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 上原絵梨果(女子2番)
は全くしゃべらなかった。喋る気力がないのだ。元々、気の小さい絵梨果は、仲良しグループの中でも最もおとなしい存在であった。そんな絵梨果がこんな殺し合いゲームに放り出されて、まともに喋ることなど出来るはずがなかった。
 完全に怯えきった絵梨果は意気消沈していた。
「絵梨果、大丈夫?」
 すぐとなりに座っていた眼鏡をかけた女生徒、
石川直美(女子1番)が心配して話しかけてきた。
「う、うん…。だいじょうぶ…」
 絵梨果は無理矢理作った笑顔を見せながら言ったが、まわりから見ていると、どう見ても大丈夫には見えなかった。
「絵梨果、無理しなくていいんだよ」
 ちょっと気の強い性格の持ち主である
小野智里(女子3番)が言った。
 そうだ、雅史が考えていたとおり、出席番号が並んでいるこの仲良しグループのメンバーの3人は集まっていたのだ。
 女子の中では一番最初に出発した直美が、次の絵梨果が外に出てくるのを待ち、絵梨果が出てきたあと、今度は入口近くに2人で身を潜ませ、奥村秀夫をやり過ごしたあとに、再び出入口から出てきた智里と合流したのだった。
 そして雅史が考えていたとおり、集まることが出来たのは、出席番号が近いこの3人だけであった。
「べ、別に無理してるわけじゃないよ…」
「あんたねぇ。私達に心配かけないように気を使ってるのかもしれないけど、そういう演技はよしなさいよ」
「智里、ちょっと落ち着こうよ。絵梨果も私達のことを考えてそう言ってくれてるんだから」
 イライラと話す智里をなだめるように直美が口を挟んだ。
 よく「類は友を呼ぶ」というが、この仲良しグループには、その言葉は相応しくなかった。なんせこのグループのメンバーは性格があまりにもバラバラだからだ。今の3人だけ見ても一目瞭然だが、このほかの3人も性格は全くバラバラであった。しかしどこかこの6人はうまが合ったらしく、自然と仲良くなっていった。もう中一以来の付き合いだ。
「ねえ、淳子達とはなんとか合流できないかな?」
 直美が話題を変えた。
「この島も広いからね。淳子達と会うよりも他の誰かに会う可能性の方が高いわけだし、探すのも安全とは言えないわね」
 直美と智里が意見を交わしているが、絵梨果にはその話に入っていく気力すらなかった。
 不安だ。もしかしたら私達は3人だけで、このまま死んでいくのだろうか? それともこの中の誰か一人だけが生き残るのだろうか?
 嫌な考えばかりが次々と絵梨果の頭の中を支配していく。絵梨果は自分に支給された、手の中に収まるくらいの小型の銃『ハイスタンダート・デリンジャー』を握りしめた。
 ちなみに智里の傍らにはショットガン『レミントンM31RS』が置かれている。
 直美の武器は手裏剣で、全く役に立ちそうにない。
「私嫌だよ。家にもう帰れなくて、家族にももう会えなくて、もう淳子や美咲とも忍とも会えないまま死んじゃうなんて…」
「大丈夫だって。だから泣くな」
 今にも泣きそうになっている直美をなだめるように智里が言うが、当の智里も泣きそうになっているように見えた。
 そうだよ。みんな怖いんだ。
 絵梨果はまた感情がこみ上げてきたが、自分の目から流れ出した涙には全く気づかなかった。
 もうみんなでいっしょに生き残るという道は残されていないのだ。良くても一人が生き残り、悪ければ全員死ぬ。もう絶望への道しか残されていないのだ。
「みんな…?」
 突然、絵梨果の後ろから声が聞こえた。
 驚いた絵梨果は振り向いた。他の2人もサッとそっちを見た。するとそこには
椿美咲(女子11番)がいた。驚きの3人は歓喜の声を上げた。
「美咲ぃ!!」


 3人の声は見事にハモった。
「よかったー!もう会えないかと思った!」
「美咲ぃぃぃぃ!!」
 突然出会えた喜びを分かち合うようにみんなで抱きしめ合った。こんなに嬉しかったのは生まれて初めてかもしれない。とにかく再び会えたことに大変嬉しかった。
「これに頼って来て正解だったよ」
 そういって美咲が見せた物、リモコンのような四角い物で、何か画面のような物が付いており、そこには4つの点が表示されていた。
「もしかして、それレーダー?」
「うん、どうやらこれがあたしの武器らしいの。それでこの画面に、どこに生徒がいるのかが表示されるの。それが誰なのかは分からないけど、これに3人が集まってるのを見て、もしかしたら直美達かもしれないと思って来てみたの」
 確かに画面には点が4つ表示されている。つまりこの点は絵梨果、直美、智里、そして美咲の4人を表しているのだろう。なるほど、美咲がここを発見出来た理由が分かった。
「本当に会えるなんて思ってなかった」
 みんなが喜んでいる中、直美が聞いた。
「そういえば淳子は美咲の次の次のスタートだったよね? ねえ、淳子には会えなかったの?」
 同じ仲良しグループの一員であり一番のお調子者、
戸川淳子(女子12番)のことだ。直美はその相方のような存在であったため、これは当然の質問だったであろう。
「ねえ?」
 だがその質問を聞いて、美咲は何故か黙り込んでしまった。



【残り 38人】



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