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 話の分かる者を見つけるために、林の中を歩き続けていた、柊靖治(男子19番)は、突然、銃声らしき音を耳にした。
 靖治は、その銃声がどちらから聞こえてきたのかを知るために、耳を澄ました。もう一度銃声が聞こえるかもしれないからだ。すると、すぐにもう一度、別の銃声が聞こえてきた。
 今の銃声が近くに感じられたことで分かった。この近くで銃撃戦が行われているのだ。
 靖治は、銃声が聞こえてきた方角が分かったので、急いでそちらの方に駆け出した。

 靖治は林を抜けた。するとそこには、広大な水田が広がっていた。
 水田とはいっても、島の住人は避難しており、作物を育てる人間がいないため、稲などは生えておらず、姿が見られる植物は、ぼうぼうに伸びた雑草ばかりであった。
 水田には、側の用水路によって引かれた水が、作物の無い水田に、無意味に流れ込んできていた。
 たしかに銃声はこのあたりから聞こえてきたはずだ。
 靖治はあたりを見回した。するとはるか遠方、田を分割している、水田より高くなっているあぜ道の後ろで、誰かが腹部を押さえながらしゃがみこんでいた。だがこの距離では、それが誰なのか知ることができない。
 靖治は、しゃがみこんでいる人の方に駆け寄ろうとした。しかしその時、また別の人物の存在に気づいた。しゃがみこんでいる人とは数十メートル離れた位置、水田の真ん中に、誰かが立っているのだ。ちょうど、しゃがみこんでいる人とで、あぜ道を挟むような位置にいるといえる。
 水田の中に立っている人が、少しずつ、しゃがみこんでいる人の方へ進んでいっている。すると、その人は突然、銃を発砲した。狙いは、あぜ道の後ろで腹部を抑えながらしゃがみこんでいる人のようだ。
 なるほど、しゃがみこんでいる人は、あぜ道を弾よけにするために、後ろでしゃがみこんでいたようだ。
 弾は当たらなかったらしく、今度はあぜ道の後ろでしゃがんでいた人が銃で反撃をしたが、そちらも相手には当たらなかったようだ。
 靖治は近づこうと思ったが、銃を持つこの2人の間に無防備に割り込むのは危険に感じた。
 しかし、靖治がその光景を見ているうちに、あることに気が付いた。あぜ道の後ろに隠れている人の方が、手で押さえている腹部から大量に出血しているように見えた。いままでの様子から察すると、おそらく被弾したのだろう。近づくのは危険かもしれないが、このままほうっておくと、あの人の命も危ない。
 靖治に決心がついた。危険を承知でその人の方へ駆け出した。
 その間にも、2人の間では銃撃戦が繰り広げられていた。しかし、それが幸いし、2人は靖治の存在に気付くことはなかった。
 しゃがみこんでいる人との距離がかなり縮まった。そしてそれが誰であるのか分かった。あの、髪を後ろの方で、2箇所結んでいる女子は、間違いなく、
中井理枝(女子15番)である。
 裕福な家庭で育っている理枝は、少しワガママなところがあり、靖治が苦手とするタイプであった。しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。近づいてみて分かったが、理枝の怪我はかなりの重傷のように見える。なんとか怪我の手当てをしなければ、放っておけば命に関わるかもしれない。
 靖治は、もう理枝のすぐ側まで来ていた。そのときに、やっと理枝も靖治の存在に気がついたようだった。
「柊君」
 理枝は突然滑り込んできた靖治に驚いた。
「中井さん、その怪我は大丈夫か?」
 靖治は一番気にしていたことを聞いた。しかし、理枝の表情は苦痛に歪んでおり、とても大丈夫そうには見えない。出血も思っていた以上にひどく見えた。
「全然大丈夫じゃないわ。でも今はとにかく、あいつを倒さないと」
 理枝は靖治には全く警戒心を持っていないようであった。とにかく目の前の敵を倒す事が先決であると決め込んでいるようだ。
 靖治は水田の中心に立つ人物を見た。
森文代(女子21番)が銃をこちらに向けていた。
「危ない!!」
 靖治が理枝と共に後方へ倒れこんだ。頭上を弾丸が通過していった。
 靖治も理枝も、水田の中にモロに倒れこんでしまった為に、全身ずぶ濡れになってしまっていたが、すぐに体制を立て直した。
「森さんか!」
「ええ、あいつがいきなり発砲してきたのよ。なんかシュン君に会うんだとかなんとか言いながら撃ってきたわ。絶対に許さないんだから」
 理枝が再び反撃に出た。理枝は銃、『ジグ・ザウエル』の弾が切れるまで連射した。だが文代には全く被害は無かったようだ。
 全弾はずれた。
「だめか!?」
 理枝は苛立ちながら言った。表情は険しいままだ。
 靖治はなんとかして2人を止めたかった。しかし、今の理枝の怒りはおさまりそうにない。
「シュン君に会うんだ〜!!」
 文代が叫びながら発砲した。
 だめだ。森さんも止まりそうにない。
 靖治の力では、手の施しようがなかった。
 そうこうしているうちに、文代はかなり近くまで迫ってきていた。その距離はもうわずか十数メートルといったところだ。
「今だ!! この距離なら当てれる!」
 理枝が叫んだ。
 理枝の小さな手の中から、ジグ・ザウエルが火を噴いた。



【残り 25人】



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