10


 ドカッ!!
 振り下ろされたハンマーを雅史はギリギリのところで後ろに引いてかわした。
 雅史に当たらなかったハンマーは勢いが止まらず、そのまま地面を叩いていた。相当の威力があったのかハンマーを思いっきり叩き付けられた地面の土はえぐれて穴があいていた。
「奥村ぁ!!」
 ハンマーを雅史に向かって叩きつけようとした本人、
奥村秀夫(男子3番)はもう一度ハンマーを振り上げて雅史に襲い掛かろうとしているところだった。
「なんでこんなゲームに乗ったんだ!!」
「うるさい!! 俺はまだ死にたくないんだ!!」
 秀夫はハンマーを今度は地面と水平に横から振ってきた。
 雅史はそれをまたしてもギリギリのところでかがんでかわした。
 ハンマーは秀夫にとっては相当重いものだったのだろう。再び雅史にハンマーをよけられて秀夫はハンマーを振った方向によろけていた。
 雅史はこの隙に秀夫に飛びかかった。攻撃する為ではない。秀夫が持っているハンマーを奪い取る為であった。しかし今度は秀夫が蹴り上げた右足が、正確に雅史の腹部を直撃していた。腹部に激痛が走る。
「なんでだ!! みんなで集まって、一緒に脱出する方法を考えたらいいじゃないか!!」
「そんなこと無理に決まってるだろ!! とにかく俺は生き残って家に帰るんだ!!」
「最初から諦めるな!! 方法はきっとある!!」
「うるせぇ!! 俺に構うなぁ!!」
 いつもそれなりに温厚であった秀夫が、今では獣のような形相をしていた。
 ダメだ。秀夫は我を忘れている。
 説得は無意味だろう。


 秀夫はまた最初の一撃と同じ様に真上にハンマーを振り上げて雅史に叩きつけようとしていた。だが雅史は三回目のハンマーでの攻撃も、またしてもギリギリのところでかわす事に成功した。
 ハンマーの重さのせいだろうか。秀夫の動きが鈍く感じた。
 今だ。
 雅史は秀夫が重いハンマーをもう一度持ち上げるのに手間取っている隙に、秀夫の脇をすり抜けて駆け出した。上手くいったらしい。秀夫は雅史が逃走を企む事を想像もしていなかったようだ。
 秀夫は急いでハンマーを持ち上げて逃げる雅史を追いかけてきた。当然雅史は全力疾走で秀夫から逃げようとしていた。
 勝機は雅史にあった。もともと足は秀夫よりも雅史の方が速かったし、そのうえ秀夫は重いハンマーを抱えての追跡だ。二人の間には確実に距離が開き始めた。
 雅史はそのままの勢いで走り続けた。こんなに目立つ逃げ方では、また別の生徒に見つかってしまうかもしれないという心配もあったが、今はそれどころではなかった。これだけ距離が開いても秀夫は一向に追跡を諦めようとしなかったからだ。おそらく雅史の姿が見えている間は、秀夫は雅史を仕留めない限りは追跡を止める気はないのだろう。秀夫の視界から消えるまで走り続ける事にした。
 二人の間にはどんどん距離が開いていった。明らかに今のままでは秀夫は雅史に追いつける筈がない距離だ。
 全力で走っているために、さすがに息が荒くなってきている自分に気づいた。だが足を止めることは許されない。なおも全力で走り続けた。
 どれくらい走っただろうか。雅史は走りながら後ろを振り返ってみた。するとそこにはもう秀夫の姿はなかった。どうやら逃げ切れたらしい。
 雅史はとりあえず深い茂みの中に入って座り込んだ。荒く息を切らしている自分の体力を回復させる為、少しの間休息をとることにした。
 今の一件で体力をかなり消耗した。体力を回復させないことには、また誰かやる気の生徒に遭遇したときに逃げ切れない。
 時折注意深く周りを見渡したが、秀夫はもう追ってくることはなかった。
 雅史は再び地図を見やった。
 これまで地図も見ずにかなりの距離を走り続けていたが、何となくの場所はつかめた。最初に向かおうと考えた集落からは遠ざかってしまったようだ。しかしいまさら目的地変更などしたくはない。休憩後このままそこに移動して待機しよう。その後のことはそれから考えたらいい。その集落で誰かに会えるかもしれないし…。
 だが雅史は秀夫の一件のせいで、他の誰かに遭遇することを恐れ始めていた。これから出会う誰かが秀夫のようにやる気になっている可能性があるからだ。そういうときは秀夫と同じく話し合いでは解決できないだろう。今のように逃げるか、応戦することを余儀なくされるのだ。
 雅史はふと気がついた。
 そうだ、デイパックの中には武器が入っていたはずだ。今まではそれが何なのかも確認せずに、ずっとデイパックにしまったままだったのだ。
 デイパックを開け武器が何なのかを確認しようとした。その武器で誰かを殺す気などは毛頭ない。しかし、やる気の生徒に遭遇したときはそれが唯一自分を守るための“盾”の役割になるのだ。
 デイパックのファスナーを開けた。まず最初に目に入ったのは水の入った500ミリリットルのペットボトル2本。コンビニで売っているようなパンが数個。脇には懐中電灯とコンパスなどがあった。そしてさらにその下に武器が入っていた。
 武器の説明書らしき紙もいっしょに入っていた。そこには大きな文字でこう書かれていた。
『コルトパイソン』
 そう、雅史の武器は銃だった。


【残り 44人】



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