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「ねえ、淳子はどうしたの?」
 直美美咲にたずねると、突如美咲は黙り込んでしまった。
「美咲。あんた淳子と会ったの?」
 隣から
智里が少し質問を変えてたずねた。すると美咲は少しの間うつむいたままでいたが、顔を上げて少しずつ話し始めた。絵梨果はその話にじっくりと耳を傾けた。
「あたしは分校を出発した後、次の次に出発する淳子を外で待とうと思ったの。でも、淳子が出てくる2分前には、淳子よりも先に辻本君が出てくるでしょ」
 辻本創太(男子12番)のことだ。
「あたしは辻本君のことは善人だと思ってるし、たぶん彼は殺し合いには参加しない人間でしょうね。けど万が一のことを考えて、私はいつものメンバー以外とは、特に男子とは会わないようにすることにしたの。
 だからあたしは出発した直後、分校を出てすぐにあった林の茂みの後ろに隠れた。そうしたら辻本君も私に気が付くこともなくどこかに歩いていったわ。あたしは安心して再び分校の入口の前に移動したの。そこで淳子が出てくるのを待つために。ちょっとしたらすぐに淳子は出てきた」
「会えたんだね」
 直美がすかさず口を挟んだ。美咲もそれにうなずいた。
「あたしはすかさず淳子に歩み寄って言ったの。『一緒にみんなを探そう』って。でも淳子はそれに応じなかった…。淳子は私達と行動することを拒否したの…」
 直美は当然のことながら、智里もその話を聞いて呆然としていた。もちろん絵梨果もだ。
「なんで…? 淳子はなんで、私達と一緒にいたくないって思ってたの?」
 直美が美咲にくってかかるようにたずねると、美咲は再び絞り出すように話し出した。
「あたしももちろん淳子にその理由を聞いたよ。そしたら淳子こう言ったの。『彼を探しに行く』って…」
「加藤君ね。」
 智里が言った。加藤とは同じクラス3年A組の男子、
加藤塔矢(男子4番)のことである。
 塔矢と淳子は2年の2学期から付き合い始めたカップルなのだ。あの2人の仲の良さに関しては絵梨果もよく知っていた。あの2人はクラスの誰もが羨むような、絵に描いたようにお似合いのカップルであった。
「確かに淳子が加藤君に会いたい気持ちは分かる。でも…でも…」
 直美も淳子の気持ちは察していたが、それでも何かが納得出来なかったようだ。
「淳子はその後泣きながらこう言ったの。『もしみんなに会えたらこう伝えてくれる? 私はもうみんなに会えないかもしれない。本当にごめんなさい』って…」
 美咲も話し終える頃には、目に涙をうっすらと浮かべているようだった。
「それが淳子が見つけた答えなんだよ。直美。私は別に淳子の考えは間違っているとは思わないよ。
 たしかに、淳子が私達よりも加藤君を選んだことは残念だけど、きっと淳子も悩んだんだと思うよ。だから泣いてたんだよ」
 智里が直美にむかってやさしく言った。絵梨果にはその時の智里の口調は、今までかつて無いほどのやさしい口調に聞こえた。
「淳子…」
 直美がつぶやいたのを最後に辺りに沈黙が訪れた。4人はその場に座り込んだまま誰も口を開こうとはしなかった。
 絵梨果は、こんな時にこの場にムードメーカーの淳子がいたら、どんなにみんなを元気づけようとしてくれるだろうかと、つい思ってしまった。しかしここには淳子はいないのだ。

「私、ちょっとトイレ行って来る…」
 突然直美が暗い表情のまま立ち上がった。突然の直美の発言に絵梨果以外の2人も動揺していた。
「直美。一人で行ったら危ないよ。もし誰かに襲われたりしたら…」
 美咲が当然の意見を投げかけた。
「そうよ。ろくな武器も持たないで一人で行くなんて危険よ」
 智里も意見するが直美はそれも聞かずに行こうとした。そこで絵梨果は直美に近づいてあるものを差し出した。
「直美、どうしても一人で行くんだったらこれ持って行ってよ」
 そう言って絵梨果が直美に差し出した物は、絵梨果に支給された銃、『ハイスタンダート・デリンジャー』であった。
「絵梨果…。気持ちは嬉しいけど、これは受け取れないわ。これがなかったら今度は絵梨果が危険だし。ちょっとトイレに行くだけなんだからこんなの受け取らなくても…」
「大丈夫よ。こっちには美咲のレーダー。それに智里のショットガンがあるんだから」
 絵梨果は直美の言葉を遮って銃を無理矢理渡した。
「…絵梨果…分かった、ありがとう…」
 直美は絵梨果に深く礼を言うと、銃を受け取って森の中へと入っていった。
「あんたも言うようになったね」
 智里が絵梨果に言った。その顔はまるで我が子の成長を見守る母親のように、なんだか喜んでいるように見えた。
「きっと直美も少しの間一人になりたかったんだと思うんだ。かけがえのない一番の親友を、親友の彼に奪われてしまった直美は、たぶん私達よりもショックだったんだと思う」
 絵梨果は自分でも驚くくらい恥ずかしい言葉を口にしている自分に気が付き、直後急に顔を真っ赤にしていた。
「あたしは絵梨果のやったことは正解だったと思うな」
 美咲も薄く笑みを浮かべながら喜ぶように言った。
「そうそう、よく言ったよ絵梨果」
 智里が再び絵梨果に向けてやさしく言ってくれた。絵梨果はなんだか照れくさくなった。
 ああ、そうだ、私のまわりには、こんなにも優しい仲間がいるんだ。確かに淳子に、私達よりも彼の方を選ばれてしまったことは残念だけど、私はそれでも淳子のことが大好きだ。直美だって、いつも私と仲良く優しく接してくれた…。そうだ、悲しむことなんて何もない。私はもう大切な物は手に入れているのだ。
「ねえ。直美が帰ってきたら今度は忍を探しに行かない?」
 智里が
新城忍(女子9番)の名前を出した。今のところ、このグループのメンバーの中で彼女だけは唯一、出発以降の消息が全く不明のままなのだ。
「見つかるかな…?」
 絵梨果はちょっと不安だった。移動する途中、だれかと遭遇する可能性が高いからだ。他の生徒との遭遇は戦闘になる恐れもあり、あまりにも危険だ。
「大丈夫よ。美咲のレーダーもあることだし」
 確かにそうかもしれない。レーダーさえあれば、どこで生徒と遭遇するのかが事前に分かる。先にこちらが相手の存在に気が付けば、ある程度近づいて相手が誰なのかを確認しても、戦闘を避けることが出来る可能性は高い。100パーセント大丈夫とはいえないが、無いよりは、かなり安心できるだろう。
 美咲も智里の意見に反応してレーダーに目を向けた。すると同時に驚きの表情に変わった。
 態度のおかしい美咲に気が付いた絵梨果は、急いで美咲のレーダーを覗き込んで驚いた。先ほどまで画面に4つしかなかった点が5つに増えているのだ。
 画面の端にある点がおそらく直美で、画面真ん中に集まっている3つの点が絵梨果と智里と美咲なのであろう。
 じゃあ、私達のすぐ側にあるもう一つの点は…?
 絵梨果は画面が表示しているもう一つの点の方向を振り向いた。同時にその方向から何か缶のような物が飛んできた。そしてその缶のような物は3人のちょうど真ん中で地面に当たった。



【残り 38人】



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