82 恵は早紀子との三度目の遭遇に、さすがに驚かずにはいられなかった。 なんで? あの女についてこられないように、私は細心の注意を払って、この場所に戻ってきたのよ。なのにどうして、あの女はこの場所が分かったの? 恵の呆然とした姿に構うことなく、千春を仕留めたばかりの早紀子は、すぐさま狙いを恵へと変更し、抱えていたショットガンを連続で撃ち始めた。 ドンッ! ドンッ! 島中に響き渡ったであろうその銃声の中で、うち一発が恵の腹部に命中。恵は千春に撃たれたとき以上の痛みに耐え切れず、声を張り上げた。 「あぐぅっ!」 手で腹部を押さえながら、千春の死体へと駆けだした。痛みにより恵の走るスピードは、かつて早紀子から逃げ切ったときと比べ、考えられないほど遅くなっていた。 千晴の死体に駆け寄り、その手から、元々自分の物であったトカレフを奪い取った。だがその瞬間、今度は背中にとてつもない激痛を感じた。背後から撃ち放たれた銃弾が見事に命中したのだ。 「このぉ!」 振り返りざまに恵も反撃。二発三発と早紀子へと撃ち放つが、いずれも命中せず、さらには銃に装填されていた弾が切れてしまった。 くそっ、なんであんなデカイ図体に当たらないのよ! 苛立ちながら、すぐさまスカートのポケットに詰め込んであった弾を一気に掴み取り、それを急いで銃の中に詰め込もうとした。だがまたしても早紀子の撃った弾丸が腹部に命中。そのはずみで掴んでいた弾をすべて足元に落としてしまった。 恵は弾を拾うため、焦りながらかがみ込んだが、その瞬間、とてつもない吐き気に襲われた。そしてその直後、自分の口から吐き出された大量の血に驚かされることとなった。 いくら防弾チョッキを着ているとはいっても、銃で撃たれたその痛みまでを抑えることはできない。次々と相手の攻撃をくらい、口から血を吐き出すボクサー、今の恵はまさしくこれと同じ状態であった。 だが恵は諦めることなく、落とした弾丸を拾い上げ、次々と銃の中に装填、そして反撃を開始した。恵の手の中で銃が再び火を噴く。 恵の反撃する姿を見た早紀子は、すぐさま側の木の後ろに隠れて回避。全くの無傷のままそれをやり過ごした。 恵は血で真っ赤に染まった口で、悔しさのあまりギリギリと歯を噛み締めていた。 「くそぉ! 当たれぇぇぇぇ!」 自然とそんな言葉が漏れる。そしてまたしても銃の弾が切れた。 急いで弾を詰める作業を再開させるが、恵の攻撃の手がやんだのを良いことに、早紀子は木の後ろから攻撃を再開した。 恵もそれに気づき、地面を転がりながら何とか弾の軌道から外れようと試みるが、判断が一瞬遅かった。恵が軌道上から逃れるよりも早く、腹部に二発もの弾が命中したのだ。しかも今回はこれだけではなかった。早紀子の撃った弾のうち一発が恵の膝をも貫通したのだ。これが初めて生身に受けた銃弾だった。 「あぁっ!!」 恵は痛さのあまりその場に倒れ込んだ。今まで防弾チョッキごしに受けた銃弾でも十分に痛かった。しかし、初めて生身を撃たれたこの痛みは、今までのどの痛みをも遥かに超越していた。倒れ込んでしまうのも当然だった。 足を撃たれては逃走はもはや不可能。恵は倒れながら弾を詰め込み終えた銃を、急いで早紀子へと向け発砲。しかしそれも命中しなかった。 容赦無く早紀子は反撃する。次々とショットガンは火を吹き、もはやそれを逃れる術のなくなった恵は、その弾丸を全身に浴びた。 腕や足に銃弾をまともに受け、もはや指一本動かすことすらままならない。恵は逃走手段どころか、反撃すら出来なくなってしまった。そんな恵に安心したのか、早紀子は全く恐れることなく、一歩一歩恵の元へと近寄ってきた。 身体が思うように動かせなくなった恵は、自分へと歩み寄ってくる早紀子へと、視線のみ向ける。全く反撃の出来ない恵は、その目で相手を睨み付けた。情けないが、それが今できる精一杯の抵抗であった。 恵の側まで来ると、早紀子は銃口を恵の頭部へと押し当てた。これなら外すことは絶対に無い。今度こそが間違いなく最期であると、恵自信が覚悟した。 恵は頭上で自分の姿を見下ろしている早紀子の顔へと目を向けた。すると目が合った。凍りつきそうなほど冷たい目だった。 「…負けたわ…さっさと殺してちょうだい」 全身の痛みに耐えかねた恵は、早くこの生き地獄から開放されたくなったのだろう。生命の存続を乞うどころか、自らそれを終わらせるように言った。だがそんな恵の言葉にも、冷え切った目を細めたまま、早紀子は全く言葉を返そうとはしなかった。 しかし恵は、同時にこうも思った。 もうちょっと長生きできてたら、この学校の子達とも、もうちょっと仲良くなれてたかもしれないのにな…。 恵は先に自ら目を閉じ、じっと時が来るのを待った。すぐのことだった。ショットガンは銃声とともに近距離から火を放ち、恵の頭蓋骨をいとも簡単に粉々に吹き飛ばしてしまった。だがそのショックに、恵が目を見開くこともなく、その目は永遠に閉じられる事となった。 恵を始末し終えた早紀子はショットガンを持ち上げ、ポケットから取り出したレーダーの画面をじっと見ていた。そう、何処に逃げようと、この吉本早紀子という死神から逃れることはできないのだ。 『氷川恵(女子18番)・・・死亡』 【残り 12人】 トップへ戻る BRトップへ戻る 81へ戻る 83へ進む |
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