12


「おらぁ!! 次は男子23番出てけぇ!!」
 分校の教室からまだ生徒全員が出発したわけではなかった。大柄な体格をした
若松圭吾(男子23番)は持参した大きなリュックを背負い、前に出発したクラスメートたちと同じように渡されたデイパックを手にして教室を出て行った。
「これで残ったのはあと一人、女子23番だけだ! お前が最後の出発だ!! 2分後までに用意しとけ!!」
 和田裕子(女子23番)は榊原に最後の出発が近いことを告げられて怯えきっていた。
「ったくぅ!! やっとおわる!! さすがに46人、いや2人死んでたな。44人もいるとなると長かったな」
 榊原は本当に疲れているようだ。声にも最初の頃のように勢いがないし、時折自分で腰をたたいていた。
 みんなどうしているだろうか?
 裕子はそれが気がかりだった。なにせ最初のほうに出発した生徒たちは、もう分校の外で1時間以上の時間を過ごしているのだ。
 みんなで集まっているのだろうか? それとも個人でばらばらになって隠れているのだろうか? それとも…。
 裕子はその先のことは考えたくなかった。
 まさか殺し合いなんて…。
 裕子は外ではもう殺し合いが始まっているかもしれないとは考えたくなかった。とりあえず今のところは銃声らしき音も聞こえてきてはいない。この分校がよっぽどの防音設備などが整っていない限りは、外で誰かが銃を発砲したりしたら、この分校の中にいても聞こえてきているはずだ。とりあえず今のところ銃を撃った生徒などはいないということだ。裕子にはそれが外ではまだ殺し合いなど始まっていないと信じることができる希望だった。
「2分経った!! 最後の生徒出てけぇ!!」
 やっと2分経ったのか。裕子には時間が過ぎるのがとてつもなく遅く感じられた。
 裕子はそれまでに出発した生徒たちと同じように、自分のかばんとディパックを持って教室を出ようとした。
 一度だけ教室を振り返ったが、当然そこにはもう誰もいなかった。

 廊下へ一歩踏み出し、真っ暗に近い廊下をゆっくり進んだ。
 廊下はとても長く感じ、廊下を抜けるまでの時間が悠久とも思える長さに感じた。
 やっと廊下の突き当たりにある出口に差し掛かった。外も廊下と同じく真っ暗かと思っていたが、むしろ廊下よりも明るいくらいだった。月明かりのせいだろうか?

 廊下から最後の一歩を踏み出し、数時間ぶりに外に出た。真っ暗で閉じ込められていたような分校内の空気とは違い、外の空気はとても新鮮に感じた。だが空気の新鮮さなどはすぐに恐ろしさにかき消された。
 廊下の中と比べて外のほうがいくらか明るいとは言っても、それでもやっぱり外は相当に暗く、これからこの暗闇の中で誰かに襲われるかもしれないという恐怖に襲われた。
 裕子は若松圭吾が近くにいるのではないかと思った。圭吾が出発したのは、裕子が出発するたったの2分前。普通に考えると今裕子に一番近い位置にいるのは圭吾であろうと考えられるからだ。
 万が一、圭吾に襲われた場合、裕子は体格の良い彼に勝つことはできないだろう。ただこれは圭吾がこのゲームに乗ってしまっていた場合の話だ。
 裕子は圭吾が殺し合いにやる気になっていないように願った。
 だがふと前を見た瞬間、裕子は言葉を失った。圭吾は裕子の目の前。たった7メートルほど先にいたのだ。しかも圭吾はその場に立っていたわけではなかった。まるで真っ暗闇の空に点々と浮かぶ星空を眺めるかのように仰向けに倒れ、その体の周りにはどす黒い血だまりができていたのだ。
 そう、圭吾はすでに死んでいた。


 裕子はその光景を目にして今まで感じたことがないような恐怖感に包まれた。たった2分前に出発したばかりの生徒が出入り口付近で死んでいるのだ。圭吾が左胸を何かで深々と突き刺されているこの光景を目にしたら、どう考えても出入り口付近で待ち伏せしていた誰かに、出てきたばかりの圭吾が襲われ、そして胸に刃物か何かを突き刺された光景など容易に想像できるであろう。そしてそれが行われたのはたったの2分前。
 それに出てくる生徒をねらった襲撃者が圭吾一人だけを襲って、そのままこの場を立ち去るとは考えにくい。
 つまり圭吾を殺した誰かはまだこの付近にいるはずなのだ。
 突然脇から影が飛び出してきた。月明かりに照らされたその影はまさしく人間の姿であった。そしてその手には銀色に光る果物ナイフが握られていた。
 裕子がその影に気がついたときはもう遅かった。裕子の胸にはセーラー服を貫通し、柄まで深々と突き刺さった果物ナイフの姿があった。
 刺された…。
 意識が遠のいていく中、裕子は最後に自分に果物ナイフを突き刺した人物の姿を見た。なんとそれは裕子と同じセーラー服を着た女子であった。
 な、なんで…?
 裕子は地面に倒れ、目の前に無言のまま、まるで裕子が死ぬのを待っているかのように、とても冷たい目で見下ろしている
吉本早紀子(女子22番)の姿を最後に見て、それ以後もう目を開けることはなかった。


 『若松圭吾(男子23番)・・・死亡』

 『和田裕子(女子23番)・・・死亡』


【残り 41人】



トップへ戻る   BRトップへ戻る   11へ戻る   13へ進む

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送