13


 まだ顔が痛い…。
 沼川貴宏(男子17番)は出発前に飯田健二に殴られた自分の顔をさすった。この痛みだと痣ができているかもしれない。けどそんなことは貴宏にしては大した問題ではなかった。問題は自分に支給された武器の方だ。
 貴宏は出発して分校を出たとたん、すぐにデイパックを開けて武器を確認した。もちろん銃が入っているのかどうかを確認するためだった。しかし、期待ははずれ、中に入っていたのは銃でも何でもなく、ただの斧であった。
 銃マニアの貴宏が欲しかったのは、もちろん銃オンリーだったので、斧が出てきたときはかなりがっかりだった。
 銃…。銃…。銃…。
 貴宏の頭の中では、「銃」という言葉のみがグルグルと回っていた。

 ちょうど貴宏が出発して直後の頃に、林の中で男子生徒同士が言い争う声が聞こえてきた、声の質からしておそらく名城雅史と奥村秀夫
だったと思う。
 貴宏はその声が聞こえたとき、もしかしたらその二人のうち、どちらか一人でも銃を持っている可能性があるかもしれないと考え、それ欲しさに声のした方向へ急いで移動した。だが二人はどこかへ走って行ってしまったらしく、貴宏がその場に着いた頃にはすでにその姿は無かった。
 しばらくするとまた男子生徒同士の言い争う声が聞こえ、何かが回転するような機械音が聞こえたかと思った瞬間、男子生徒達の言い争う声は途切れた。
 貴宏がまた言い争う声が聞こえた方に移動すると、今度は男子生徒の姿があった。ただしその男子生徒は地面に倒れており、体には首から上、つまり頭がなかった。周りを見たところ頭などは転がっていなかったので、茂みの中に頭が転がっているなんて事を知らない貴宏には、まるでこの男子生徒の首を切断した誰かがその頭を持ち去ったように思えた。
 頭の無くなった男子生徒の体の脇には重そうなハンマーが転がっていたのが見えたが、貴宏はハンマーなどには興味がなかった。
 欲しいのは銃だけ…。
 貴宏は一度も地図など見ることなく闇雲に林の中を進んだ。あまりどこに移動しようかなどと深く考えてはいないのだ。
 林の中を歩き続け、誰か銃を持った生徒に遭遇できればそれでよいのだ。だがそう思って歩き続けていても、一向に他の生徒の姿すら見かけることがなかった。貴宏はそうなって初めてデイパックから地図を取り出したが、地図といくらにらめっこをし続けても自分の今現在の居場所すら分からなかった。しかしそのことに焦りなどは感じなかった。
 貴宏はコンパスと地図の方角を照らし合わせてみる事を忘れていたことに気がついたので、今度はコンパスを取り出して、改めて地図と照らし合わせて見た。しかし頭の良くない貴宏には結局それでも分からなかった。
 仕方がないので、貴宏は再び適当に歩き続けることにした。今のところ禁止エリアとかいうルールはまだ発動していないのだ。心配することはない。
 時間は午前3時を回っていた。
 薄暗い林の中を歩き続けていたので、目も暗闇にだいぶ慣れてきていた。そんなときに貴宏の目にあるものがうつった。いままで木々しか見えなかったこの林の中に、ポツンと一軒の小屋らしき建物が建っているのだ。
 貴宏はその小屋に近づいた。何か考えがあったわけではない。しばらく木々しか見ていなかった貴宏は、突然目の前に出現したこの小屋に、何となく惹かれたのであった。
 どうやら物置小屋のようだ。大きくはないその簡単な作りの小屋のそばには3本のシャベルが立てかけてあった。シャベルはしばらく使われた様子はない。
 貴宏は小屋の扉の前に歩み寄った。左右横に引いて開けるタイプの扉だ。
 扉もまた相当の年月の間雨ざらしになっていたのか、塗装が剥がれ、内側の金属板が錆びている姿が所々見えた。
 貴宏はふと奇妙な感覚を感じた。小屋の中から何かの気配がするのだ。
 小屋の出入り口に近づいてみた。扉は左右ともに完全に閉まっていたが、見たところ扉には鍵はついてないようだった。デイパックに入っていた懐中電灯で扉の下のレールを照らしながらじっくりと見てみると、明らかについ最近扉を開閉したような跡があった。
 貴宏は確信した。この小屋の中に誰かが潜んでいるのだ。
 普通の人間の感覚なら、誰がどんな武器を持って隠れているか分からないこの小屋の扉を開けることに躊躇があるはずなのだが、この時の貴宏はとにかく銃を手に入れたいの一心で、ためらうことなく扉を勢いよく開いた。
 すかさず中にいる人物に懐中電灯の光を向けた。
 中には数個積み上げられた段ボール箱の間に小さくなって潜んでいた
栗山綾子(女子6番)がいた。そしてその手には貴宏が欲しがっていた銃が握られていた。
 貴宏にはそれが『コルトガバメント』であることがすぐに分かった。ガンマニアならそれぐらいの知識は当たり前だ。


