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−暁の空に響く戦慄(2)−

 第一回目の定時放送は、現在生き残っている生徒たちを絶望の底へと突き落とすのに、十分すぎるといった内容だった。
 たった六時間で十人ものクラスメートが亡くなり、そしてそれは、殺人に手を染めた者がいることをも意味している。
 そんな衝撃的な事実を突きつけられてなお平静でいられるほど、齢十五に過ぎない、まだ幼い少年少女達の心は頑丈ではない。
 当然の如く、おおよそ沖田秀之が予想していた通り、事実を知ったばかりの級友たちの多くが、大きく精神を揺さぶられていた。

 鷲尾健介(男子二十四番)は、放送を聞いたことによってある種の決意を固めた一人だった。
 山中に転がる大岩の隙間に身を潜ませ、林間学校にこっそり持ち込もうとしていたスマートフォンを弄っている。朝日を遮られた薄暗い空間で、泣きホクロが特徴的な男の顔をディスプレイの淡い光が照らし出す。
 太い眉の間にしわを寄せたまま口端を吊り上げて、それはたいそう醜悪な笑みだった。
 彼が見ている画面に映し出されているのは、同じクラスの女子たちの姿。スマートフォンのカメラで撮影された画像ではあるが、どれも目線がこちらを向いておらず、本人の了承を得ずにこっそり撮られたものに違いなかった。
 映されているのは特定の人物ではなく、隙を見せた者を見境なしに収めたといった感じらしい。数人が集まって談笑している場面や、壁にもたれかかりながら携帯電話を操作している際の横顔。中には椅子に座っている正面から撮られ、スカートの隙間から白い下着が見えているという、酷い画像を撮られている者もいた。
 それらを順々に、まるで品定めするかのように眺めながら、健介は舌舐めずりする。
 元々はプログラムに巻き込まれながらも、人を殺めることには踏み切れなかった彼だったが、先程の放送が意識を変えた。
 やる気になっている人間はいる。ならば、やられる前に自分がやらなくてはならない、と。
 そしてどうせやるのなら、思う存分好き勝手にやればいい、とも考えた。
 今はプログラムの最中なのだ。何者も俺のやることを咎めはできない。
 短めの髪を半ば無理やりに七三に分けた頭を後ろに倒し、思う存分に妄想にふける。
 頭の中に浮かぶのは当然クラスの女子の姿。一人一人順に思い出しては、彼の好みによって選別されていく。
 若林は騒がしいところが玉に瑕なんだが、顔は割と可愛いし、ありっちゃありだな。津田は……正直あんまし好みじゃねぇな。身体も華奢いし。だったらまだ森川とかのほうが胸もあるし、ツラさえ気にしなければ楽しめるかもな。しかしやっぱ、どうせ犯すなら極上の女でいきたいわな。それこそ姫と謳われている千銅とかと一発ヤれれば最高なんだがな――。
 どうせ死にゆく者達なんだから、その前に性的な暴行を加えても構わないだろう、というのが彼の考えであった。
 思春期の男子らしい、衝動的で単純な発想であったと言ってよいかもしれない。人一倍性に対する関心が高い彼に限らず、今までにプログラムに巻き込まれてきた全国の男子中学生の多くが、このような考えに行き着いてきたことだろう。


「へへっ、大瀧に根来も早速死にやがった。普段からカップルでイチャつきやがって、正直ウザかったんだわ。ざまぁみやがれ」
 健介のスマートフォンのカメラは、二人並んで下校している大瀧豪(男子三番)須王望(女子六番)カップルの姿や、放課後の教室で抱き合っている田神海斗(男子十六番)根来晴美(女子十三番)カップルの姿をも捉えていた。今それらを眺めていたら、顔が自然とにやけてきて抑えられなかった。
 大瀧のお古に手を出すってのは癪だが、須王クラスの女なら中古とはいえ価値はあるわな。根来はどうせ廃車寸前まで使い込まれていただろうから、死んでくれていて結構。はい、さよーならー。んで、それ以外だと、市川……まあ体型は好みだが、体力ありそうだから抵抗されたりしたら厄介そうだな。その点ビッチ藤田とかだったら、むしろ向こうから股開いてくるんじゃね? あーでもちょっと抵抗されたりしたほうが俺燃えそうだなー。森下あたりが嫌がっているところを無理やり……とか、考えてるだけでヤベーな――。
 スマートフォンの画像を次々と切り替えながら、だんだんと妄想をエスカレートさせていく。

 鷲尾健介――、沖田秀之からは警戒レベルとして見られていた男子生徒。
 その特性は、異常な性欲の強さ。性への欲求が高ぶったとき、冷静さを欠いて攻撃的な一面を覗かせる。


【残り四十一人】

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