19


 林の中を一人歩く姿があった。彼の名前は柊靖治(男子19番)。そう、名城雅史の親友の一人だ。
 分校を出発してから、かなりの時間が経っているのにもかかわらず、彼も雅史と同じく、仲間になれるような、話が分かるクラスメイトとは、いまだに出会えてはいなかった。と言うよりも、彼は分校を出発して以来、誰にも遭遇すらしていなかったのだ。つまりはこのゲームに乗ってしまった生徒にもまだ出くわしていない。そのせいか、彼はまだ冷静に思考を働かせ続けることが出来ていた。
 彼の目的は、とにかく話の分かるクラスメイトに出会い、そして共に脱出する方法を見つけだすということだった。考えていたことは雅史とまったく同じである。
 もちろん靖治が一番信用できる人物と言えば、雅史、それから
杉山浩二(男子11番)、それに桜井稔(男子9番)であるのだが、話が分かるクラスメイトとなら誰とでも会えればいいと思っていた。
 しかし先ほど、どこかから銃声らしき音が聴こえてきた。もちろんその銃声とは
富岡憲太が銃を撃ったときのものだ。しかし当然、靖治には銃を撃った人物が誰であるのかなど知る由もなかった。ただこのゲームに乗ってしまったクラスメイトが存在することは分かった。
 クラスメイトの中に、殺し合いに参加してしまった生徒がいることが分かった以上、誰かに出会ったとしても不用意に話しかけることは危険だ。話しかけようとした相手が襲いかかってくる可能性があるからだ。相手の武器によっては、こんな物ではまったく対抗できないであろう。
 靖治はディパックに入っていた武器、包丁を握りしめた。
 難しいことになってきたな。何とかして安全に仲間を集める方法はないだろうか?
 靖治は優秀な頭脳をフル回転させて考えてみたが、こんな体験などしたことがない靖治にとっては、前例のない難問であった。
 やはり一番手っ取り早いのは、雅史か浩二か稔の三人のうちの誰かに出会うことだ。
 靖治はそう結論づけた。
 そうと決まれば、とにかく歩いて雅史達を見つけようと考えた。靖治は他の生徒に見つかりにくいよう姿勢を少し低くし、足音にも気を付けながらゆっくりと歩き始めた。
 もうすぐ夜が明ける時間だとはいえ、林の中はまだ真っ暗闇で視界が悪い。少し歩いては、前後左右に誰かがいないかどうかを慎重に確認しながら、ゆっくりと歩いた。
 真っ暗な林の中は本当に不気味であった。立っている木のひとつひとつの後ろ側に、何者かが隠れているということも考えられる。そして靖治に襲いかかってくるかもしてない。そう考えると、全く恐れないというわけにはいかなかった。
 前方に立っている大きな木も不気味に感じ、とにかく全ての木から一定の距離を離しながら前へ前へと歩いた。
 歩いていると、ふと視界に奇妙な物が入った。かなり前方の一本の木の枝から、何かがぶら下がっているのである。しかし、まだその木とは距離があるうえ、林の中の暗さのせいで、そのぶら下がっている物の正体はまだ分からなかった。
 もっと近づいて見たら何か分かるかもしれない。
 靖治は少しだけ、歩くスピードを上げてその木に近づいていった。ある程度近づいたときに、そのぶら下がっている物の正体が分かった。人間の体だ。
 まだそれが誰の体であるかは分からなかったが、セーラー服を着ているのは確認できたので、女子の誰かであるということは分かった。
 靖治はさらに近づき、ついに木の根本にたどり着いた。
 木の根本にたどり着いた靖治は、枝にぶら下がっている女子を見上げた。
戸口彩香(女子14番)だった。


 彩香の首には枝からまっすぐに延びたロープが巻き付いていた。首を吊っている状態だ。
 くそっ!自殺か!
 靖治は自分がよく知っているクラスメイトの一人が、自分の目の前で、こんな姿でいることに愕然とした。だが、もしかしたら彩香はまだ息があるかもしれない。靖治は荷物を全て木の根本に置き、幹によじ登って枝からロープをほどき、彩香の体を地面に寝かせた。そして彩香の息があるかどうかを確かめようとしたが、すでに彩香の体は冷たくなっており、死んでいることは明らかであった。
 戸口さん…。
 靖治はべつに彩香と特別親しかった訳ではなかったが、クラスメイトの死に出くわして悲しまずにはいられなかった。
 靖治は彩香の今も見開き続けている目を閉じさせてやり、彩香に向かって両手を会わせた。
 戸口さん。俺、もう戸口さんみたいにクラスのみんなを無駄に死なせたくない。だから、だから俺。みんなに戦いをやめるように伝えるよ。そしてみんなで生きて帰る。
 だって3年A組は全員仲間じゃないか…。
 靖治の目尻から透き通った涙が流れ出た。


 『戸口彩香(女子14番)・・・死亡』


【残り 38人】



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