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 深夜2時を過ぎている今、さすがに民家の中も真っ暗であった。
 杉山浩二(男子11番)は、とある一室で探し物をしているが、この暗闇ではなかなか目的の物は見つからないようだ。しかし、かといって電灯を灯すなどという行為はあまりにも無謀である。いや、そもそもこの民家に今現在電気は通っているのだろうか。今はそれを試すことすら許されない。付近に誰かが潜んでいたとすれば、一瞬でも光を灯せば、たちまち自分たちの居所はばれてしまうであろう。ここは手持ちの懐中電灯で少しずつ部屋を調べるしかなかった。
 そんな光景をただじっと見ることしかできない
桜井稔(男子9番)は、自分にも何か手伝うことはないだろうかと思ったが、浩二の考えが全く分からない稔に、いったい何をすれば良いのかなど知るはずが無かった。稔は仕方なくすべて浩二に任せることにした。
 この部屋の中は数々の機材で埋もれていた。
 ノート型パソコン、ビデオ内臓テレビ、ポータブルDVDプレイヤー、ファックス付き電話機、カラーコピー機、ラジオ内臓MDコンポ、さらには冷蔵庫や電子レンジまでもが置かれている。
 いったいどのような人物がこの場所で生活していたというのだろうか。全く想像すらできなかった。
 また3つある棚はすべて、無数の書物をはじめ、パソコンソフトや、ビデオテープ、DVD、CDなどで完全に埋め尽くされ、そこに入りきらなかった分が棚の上や床の上に整理されることもなく、ただ乱雑に積み上げられている。
 時折浩二の足元からパキッという音が鳴る。床に散らばったCDのプラスチック製のケースに、暗闇のため気づかなかった浩二が、うっかり踏みつけて割ってしまったのだ。だが浩二はそのようなこと全く気にした様子もなく、ただひたすら何かを探し続けている。
「ねえ浩二。いったい何を探しているの?」
 浩二の考えを知らないでいると頭の中がムズムズし、それに耐え兼ねた稔は浩二にそう切り出した。しかし浩二、
「悪いな稔。これは最期まで教えることはできないんだ」
 と、相変わらず秘密厳守の一点張りであった。
 いったい何を隠す必要があるのだろうか?
 稔は自分には話してくれても良いだろうにと思ったが、浩二が意味も無く稔に隠し事をしているとも思えなかったので、稔も仕方なくそれに耐えることにした。
 そうだ。確かに浩二の考えていることが気にならないはずはないけど、本当に生きてこの島を脱出できるなら、この程度の苦痛など安いもんだ。
「くそっ、邪魔だな」
 浩二は捜索を邪魔する書物の山を横に動かしスペースを作った。だがそのとたん、その書物の山が崩れかけた。
「やべぇ!」
 浩二は声を上げた。いくら民家の中に入っているとはいえ、書物の山が崩れる音が外にまで聞こえるかもしれない。もし近くに敵がいたとしたら最悪の事態を引き起こしかねない。
 そう思った稔は、体勢の関係で身動きが取れない浩二の代わりに、急いで崩れかけた書物の山を手でおさえた。何とか間に合い、書物の山は崩れることはなかった。
「ナイス稔!」
 浩二は頭だけを稔の方に向け、少し大げさかもしれないくらいのリアクションをとった。
「ははは」
 稔は微笑しながらその書物の山を低い4つの山に分けた。再び崩れるのを防止するためである。
 稔が浩二を見ると、浩二はもう捜索に戻っていた。
 辺りを見回しながら一生懸命、部屋中の機材を触る浩二。手には何処から見つけてきたのか分からないが、何時の間にかドライバーが握られていた。これで何かの機材を分解でもするのだろうか。
 浩二は懐中電灯の光を、とある機材に向けた。と同時に「これだな」と言うと、おもむろにその機材にドライバーを当て、分解作業を始めた。しかし稔の位置からでは暗いせいもあり、その機材が何であるのかはよく分からなかった。
 浩二がドライバーを回転させると、ビスが抜け落ちたのだろうか、床に何かがコトンと落ちるような音が聞こえた。
 稔には訳が分からなかった。
 こんな機材を分解することと、脱出計画といったいどんな関係があるのだろうか?
「ねえ浩二。本当にそんなものが役に立つの?」
 また余計なことを言っているかもしれないと稔は思ったが、浩二は、
「ああ、これは重要な行動さ」
 と返してきた。
 訳は分からないままだったが、とりあず少しは安心した。もちろんこの行動が後にどのように役に立つのかまで知りたかったが、その気持ちはグッとこらえた。
「よーし。取れた」
 浩二は機材から何かの部品を取り出した。しかしやはり暗くてそれがどんな物なのかは稔には見えなかった。
「とりあえず目的の物の一つ目は手に入れることが出来たが、それ以外の必要な物はこの部屋の中にはないみたいだ。というわけでもう一度別の家に移動するぞ」
 と浩二が言った。
「えっ、まだ必要な物があるの?」
「ああ、あといくつか必要な物があるんだ」
 そう聞いてしまうと稔も従うしかなかった。この計画は浩二しか知らないからだ。
「でもまあ制限時間の3日目までは時間があるとはいえ、早くしないと更なる死者が出てしまう。どちらにしろ急いだ方が良さそうだな」
「そうだね」
 稔は頷く。この計画が本当に上手くいくのなら、自分達は勿論、他のクラスメート達も助けられるかもしれないのだ。素直に浩二に同意する。
 すると浩二は突如何かを思い出したように稔に耳打ちした。
「…もしかしたら、脱出を計画しているのは自分達だけじゃないかもしれない」
「なんだって!?」
 稔は驚いた。
 まさか浩二以外に、ここから脱出する方法を考えた生徒がいるとでも言うのか。稔には信じられなかった。
「いったい誰が!?」
 すると浩二は自分の考えた事を再び稔に耳打ちした。稔はそれを聞き、また驚いた。
 しかし稔はその人物の顔を思い浮かべると、なるほど、“アイツ”なら何か考え付いているかもしれない。と思った。


【残り 15人】



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