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 雅史たちは必死に探していた。もちろん靖治達や、直美達のことである。
 雅史は大樹たちと合流して以来、4人で懸命に捜索を続けてきたが、靖治たちどころか、人っ子一人見かけることすらなかった。
 雅史は焦りはじめていた。2回目の放送から、今すでに一時間以上が経過している。早く見つけ出さなければ、本当に靖治達の命、そして自分たちの命も危ないのである。
 忍も懸命にあたりを慎重に見回している。しかし、直美たちも姿を見せることはなかった。
 大樹も協力して探してくれているが、それもなかなか実を結ばない。
 対して武はというと、完全に脅えきっており、下を向きながらトボトボとついてくるだけだった。雅史はそんな武にイライラしたが、そんなことでもめている場合ではないと思い、怒りを口に出すことはなかった。
 だが、雅史には別の不安もあった。万が一、探している者達を運良く見つけ出すことが出来たとしても、その後、このゲームからの脱出方法を考えることができなければ、状況は結局絶望的なことに変わりない。むしろ親友たちの間で裏切りが発生する恐れもある。もしかしたら“多人数での行動”は避けるべきなのかもしれない。
 雅史は大樹をちらっと見た。
 大樹はいったい何を考えているのだろうか?
 雅史を軽々と仲間に入れてくれたことには何か裏があるのかもしれない。もちろん大樹が口にしていた“多人数での行動の方がこのゲームでは有利”という考えも間違いではないと思う。だが、本当にそれだけのために手を組んだというのか?
 雅史はふと、恐ろしい考えを思いついてしまった。
 なぜ大樹は雅史たちと手を組んだのか。大樹は仲間を増やすことによって、グループの戦力を拡大し、最後に自分達のグループだけが生き残ったころを見計らい、隙を突いて最後に仲間達を殺害する。こうすれば、いとも簡単に自分が最後の一人になることが出来るのではないだろうか。
 何を考えてるんだ! なんで俺は、せっかく見つけることが出来た仲間を疑っているんだ。これじゃあ政府の奴らの思いのままじゃないか。
 雅史はとんでもない考えを思いつく自分に嫌気がさした。
「だめだ。人っ子一人いねえ」
 大樹がぼやいた。すると武が恐る恐る、
「ね…ねえ、ちょっと休憩しない?」
「何言ってるの! こっちは時間がないのよ!」
 忍が不服そうに言い返した。武は完全にビビり、肩をすくめてしまった。だが、武の言っていることも間違っているとは言い切れない。実際、雅史にも相当疲労が溜まっていた。なにせ深夜からずっと歩きまわっていたうえ、きちんと睡眠時間が取れていないのだ。疲れるのも無理はない。それを知ってか、大樹が意外な返事を返した。
「いや、今後どうなるか分からない。坪倉の言うとおり、一度休息を取った方が良いのかもしれない。確かにお前が急いでいる気持ちも分かるが、お前にも疲労は溜まっているはずだ」
「あたしは大丈夫よ!」
 しかし忍は意地でも休もうとはしない。状況が似ているために、その気持ちは雅史には痛いほど分かった。しかし、このまま休息を取らないと、自滅してしまう恐れもある。雅史もここは休息を取るべき出はないかと思った。
「新城さん。俺も少し休んだ方が良いと思うよ」
 忍と状況が同じ雅史までもがそう言ってきたことが意外だったようだ。忍は何も言い返してこなかったので雅史は続けた。
「それに疲れたままじゃ、後々、剣崎の足を引っ張ることになるかもしれないし、そうならないためにも俺も少し休憩を取っておいた方がいいと思うよ。
大丈夫だよ。戸川さんだって石川さんだって、そう簡単には死なないよ。それよりも新城さんの方も無事でいないと、どっちにしろ2人に会うことはできないよ」
 忍は少しの間黙っていた。しかし、雅史の言っていることを理解したのか、
「分かったわよ」
 そう言った。
「それじゃああの辺が良いな」
 大樹が示しているのは、この林の中でも一段と深い茂みに囲まれた場所であった。確かにあそこなら外敵に見つかる恐れも少ないだろう。4人は一応警戒しながらそちらへ移動し、大丈夫だと分かると安心して腰を下ろした。

「さて、少しの間順番に仮眠を取った方が良いだろうな」
 大樹はそう提案した。先ほども思っていたが、自分たちはしばらく、ろくに眠っていないのだ。今後この状態がいつまで続くか分からないので、確かにそうするのが無難かもしれない。雅史は反対しなかった。武はもちろん、忍ももう反対はしなかった。
「それじゃあ、見張りと仮眠を2人づつ順番に交代するとするか」
 再び大樹が提案した。これにも雅史は賛成であった。いくらこの場所が他の生徒に見つかりにくいとはいえ、絶対に安心できる場所というわけでもない。それに、この近くを靖治達が通りかかる可能性もあるのだ。そういう場合はこちらから声をかけなければ、こっちの存在に気づいてもらえない可能性が高い。そういう2つの理由で、周りを監視する見張り役は必要であろう。
 この意見にも全員が賛成した。
「で、順番はどうするの?」
 忍のその質問に、大樹は少し考えた。
「そうだな。先にお前と坪倉が眠っておけ。その間、俺と名城で周りを見張っておく。名城もそれで良いか?」
 雅史は特に不満はなかったので、その意見を受け入れた。
「俺はそれでいいよ」
「坪倉もそれで良いな!」
 大樹は武にはきつめの口調で聞いた。どうにも雅史に対してと、武に対しての大樹の態度が違う気がする。武のウジウジした性格が大樹は気に入らないのだろうか?
 何時の間にか一個所にまとめた4人分の荷物をガサゴソとあさっていた武がはっとして、「う、うん」と焦るように返した。
 雅史は武が4人の荷物をあさって何をしようとしていたのかが、少し気になったが、おそらく大した事ではないだろうと思い、あえてそのことには触れないことにした。
 この時の雅史は、それが間違った選択であったことなど知る由もなかった。


【残り 23人】



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