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 はあっはあっ…。
 林の中で粗い息遣いが響き渡る。
 奥村秀夫(男子3番)は両手をひざに当てて、かがんだ体勢のまま大きく息を吸って吐いてを繰り返していた。
結局雅史に逃げられた。ハンマーの攻撃をことごとくかわされ、秀夫はイライラしていた。
 秀夫は出発して直後、茂みの中に入り、急いでデイパックをあけて武器を確認した。入っていたのはハンマー。ちょっとがっかりだった。なぜなら出発前の説明で榊原が銃の存在を口にしたからだ。
 こんなハンマーなどでは対抗できない。
 そう思っていたときに秀夫は茂みのそばを通り過ぎる女生徒を見たのだった。それは
栗山綾子(女子6番)だった。秀夫は茂みから飛び出して綾子にハンマーで殴りかかろうと考えたのだが、綾子の手に拳銃らしきものが握られているのが見えたので、襲い掛かるのをやめたのだ。
 この距離から襲い掛かったのでは、どう考えても綾子をハンマーで殴る前に銃で撃たれてしまうのが目に見えたからであった。ので、秀夫は綾子に見つからないように、その場をやり過ごした。
 しかしそんな弱気でいてはだめだと思った。こんなハンマーひとつでは最後まで生き残れるはずがない。誰か他の生徒を倒して、もっと強力な武器を手に入れなければならないと秀夫は考え、次にそばを通りかかった生徒に襲い掛かろうと考えたのだ。
 そして次に通りかかった生徒が雅史だったのだ。だが襲撃は失敗に終わった。
 だめだ。雅史がどんな武器を持っていたのかはわからないが、これで雅史には自分がやる気になっているということがばれてしまった。おそらく次に真っ向で出会ったときは雅史は迷わず逃げるなり攻撃してくるなりしてくるだろう。
 状況は悪いほうに悪いほうに進んでいる。
 くそぉ!!
 秀夫は時計に目を向けた。
 もうほとんどの生徒が分校を出発しただろう。残っていてもあと6,7人ほどだろう。
 秀夫は分校のほうへ移動しようと考えた。分校から出て、林を通り抜けようとする生徒を待ち伏せ、茂みの中から奇襲をかけてやろうと考えたからだ。
 まだ疲れのせいで息が荒かったが、そんなことを気にしている場合ではなかった。とにかく今は強力な武器を持った誰かをこちらが仕留めることが先決なのだ。
 コンパスと地図を見ながら移動した。秀夫はさっきの追跡で自分がどの辺りにいるのかはあまり把握できなかったが、ぐずぐずしている暇はないので、なんとなくの予想と勘を頼りに歩き出した。
 ハンマーが重い。
 当然だが、ハンマーの柄自体はただの木製の棒だが、先についている鉄の部分は見た目より相当な重量感がある。デイパックと自分のリュックの重さはたいしたことはなかったが、このハンマーだけはどうにかならないかと思った。
 持ち運ぶときだけでなく、攻撃の際もこの重さが邪魔なのだ。もちろんこの重さがなければハンマーは武器として成り立たないので仕方がないが、それでもなんとかしてほしかった。
 秀夫の見覚えのある場所に出た。最初に潜んでいた場所に何とかたどり着いたのだ。
 茂みの中に腰を下ろそうとした。
「よう。やたら重そうなモンもってるな」
 男の声がしたので、秀夫は声のしたほうへ急いで向き直った。秀夫の顔から血の気がさっと引いた。そこには右手にチェーンソーを持った男子生徒がいたからだ。
「もう誰か殺したのか?」
「そ、そんなことどうでもいいだろ!!」
 低いトーンで話す男子生徒に向かって言い返したが、どうも声が裏返ってしまった。
「オイオイ、ヒステリックになるなよ」
「う、うるせえ! どっか行けよ!!」
 秀夫は大声で叫んだ。また別の誰かに見つかる可能性もあるが、そんなことは関係ない。とにかく今は目の前にいる男子生徒にこの場を離れてほしかった。目の前の男は相手が悪すぎる。今の状態はまるでサバンナの真ん中で対面したライオンと小型の草食獣のようだ。もちろん秀夫が草食獣だ。
「早くどっか行かねえと頭叩き割るぞ!」
 だが秀夫は勝機があるなどとは思ってなかった。
「そりゃあ物騒だな…。じゃあ叩き割られないようにお前を消すか…」
 男子生徒が再び低いトーンで言い、手にもっていたチェーンソーの電源スイッチに手を伸ばしたのが見えた。それをきっかけに秀夫は男子生徒にハンマーで殴りかかった。
「無駄だ!!」
 男子生徒の口調が突然強くなったかと思った瞬間、秀夫は奇妙な光景を目にした。
 目の前にはチェーンソーを持った男子生徒のほかに、もう一人別の男子生徒の姿が見えた。そしてその男子生徒には首から上がなく、両手にはハンマーを抱えていたのだ。
 そこで秀夫の意識はなくなった。秀夫が最後に見た“ハンマーを持った首のない男子生徒”は実は秀夫自身であったことを秀夫は理解できないまま事切れた。
 男子生徒は地面に転がった秀夫の首を茂みのほうへ向けて蹴飛ばした。
 首は茂みの中へ転がって行き、そのまま視界から消えた。


 秀夫の首を切断して殺害した
須王拓磨(男子10番)は不敵な笑みを浮かべながらその場を去った。
 林の中ではまだ、チェーンソーの音が響き渡っていた。


 『奥村 秀夫(男子3番)・・・死亡』


【残り 43人】



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