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 少女はひたすら暗い森の中を突っ走った。時折追手が来ないかどうかを確認するために振り返るが、どうやら追いかけては来ないようだ。
 彼女はつい先ほど、とある大胆な行動を実行したのだが、それは見事に失敗に終わった。
 いったい何を行ったのか。それは説明するまでもないだろう。
 彼女の手には一丁の拳銃が握られている。
『ワルサーPPKS 7.65ミリ』
 しかしそれは元々は彼女に支給された武器ではない。この銃の持ち主はすでに他界してしまっているのだ。
 時任乙葉。これがワルサーのそもそもの持ち主の名前である。そう、雅史と大樹に二人組で襲い掛かり、結果大樹によりコルトパイソンで撃たれ死んだ、あの乙葉である。
 つまり今ワルサーを手に走っているこの少女は、雅史と大樹に奇襲を仕掛けた二人組の一人、乙葉の相方だったのだ。その証拠にデイパックの他に、支給された『イングラム・サブマシンガン』を肩にかけているのが確認できる。
 雅史たちにサブマシンガンの弾のシャワーを浴びせようとしたこの少女、
倉田麻夜(女子5番)は悔やんだ。
 なぜあの時、自分は逃げ出してしまったのか。たしかに乙葉が殺されたことには驚いた。しかしそれでもあの時はまだ麻夜の方に分があったはずだ。なにせ麻夜の武器はマシンガンなのである。相手が銃を持っていたとしても、ただの銃とマシンガンでは圧倒的にマシンガンが有利だったはずだ。なのに何故、麻夜は逃げ出してしまったのか。それはあの一言を聞いてしまったからなのかもしれない。

−な、何をするんだ、剣崎!?−

 この一言が聞こえたことによって、麻夜は視界を遮る暗闇の中、大木の裏に隠れている相手の正体を把握することが出来た。
 一人はその声の主である名城雅史。そしてもう一人は雅史が名を呼んだ剣崎大樹。自分達が狙っていた獲物の正体はこの2人だったのだ。
 麻夜はこの時、相手がこの2人であるということを知っても、特に臆する事などはなかった…はずだった。しかし心の底では感じていたのかもしれない。剣崎大樹への恐怖感を。
 麻夜も常日頃、大樹の強さは話で聞いていた。戦いで女である麻夜が大樹に勝てるはずなど無いということも分かっていた。しかしこの時の麻夜は違った。なんせこっちは自分と乙葉の2人ともが銃を持っており、しかも麻夜自身が持っている武器は、おそらく全武器の中でも最強レベルであろうマシンガンだったのだ。いくら大樹が空手の達人と聞こうが、そんなことなど恐るるに足らなかった。
 しかしそんな中、共に手を組み自分たち以外の生徒全員の抹殺を誓い合った相方、乙葉の死を目の当たりにし、心の底に潜んでいた大樹への驚異が飛び出してきたのか、次の瞬間麻夜は乙葉の銃だけを回収しその場を逃げ去ろうとしていた。
 そして今、相方を殺された麻夜はたった一人で走っている。
 恐かった。いつ後ろから大樹が追いかけてくるかもしれないと思うと、どうしても止まるわけにはいかなかった。
 大丈夫だ。万が一のことがあっても自分にはこのマシンガンがあるんだから。
 麻夜は自分の肩にかけられたイングラムに目をやると、自分を落ち着かせるために言い聞かせようとした。だがそれは無駄だった。いくら自分に言い聞かせようとしても、大樹への恐怖を簡単には拭い去ることなどはできなかったのだ。
 麻夜は恐怖感を胸に抱いたまま走り続けていたが、ついに体力が尽きてきた。重い荷物を持ちながら、無理に走り続けてきたせいか脇腹がものすごく痛い。
 もはや麻夜は走ることへの限界を感じていた。背後から大樹が追いかけてくるかもしれないという恐怖に脅えながらも足を止めるしかなかった。
 麻夜の足が止まりかけたその時だった。
 ダァン!!
 突如どこかから銃声が聞こえたかと思うと、麻夜の身体は前のめりになりながら前方に吹っ飛んでいた。
 麻夜は何事かと思ったが、突如自らの頭部に異常としか言いようの無いほどのとんでもない激痛を感じた。
 今まで正常に見えていた視界が、まるでカメラの焦点がズレたかのようにだんだんとぼやけていく。
 いったい何!?
 麻夜は倒れざまに、ふと右手方向の遥か向こうに誰かがいるのを確認した。麻夜は意識がなくなりつつある頭でもその状況を理解した。そう、狙撃されたのだ。
 しかし麻夜とその人物の距離は相当離れている。ありえない距離からの狙撃だった。いったいどんな腕のいい狩猟者ならこの距離でも相手を正確に撃ち抜く事が出来るというのか。
 しかしいったい誰?
 麻夜はそんな遠くから自分の頭を正確に撃ち抜いた人物の正体を知ろうとしたが、視界が完全にぼやけてしまった今、相手の正体を確認することは出来なかった。

 麻夜の頭を撃ち抜いた本人、
沼川貴宏(男子17番)が麻夜の亡骸に向かって歩んできた。
「うわぁ!本物のイングラムだぁ!!」
 麻夜の身体の側に転がっているサブマシンガンを見た貴宏は感動したようだった。銃マニアの貴宏にとって、このイングラム・サブマシンガンは最高のご馳走であったのだ。
 貴宏はさっそくイングラムを拾い上げた。思っていたよりも相当に重かったのだろうか、拾い上げた瞬間少しよろけたようだった。
 こうしてイングラムは銃マニア、沼川貴宏の手に渡った。


 『倉田麻夜(女子5番)・・・死亡』


【残り 15人】



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