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 飯峯中3年A組の新担任を名のる榊原吾郎は、やっと全員が出発したので、分校内のメインコンピューターなどが設置されている教室に入り、そこに置かれたソファーにどかっと座り込んで休憩を取っていた。ただ体は休憩していても頭は働かせていた。
 ソファーの前の机の上に何十枚も積み上げられた資料のコピーをじっと見つめ、時折何かを考えているように腕を組んだり、頭をかいたりしている。
 この大東亜共和国には徴兵制がない。かわりに存在している制度がこのプログラムなのだ。目的は生徒同士を戦わせ、最後の一人になるまでかかった時間をはじめ、各種の統計を重ねることだ。だがこのプログラムにはそれ以外に、世間には表沙汰にはなっていない裏の目的もある。
「榊原上官」
 兵士の一人が榊原に近寄ってきた。兵士達は榊原のことを普段から「榊原上官」と呼んでいるのだ。
「たった今女子6番が死亡しました」
 榊原はその知らせを聞いて、積み上げてある資料の隣に置いていた一枚の紙を手に取って見た。飯峯中3年A組のクラス名簿だ。榊原は女子の欄を上から順番に見ていき、女子6番の名前に目を向けた。
「栗山綾子か」
 そう口にしたかと思うと、左手に持っていたボールペンでおもむろに『女子6番 栗山綾子』の文字の上にシュッと横線を引いた。
「これで残りちょうど40人になりましたね」
「栗山を殺したのは誰だ?」
「男子の17番でした」
 榊原は再び名簿に目を向けた。
「沼川貴宏・・・ああ、あの拳銃マニアか」
「はい。首輪に内蔵されている盗聴器を通して聞こえてきた、二人が遭遇した時の会話によりますと、栗山の武器が銃で、沼川の武器は接近系の武器だと分かりました」
「ん。じゃあ圧倒的に沼川が不利じゃねえか」
「はい。でも不思議なことに栗山は銃を発砲しなかったんです。考えられるのはそこまで人を殺すことを拒んでいたか、あるいは説明書を読んでなかったために銃の安全装置のはずし方が分からなくて撃つことができなかったかだと思われます」
 兵士の説明に対して榊原はちょっとの間考えたが、すぐに「それはちがうな」と言った。
「今回の武器にモデルガンがあっただろ? 栗山の武器がそれだったんじゃねえか?」
「どういうことですか?」
「栗山が銃を撃たなかったのはそれが偽物だったから撃てなかっただけで、沼川は拳銃マニアだ。それがモデルガンだって事にすぐに気がついたんだろう」
「なるほど、そうかんがえると栗山と沼川の立場は全く逆転する!」
 兵士は必要以上に相づちをうったが、榊原はそれに対しては全く反応を見せなかった。そしてまた山積みにされている資料の中から一枚の紙を引っぱり出した。
「確か今のところ死んだ6人の内、俺が殺した2人以外の4人を殺したのは、男子の須王と沼川、それと女子の吉本が2人殺してるんだったな」
「そうですね」
「まあ須王は予想通りだな。政府のお偉いさんの多くは須王に賭けてるしな。人気はぶっちぎりの一位だ」
 榊原が口にした「賭け」とは、プログラム内でクラスの誰が優勝するかを賭けたトトカルチョのことだ。政府の上位の役職に就く者達は、プログラムが行われると面白がってこのトトカルチョに参加したがるのだ。
「須王は前評判が良かったですしね」
「ああ、何せあいつの今までの経歴ときたらものすごいからな。プログラムを始める以前に、すでに5人殺してるなんてな」
「普通だったら完全に首が飛んでるところですね」
「普通だったらな。だがあいつは未成年という時点で少年法の関係で死刑は免れるし、それよりもあいつの両親が政府の中でのトップクラスの役職に就いてるしな。事件はすでに両親の権力によって揉み消されちまってるから警察に捕まることもなく、いまだにのうのうと生活できてるって訳だ」
 榊原は自分でしゃべりながら須王の人気ぶりを改めて納得した。
「その両親、やはり自分の息子に賭けてますね」
 榊原は大声で笑った。
「はっはっは!! 自分の息子が死ぬかもしれないというときに、賭けに参加するとは、まったく無慈悲なご両親だ」
「よっぽど息子が優勝する自信があるんでしょう」
「だがこのクラスではそうも行かないかもしれないぞ。なんせこのクラスには対抗馬とも言える霧鮫美澪もいるしな。たしか霧鮫は賭け数第2位だったな」
「ああ、彼女もかなりの経歴を持ってますしね」
「こいつの場合も殺人を犯した証拠を巧妙に消してるからな。正確に言えば霧鮫の周りをうろついてる不良仲間が証拠を消してまわっているって話だ。まあこの話も他の奴に聞いた噂程度の話だから、どこまでが実話かは俺は知らないがな」
「怖い中学生ですね」
「まだ今のところ霧鮫は目立った動きは見せてねえな」
 榊原は再び名簿に目をやった。
「このクラスにはそのほかにも有力選手が多いな。男子には剣崎大樹、こいつは確か空手の達人だったな。接近戦だったら、まずこいつに勝てる奴はいないだろうな。剣道部の剛田昭夫なんかも強そうだな。それから杉山浩二、こいつはこのクラスのスポーツ診断テストの総合計ではぶっちぎりの一位だからな。運動能力のバランスはこいつが一番だろうな」
 右手に持ったこのクラスのスポーツ診断テストのデータが書かれた紙を見ながら榊原が言った。
「女子では新城忍だろうな。男子の剣崎程ではないとはいえ、こいつもかなりの空手の実力者だ。あと穴を狙うとしたら椿美咲なんかも運動能力が高いからいいかもな」
「そうですね」
「まあだいだいこの辺りが票の多くを占めてるな。しかし男子の沼川や、女子の吉本とかもこの調子だとダークホースになりかねんな。このクラスのプログラムは久々に面白いことになりそうだぞ」
 榊原は本当にわくわくしてきたようだ。
「榊原上官!!」
 別の兵士が近寄ってきた。
「F−6地点で男子の10番と女子の4番が近づいてきています。おそらくこのままだと遭遇するでしょう」
 教室内に設置された巨大モニターにはこの島全体の地図が表示されており、地図の中にばらばらに赤と青の1〜22の数字が表示されている。(23番は男女共に既に死亡しているので、画面からは消えていた。)
 兵士はそのモニターを指差しながら言った。兵士の指差す方を見ると、確かにF−6で青い10の数字と赤い4の数字が近づいていた。
「あれは須王と霧鮫じゃないですか?」
 先ほどから榊原と話していた方の兵士が聞いた。
「ああ、賭け数人気ナンバー1とナンバー2。どうやら序盤から事実上の決勝戦が始まるらしいな」
 モニター内ではどんどん2つの数字の距離が縮まっていた。



【残り 40人】



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