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 日常生活ではありえない緊張感に襲われ続けていたためか、雅史は放送の時間など、全く気づいていなかった。腕時計を見ると、確かに今は13時、放送時間に間違い無い。
『今回死んだ生徒は4人。男子は、20番、姫沢明と、22番、矢島政和。女子は、7番、佐藤千春と、18番、氷川恵。以上男女二名ずつだ!
次に禁止エリアの発表だ!』
 いつもと同じように禁止エリアを述べていく榊原。それを聞きながら、今回は雅史たち全員が、それぞれ自分の地図にメモしていく。情報を聞き間違えるという、万が一の失敗を避けるためだ。
『今回の放送は以上だ! これで生き残りもあと四分の一以下、もうすぐ一桁に突入だ! 気ぃぬくんじゃねぇぞオラァ!』
 その直後、またブツンとスピーカーの電源が切れる音が聞こえ、辺りに再び静寂が訪れた。
「これで残りは、男子8人、女子3人の、合わせて11人か」
 大樹が手元の名簿の名前の上に、新たに4本の横線を書き加えながら呟いた。
 ただでさえ悪かった辺りの空気が、更に重くのしかかってくるような感覚に襲われた。クラスメートたちが確実に数を減らしているという現実を、再び思い知らされたためであろう。
「まあそう暗くなるな。何人かが死んでいるなんてことは、はじめから予想していたことだ」
 おそらく大樹は自分以外の二人を慰めるためにそう言ったのだろうが、残念ながら、それは全く慰めとして効果はなかった。たった一言で気持ちを持ち直せるほど、そんな軽い状況ではないのだ。
 大樹も空気の悪さを読み取ったのか、その暗い沈黙を自ら断ち切ろうと、さらに言葉を続けた。
「とりあえず、今の放送と、石川の話、それから俺達の事を照らし合わせて、今の状況を整理しよう」
 その言葉に反応し、直美が下げていた頭を少し持ち上げた。
「まず、今俺達が探すべき人物達についてだ。最初に挙げられるのは忍だろう。奴は途中まで俺達といっしょに行動していたわけだから、奴に害が無いことは分かっている。さらに忍は石川達が探していた人物の一人でもある。つまりこれらの状況から考えて、忍と合流することは一つの目的と考えて良いだろう」
 大樹のこの意見には間違いはないだろう。実際、雅史も途中まで忍とは一緒に行動していたのだ。彼女に害がないことは分かりきっている。そのうえ忍は強く頼り甲斐がある。彼女との合流は確かに目的として良さそうだ。
「次に名城が探している、桜井と杉山についてだが、名城、奴等は絶対に信用できるんだろうな?」
 大樹が次に雅史に念のための確認を求めてきた。当然これに対しての雅史の返答はイエスである。
「ああ。あいつらに関しては大丈夫だと俺が保証する」
 堂々と答える雅史を見て、大樹も信用したようだった。
「まあ今回は名城の意見を信じるとしてだ。杉山と桜井、この二人との合流も視野に入れておいた方が良いだろう。俺自身、この二人とはあまり交流はなかったが、普段の様子から考えてみても、奴等に害があるとは考えにくいしな。それに杉山に関しては、運動神経が抜群だ。なにかと役に立ちそうだしな」
 この大樹の言葉に、雅史は頷ずくばかりであった。なぜなら、確かに浩二はクラスメートの中でもトップレベルを誇れるほどの運動神経を持ち合わせているのだ。そのうえ雅史たちのグループを、いつも先頭を切って統率するその行動力は、他のクラスメートに類を見ない才能なのだ。もし合流できるとすれば、これだけ頼り甲斐のある人物はそうそういないであろう。
「以上三人との合流は目的として決定で良いな?」
 大樹が最終確認を行うと、直美は無言で頷いて返した。無論、雅史も賛成である。
「俺もそれに賛成だよ剣崎」
 そう言うと、大樹は目的がはっきりしたためか、少し安堵の笑みをこぼしたようだった。
「ところで、他のクラスメート達はどうするの」
 その質問をしたのは直美であった。大樹はすぐさまそれに対応する。
「今述べた三人と、俺達を除いた、残り五人のことか?」
「うん。今の状態で他に生き残っている子達、須王君、辻本君、中村君、沼川君、それに吉本さん、この五人は放っておくのかなと思って…」
 大樹の発言の意味を、この五人は見殺しにすると受け取ったのか、いぶかしげに話す直美。その直美の心情を読み取ったのか、大樹はすぐさまそれに適切な返答を返した。
