22


 他の3人と一時的に離れた直美は林の中にひとりで立っていた。
 絵梨果たちにはトイレに行くと言ったが、別にトイレに行きたくなったわけではなかった。少しの間、一人になって考えたかったのだ。淳子のことだ。
 淳子と中学一年の時から、一番仲が良かったクラスメイトは直美であった。もちろん直美は他の友達も大切だったが、その中でも淳子は別格だったのだ。
 直美と淳子は毎日のように一緒に行動を共にしてきた。大好きだったのだ。淳子のことが…。
 だがある時、淳子に彼氏が出来た。塔矢である。
 直美は淳子に彼氏が出来たということはなんら不思議に思ってはいなかった。淳子は積極的で明るくて行動力がある。自分なんかよりもずっと異性に好かれるタイプであることは理解していた。だからいつかこんな日が来るかもしれないと、かなり前から考えたことがあった。
 だが実際にその日が来ると、いくら昔から身構えていたこととはいえ悲しかった。淳子と塔矢が一緒になることに嫉妬しているなどではない。何が悲しかったか。それは淳子と直美の距離が開いてしまったということであった。
 もちろん淳子が、直美のことを嫌いになったというわけではない。ただ淳子が今まで直美と一緒にいた時間のうち大半が、塔矢と一緒にいる時間に変わってしまった。直美はなんだか塔矢に淳子を奪われてしまったように感じたのだ。
 淳子は一番の親友だったのだ。だが淳子が自分から離れていってしまったように感じた直美は当時かなり苦しんだ。
 長い間苦しんだ末、直美はやっと淳子を応援してやれるくらいまで落ち着いた。
 そうだ、親友である自分が、淳子を後ろから支えてやらなければならないんだ。
 それ以来、直美はいつも淳子と塔矢の仲をサポートし続けた。そんな直美に淳子は感謝してくれていたようだった。直美もいつしか、淳子と塔矢の仲が良いと、自分まで嬉しくなってくるように感じるまでになっていた。
 当然だった。親友である淳子が幸せだということは、それは私の幸せでもあるのだから…。
 だから私は淳子が塔矢君の所に行ってしまったことは何ら悲しくはない。ただもう二度と会えないかもしれないという事実が悲しいのだ。
 それは淳子も同じ気持ちだったのだろう。美咲の話では淳子は泣きながら『もう会えないかもしれない。本当にごめんなさい』と言っていたのだ。
 もちろん私は生きている内にもう一度淳子に会いたい。でもそれよりも今の私は、淳子が塔矢君に無事に会えるように祈ってあげることが大切だ。
 心からそう思った。
 あまり遅くなったらみんな心配するかな。
 そう思った直美はそろそろ絵梨果達の所に戻ろうと思った。だがその時、背後からものすごい音、爆発音らしき轟音が轟いた。
 背後…。まさか!?
 直美は急いで爆発音が聞こえた方向へ走りだした。なぜなら絵梨果たち3人がいたのはそっちの方角だったからだ。
嫌な予感が直美の頭の中をよぎった。
 もうすぐだ。
 3人がいた場所のすぐ近くまで来た。辺りの様子がおかしいことはすぐに分かった。
 砂埃が舞い上がり、周りの木は枝が折れており、辺りは火薬らしき匂いに包まれていた。
 あの茂みの向こうに3人ともいたはずだ。
 直美は茂みの上から覗き込んだ。そして愕然とした。そこには体から引きちぎられたかのように、地面に転がっている人の手があった。手だけではない。
 革靴を履いた右足。
 靴下を履いたままの左足。
 腕時計を巻いたままの左腕。
 親指が吹き飛んでいる左手。
 手足が全部無くなった胴体。
 そして地面に転がっている頭。
 バラバラだ…。3人ともバラバラになっているのだ。直美の足下には両足が無くなっている智里がいた。もう息はしていないが、虚ろな瞳が直美の方をじっと見つめていた。


「智里ぉ!!」
 直美は智里の体を抱き上げて泣きついたが、智里はもう直美には何も言い返しては来なかった。
「絵梨果ぁ!! 美咲ぃ!!」
 首だけになってしまった絵梨果や、頭が完全に陥没してしまっている美咲にも近寄って泣きついたが、当然3人とも二度と口を開くことはなかった。

 そのころ3人に向かって手榴弾を投げつけ、そして3人の生命を奪った本人である
吉本早紀子(女子22番)が、智里のショットガンと、美咲のレーダーを持ち、すでに去っていってしまったことなど直美は知る由もなかった。
 直美は3人の亡骸にすがりついて、ただ泣き続けていた。



 『上原絵梨果(女子2番)・・・死亡』

 『小野智里(女子3番)・・・死亡』

 『椿美咲(女子11番)・・・死亡』



【残り 35人】



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