20 上原絵梨果(女子2番)は全くしゃべらなかった。喋る気力がないのだ。元々、気の小さい絵梨果は、仲良しグループの中でも最もおとなしい存在であった。そんな絵梨果がこんな殺し合いゲームに放り出されて、まともに喋ることなど出来るはずがなかった。 完全に怯えきった絵梨果は意気消沈していた。 「絵梨果、大丈夫?」 すぐとなりに座っていた眼鏡をかけた女生徒、石川直美(女子1番)が心配して話しかけてきた。 「う、うん…。だいじょうぶ…」 絵梨果は無理矢理作った笑顔を見せながら言ったが、まわりから見ていると、どう見ても大丈夫には見えなかった。 「絵梨果、無理しなくていいんだよ」 ちょっと気の強い性格の持ち主である小野智里(女子3番)が言った。 そうだ、雅史が考えていたとおり、出席番号が並んでいるこの仲良しグループのメンバーの3人は集まっていたのだ。 女子の中では一番最初に出発した直美が、次の絵梨果が外に出てくるのを待ち、絵梨果が出てきたあと、今度は入口近くに2人で身を潜ませ、奥村秀夫をやり過ごしたあとに、再び出入口から出てきた智里と合流したのだった。 そして雅史が考えていたとおり、集まることが出来たのは、出席番号が近いこの3人だけであった。 「べ、別に無理してるわけじゃないよ…」 「あんたねぇ。私達に心配かけないように気を使ってるのかもしれないけど、そういう演技はよしなさいよ」 「智里、ちょっと落ち着こうよ。絵梨果も私達のことを考えてそう言ってくれてるんだから」 イライラと話す智里をなだめるように直美が口を挟んだ。 よく「類は友を呼ぶ」というが、この仲良しグループには、その言葉は相応しくなかった。なんせこのグループのメンバーは性格があまりにもバラバラだからだ。今の3人だけ見ても一目瞭然だが、このほかの3人も性格は全くバラバラであった。しかしどこかこの6人はうまが合ったらしく、自然と仲良くなっていった。もう中一以来の付き合いだ。 「ねえ、淳子達とはなんとか合流できないかな?」 直美が話題を変えた。 「この島も広いからね。淳子達と会うよりも他の誰かに会う可能性の方が高いわけだし、探すのも安全とは言えないわね」 直美と智里が意見を交わしているが、絵梨果にはその話に入っていく気力すらなかった。 不安だ。もしかしたら私達は3人だけで、このまま死んでいくのだろうか? それともこの中の誰か一人だけが生き残るのだろうか? 嫌な考えばかりが次々と絵梨果の頭の中を支配していく。絵梨果は自分に支給された、手の中に収まるくらいの小型の銃『ハイスタンダート・デリンジャー』を握りしめた。 ちなみに智里の傍らにはショットガン『レミントンM31RS』が置かれている。 直美の武器は手裏剣で、全く役に立ちそうにない。 「私嫌だよ。家にもう帰れなくて、家族にももう会えなくて、もう淳子や美咲とも忍とも会えないまま死んじゃうなんて…」 「大丈夫だって。だから泣くな」 今にも泣きそうになっている直美をなだめるように智里が言うが、当の智里も泣きそうになっているように見えた。 そうだよ。みんな怖いんだ。 絵梨果はまた感情がこみ上げてきたが、自分の目から流れ出した涙には全く気づかなかった。 もうみんなでいっしょに生き残るという道は残されていないのだ。良くても一人が生き残り、悪ければ全員死ぬ。もう絶望への道しか残されていないのだ。 「みんな…?」 突然、絵梨果の後ろから声が聞こえた。 驚いた絵梨果は振り向いた。他の2人もサッとそっちを見た。するとそこには椿美咲(女子11番)がいた。驚きの3人は歓喜の声を上げた。 「美咲ぃ!!」 3人の声は見事にハモった。 「よかったー!もう会えないかと思った!」 「美咲ぃぃぃぃ!!」 突然出会えた喜びを分かち合うようにみんなで抱きしめ合った。こんなに嬉しかったのは生まれて初めてかもしれない。とにかく再び会えたことに大変嬉しかった。 「これに頼って来て正解だったよ」 そういって美咲が見せた物、リモコンのような四角い物で、何か画面のような物が付いており、そこには4つの点が表示されていた。 「もしかして、それレーダー?」 「うん、どうやらこれがあたしの武器らしいの。それでこの画面に、どこに生徒がいるのかが表示されるの。それが誰なのかは分からないけど、これに3人が集まってるのを見て、もしかしたら直美達かもしれないと思って来てみたの」 確かに画面には点が4つ表示されている。つまりこの点は絵梨果、直美、智里、そして美咲の4人を表しているのだろう。なるほど、美咲がここを発見出来た理由が分かった。 「本当に会えるなんて思ってなかった」 みんなが喜んでいる中、直美が聞いた。 「そういえば淳子は美咲の次の次のスタートだったよね? ねえ、淳子には会えなかったの?」 同じ仲良しグループの一員であり一番のお調子者、戸川淳子(女子12番)のことだ。直美はその相方のような存在であったため、これは当然の質問だったであろう。 「ねえ?」 だがその質問を聞いて、美咲は何故か黙り込んでしまった。 【残り 38人】 トップへ戻る BRトップへ戻る 19へ戻る 21へ進む |
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