「ああ悪い。そう受け取られてしまったか。俺が言ったのは、あくまでも一つの目的というわけで、その五人に関しても、よく検討した上で合流も考えようと思う」
 すると今度は直美の方が、ばつが悪そうな表情をした。
「いや、剣崎君が謝ることないよ。ただ私はその五人についてはどうなのかなって思っただけで、決して剣崎君に不満があったわけじゃないから…」
 あたふたと話す直美を見ながら、雅史はようやく口を挟んだ。
「それじゃあ、今の話の通り、他の五人についても検討するとしようぜ」
 しかし、実際のところ、その五人の内の二人については検討するまでもなかった。その二人とは、須王拓磨と沼川貴宏である。なぜならば、この二人に関しては、はじめからプログラムに乗る側の人間であると、分かりきっていたからだ。
 須王に関しては、その普段の行いの悪さから想像すると、絶対にクラスメートたちと手を組むなどという姿を想像することはできない。椅子とりゲームに例えるならば、彼は確実に、他人を蹴落としてまで椅子に座ろうとする人物である。そんな彼だ。クラスメート抹殺を考えていても、何らおかしくない。
 次に貴宏。彼については出発前の分校での事件にて、榊原に「クラスメートを殺して銃を手に入れろ」と言われ、その言葉を半ば本気で受け取っていた。その言葉を真に受けて、クラスメート殺害を実行に移している可能性は相当に高い。
 以上のことから考えて、彼らとの合流は望ましくない。むしろ警戒すべきである。そんな雅史の考えと同じく、当然大樹も同じ意見を持っていたため、
「まあその内、須王と沼川に関しては検討するまでもないだろう。あいつらには注意を払うべきだ」
 とすぐに答えてきた。
 そうなると、あと検討するのはそれ以外の三人についてである。
「辻本君なんかは大丈夫なんじゃない?」
 直美が
辻本創太(男子12番)の名前を口にした。
「辻本か…。確か奴は保健委員をしていたんだっけな」
「うん。私が授業中に身体の調子崩した時も、優しく保健室まで連れてってくれたし、辻本君は絶対に悪い人ではないと思うんだ」
 大樹の問いかけに直美は即座に反応した。
 辻本創太。クラスの男子の中で一番の巨体をもつが、かといって別段大食らいというわけでもない。むしろ運動部所属の奴らの方が大食いだったといっても良いほどだった。
 何故彼があそこまで巨体になったのか、それは謎だが、確かに警戒すべき人物だとは考えにくい。
「なるほどな。一応参考にはしておいた方が良さそうだな。次は中村か」
 大樹が次に
中村信太郎(男子15番)の名を挙げた。
 雅史は彼に関しては、あまり鮮明な記憶は思い浮かんでは来なかった。普段あまり関わりがなかったからであろう。ただ分かるのは、彼は誰よりも自分第一に考えるところがあるということである。そのためか、彼がクラスメート達に自らの自慢話を語る姿を見かけることは時々ある。他人の気持ちを考えず自分の事しか考えていない彼の事だ。自分可愛さに他人を蹴落とそうと考える事もあるかもしれない。疑いたくはないが、一応参考にはしておいた方が良いだろう。
 雅史は思った事を大樹に伝えると、大樹も「考えておこう」と返してきた。
「最後に吉本についてはどうだ」
 大樹の問いかけに、雅史はこれまたあまり鮮明な記憶が浮かんでは来なかった。
「吉本さん…あまり私達と関わりなかったな…」
 直美が小さく答えた。
 確かに、早紀子の周りに親しい友人の姿などは見られなかった。彼女はクラス内で完全に孤立した存在だったのだ。しかしそれはクラスメート達の意地悪というわけではない。クラスメート達よりも、むしろ彼女の方が皆との距離を保とうとしているようだったのだ。いったいなぜか、それは雅史には分からなかった。
「つまり、吉本に関しては、全く参考に出来る意見はないというわけだな」
 大樹がやれやれといった感じで言った。
「あまり参考に出来る意見は出てこなかったな。やっぱり確定できる目的は、忍、杉山、桜井、この三人と合流するという事だけか」
「そういうことになるかな。本当に見付かるかな?」
 心配そうに言う直美に、
「ああ、絶対に見つけ出してやる」
 と大樹は強く答えた。しかし、雅史は対照的だった。
 希望する皆との再会。果たしてこれは本当に実現できるのか。嫌な予感が頭から離れず、なにやら胸騒ぎを感じた。



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