田 健二(男子2番)・・・死亡』


【残り 44人】



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