「こ、こないで!!」
 貴弘に懐中電灯の光を向けられた綾子は涙を流しながら手に持った銃を貴宏に向けて構えた。だが貴宏はそれを見ても全くひるむことはなかった。
「こっちへ来ないでー!! 来たら、来たら本当に撃っちゃうから!!」
 貴宏が右手に支給された武器、斧を持ちながらゆらりと綾子の方に足を一歩踏み出した。
「なあ、その銃くれよ」
「いやーーーー!! こないでーーーーーー!!」
 綾子はさらに泣き叫んだが一向に引き金は引かなかった。貴宏はその理由をその時すでに分かっていた。それも貴宏がガンマニアだからこそ分かったことだ。
 貴宏は口で言っても綾子が銃を渡す気がないと分かり、綾子を殺して銃を奪おうと決めた。
「いやぁぁぁぁぁ!!」
 綾子の最後の叫びと同時に貴弘は斧を振り下ろした。貴宏の腕には確かな手応えがあった。前を見るとスイカ割りで割られたスイカのように頭がグチャグチャになった栗山綾子の死体が段ボールにもたれかかっていた。
 貴宏は綾子の遺体に近づき、死体がまだ手に握っている銃、コルトガバメント…いや、コルトガバメントのモデルガンを奪い取った。つまり綾子が銃の引き金を引かなかった理由は、その銃がモデルガンであったため弾が本当に飛ぶことはないからだ。
 貴宏は最初に綾子が持っている銃を見たときに、それがモデルガンであり、綾子が銃を構えているのはただの脅しであるとすぐに見抜いていたのだ。だからこそ銃を構えていた綾子に臆することなく貴宏は近づいていったのだった。あたりまえだ、貴宏には本物とモデルガンの違いなど一瞬で見分けがつけられるほどの、銃に関しての知識があるのだから。
 だが貴宏はそれがモデルガンだと分かっていてもそれがどうしても欲しかったのだ。このモデルガンのコルトガバメント、確かこのタイプは10年ほど前に製造は中止されており、さらには元々製造された数が少なかったことから、今ではかなりのプレミアがついているのだ。
 マニアにとっては喉から手が出るほどの一品だったのだ。
 こうして貴宏は本物の銃は手に入れることはできなかったが、コルトガバメントのモデルガンを手に入れることができた。
 栗山綾子を犠牲にして…。
 しかしモデルガンでは頭の中にできた飢えを押さえることはできない。この飢えを押さえるには本物の銃を手に入れるしかない。貴宏は再び本物の銃を手に入れるためその場から歩き始めた。


 『栗山綾子(女子6番)・・・死亡』


【残り 40人】



トップへ戻る   BRトップへ戻る   12へ戻る   14へ進む

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送