71 恵は驚愕した。 脱出プラン…まさか、本当にそんなものがあるのだろうか。 明の方を見ると、その顔はいつもの穏やかな表情に戻っていた。それは自信に満ちた男の顔でもあった。しかしそれを見てもイマイチ実感が湧かなかった。 厳重に脱出防止策を練りに練られたこのプログラム、恵の思う限りでは自分たちのような、ただの中学生に破れるはずがないと思っていたからだ。そして目の前にいる明、この男も自分と同じただの中学三年生である。そんな明がはたして本当に脱出方法を考え付けるとは到底思えなかった。 「どう? 2人とも俺と組まないか?」 明は背後にいる千春にも向き直りながら、今度は活字ではなく口から出した言葉で話し掛けてきた。どうやら盗聴されても構わない内容は喋って伝えるようにしているらしい。まあ盗聴機から全く会話が聞こえないというのも政府側の人間からすれば不審に思うだろうし、多少は口で喋ったほうが妥当であろう。 しかし恵はすぐに答えを出すことは出来なかった。それは明の考えていることが今一つ理解できないからであった。 脱出プランとはいったいどのような作戦なのだろうか。いや、そもそも本当にそんな脱出方法など考えついているのだろうか。 そんな恵の思いを察したのか、明は、 「なるほど、すぐには信用できないというわけか。わかった。じゃあ一からすべて話すから、二人とも俺についてきてくれ」 そう言いながら林の奥へと歩み始めた。 恵はついて行くかどうか迷ったが、トカレフをまだ明に奪われたままなので、仕方なくついて行くことにした。 ふと千春の方を見ると、どうやら千春もついて行く気のようだった。 明を先頭に林の中を歩く三人。明の後ろで恵と千春が並んで歩いているが、恵はその時間気まずい思いをしていた。 自分の側にいる千春。恵は一度彼女を殺そうとしたのだ。そんな相手と並んで歩くことに苦痛を感じるのはあたりまえであろう。 恵はその苦痛を振り払うためにも、自分が疑問に思っていることを口にした。 「なあ姫沢。アンタ私に銃で撃たれたのにどうして無事だったんだ?」 おそらくこの質問は声に出してよかったのだろう。その証拠に明の方も口答で返してきた。 「ああそうか、まずはそこから説明しとくべきだったかな」 明はそういって小さく笑いながら、突然自分の学ランのボタンを外しはじめた。 「これのおかげさ」 そう言いながら明が見せた学ランの下には、恵が今まで一度も見たことがないような服の姿があった。 「これが俺に支給された武器『防弾チョッキ』さ。…まあ武器というより防具と言った方が正解なんだけど、とにかくこいつのおかげで氷川さんの銃の弾から守られたってわけさ。まあ撃たれたとき痛みはあったけどね」 なるほどそういうことか。どうりで銃で撃たれたのに出血すらしていない訳だ。 恵の頭の中にあったモヤモヤの一つがようやく消えた。すると今度は千春、 「じゃあなんで私の前に飛び出して、私を氷川さんの銃から守ってくれたの?」 恵は千春がわざわざ“氷川さんの”という言葉を出したことに多少嫌悪感を感じたが、なんとかしてその感情を抑え込んだ。 「ああ…なんとなくだよ、なんとなく」 明はそう言いながら、再び携帯電話のボタンを押しはじめた。どうやらこの内容は榊原達に聞かれてはマズイ内容らしい。 今回の文章は多少長かったらしく、さすがの明でさえも、その文章を打ち込みおわるまでには多少時間をかけた。 明は文章を打ち込み終えた携帯電話を、今度は質問の主である千春に先に見せようとした。恵はそれを覗き込むようにして読んだ。 『俺はこの脱出プランで出来るだけ多くのクラスメートを逃がしてやりたいと思っている。そんな時に君たち二人の声が聞こえたからすぐにそっちに行ってみた。すると氷川さんが佐藤さんに向かって銃を撃とうとしていた。俺は目の前で無駄に人が死ぬのを放っておけなかった。だから防弾チョッキを着た自分の体を利用して、佐藤さんが殺されるのを防いだってわけさ。これが理由の一つ』 恵たち二人が読み終えると、明はさらに携帯電話のボタンを押しはじめた。まだ続きがあるらしい。 『それからもう一つ。この計画を進める上で、迅速に行動を行うためにはやはり何人か助手がいた方が効率が良いと思ったというわけさ。そういうわけで、今度は俺から君たち二人に質問だけど、この脱出プランを実行するための助手になってもらえないか?』 突然の明の提案に、恵は再び考え込んだ。なにせまだ明は脱出プランそのものに関する話はまだ一つもしていない。なにをするかも分からないような計画に、そうやすやすと頷けるはずがなかった。 それに千春と共に行動することにも後ろめたさを感じる。やはりこの場は断った方が良いだろうか? しかしいまだに明にトカレフが握られているのを見ると、そう簡単には首を横に振ることもできなかった。 しかし千春を見ると、「私はやるわ」という感じで首を縦に振っている。 おいおい、コイツ本気か? 恵は千春にそう思ったが、次の瞬間、明が「お前は?」とでも言いたげな目線を恵に向けているのに気づき、つい反射的に首を縦に振ってしまった。 ああ…なにをしてるんだ私は。 恵みの思いとは裏腹に、明はニッコリと微笑んで見せた。 この姫沢という男、ただ者ではない。 恵はそう思った。 「着いた。この場所が俺達の拠点だ」 先頭の明がそう言った。周りは深い茂みに囲まれているが、こちらからの見通しは良く、敵が接近した場合なども先にこちらが気づくことが出来るであろう。良い隠れ家といった感じだった。 すると明は茂みの中から、なにやら見たこともないような機械を引っ張り出してきた。一辺が30センチほどの箱のような形の上に、一本のアンテナらしき物がそびえ立つその装置。恵にはまだこれがなんの役に立つのか、全く想像すらできなかった。 辺りの地面には何処から集めてきたのか、大小さまざまな機械の部品が散乱している。これを見て恵みは思った。どうやらあの四角い装置は、明がこの場所で即行で制作した装置なのであろうと。 いったい明は何を行うつもりなのだろうか? 恵の疑問はさらに深まったようだった。 【残り 15人】 トップへ戻る BRトップへ戻る 70へ戻る 72へ進む |
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