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 ダァン!ダァン!
 辺りに銃声が響いた。雅史が撃った銃の音ではない。雅史たちを狙う正体不明の襲撃者が再び発砲したのだ。
「くそっ!この状態は圧倒的に不利だ!」
 大樹が言う。
 確かにそうだ。人数で考えれば雅史たちも襲撃者たちも二人ずつ。要するに二対二なのだが、雅史たちの武器は銃が一丁にアイスピックが一本。対して相手は最低でも銃が一丁に、さらにマシンガンを持っているのだ。接近戦でならともかく、遠距離での銃撃戦では勝ち目は薄い。
 雅史は思った。今時自分達はどんな行動をとることが最適であるか。応戦が不利な状況である今、反撃よりも逃げることが正解なのではないだろうか。
 雅史は考えた事を口にした。
「剣崎!このまま応戦しても勝つことは不可能だ。この場は逃げた方がいいんじゃないか!?」
 だが大樹、
「だめだ!相手の一人はマシンガンを持ってるんだ。背を見せて逃げたら、たちまち餌食になっちまう。今俺達はこの木の裏から動くこと自体が危険だ!」
 大樹が言い切ったとたん、再び、パララララララとまるでタイプライターを撃つかのような音が響いた。もちろんマシンガンによる銃声だ。その瞬間、雅史と大樹が裏に隠れている大木の表面に、数十もの新たな弾痕が作られた。やはりこの木の裏から動くのは危険だ。
「しかたねえ!名城、この木の後ろに隠れながら反撃するんだ!」
 大樹が雅史に向かって言った。
「ほ、本気か剣崎!?」
「あたりまえだ!こんな時に冗談を言ってどうする!今俺達がこの場を無事に切り抜ける方法はそれしかねえんだよ!」
 ダァン!ダァン!
 パララララララ!
 再び襲撃者たちの2種類の銃声が響いた。直後、雅史たちのすぐ足元の地面から土埃が舞い上がった。雅史がその場所を見ると、土の地面に十数もの小さな穴が深く深く掘られていた。銃弾が地面に突き刺さったのだ。
 雅史たちの隠れている大木の表面にも、また新たな弾痕が出来ていた。襲撃者たちは確実に雅史たちを殺す気である。
「しかし、俺にクラスメートを殺せと言うのか!?」
 そう、雅史はまだクラスメートを殺すということに納得が出来ていなかったのだ。3年A組の生徒達は元は皆仲間なのである。これまで2年以上共に過ごしてきた仲間を殺すという行為、雅史には理不尽にしか感じられなかった。
「バカ!今更何を言ってるんだ!いいか、現に今相手は俺達を殺そうとしているじゃないか!」
 大樹が叫んだ瞬間、またしても雅史たちの隠れている大木に数個の弾痕が現れた。今度はマシンガンによるものではなく、拳銃によるものだった。もはや一刻の猶予も無い。
「くそっ!分かった!お前がやらないなら俺がやる!銃をよこせ!」
 相当焦っていたのか、大樹はそう言い切るよりも早く、雅史の持つコルトパイソンを半ば無理矢理奪い取った。
 雅史は一瞬状況を理解できなかったようだが、すぐにそれに気づいた。
「な、何をするんだ、剣崎!?」
「こうするんだ!」
 バァン!
 大樹は銃声が聞こえてくる方向の茂みに向かって発砲した。するとその方向の茂みが明らかに動きを見せた。間違い無い。その付近に襲撃者は隠れている。
 確信を持った大樹は続けざまに撃った。初めての雅史たちの反撃に驚いたのか、襲撃者の一人はついに茂みから飛び出した。だが暗くて誰なのかは分からない。ただ一つだけはっきりとしたことがある。それは襲撃者の一人は女子であるということであった。
「そこか!」
 大樹は姿を現した方の襲撃者に向かって発砲した。襲撃者の居場所がはっきりと分かった今、相手を倒すことはたやすかった。大樹が撃った弾は、見事襲撃者の頭部に命中したのだ。
 正体不明の襲撃者はその場に倒れた。頭部に被弾したのだ。もう生きているはずはない。
「あと一人!」
 大樹が再び茂みの中に向かって発砲しようとしたときだった。茂みの中から再びパラララというマシンガンの軽快な機械音が鳴った。マシンガンの持ち主の方がまだ生きていたのだ。
「くそっ!」
 大樹は覗かせていた頭を木の裏に引っ込めた。危なかった。相手が撃ったマシンガンの弾は、つい今まで大樹の頭があった場所を通過していったのだ。もう少し反応が遅ければ、今ごろ大樹は逝ってしまっていただろう。
 大樹が頭を引っ込めている間に、マシンガンの持ち主は茂みの中から飛び出し、すでに息のないもう一人の遺体に駆け寄った。そして死体が握る銃だけを奪い取ると急いでその場から駆け出した。相方を殺され、大樹たちに恐れをなしたのか、その場から逃げだそうとしているのだ。
 それを見た大樹、
「くそっ、逃がすか!」
 大樹はコルトパイソンの引き金を絞る。しかしそれは命中しなかった。
 すると負けじと襲撃者も走り去りながらも後方の大樹たちに向かってマシンガンを撃った。しかし走りながらの後方への攻撃が命中することはなかった。
 大樹はさらに攻撃を仕掛けようとした。だがもう遅かった。襲撃者はもう森の奥へと消えてしまったのだ。
 殺意を持つ敵を逃がしてしまい、不満そうな大樹は立ち上がった。辺りを見回すがとりあえずはもう敵はいないようだ。安心した大樹はもう事切れた襲撃者の遺体へと近寄った。果たしてその正体は誰だったのか。
 大樹は上からその顔を覗き込んだ。そしてすぐに、まだ木の後ろから動けずにいる雅史に向かって伝えた。
「時任だ」
 雅史は驚いた。
「時任だって!?」
 襲撃者の正体は、あの女子の中でも特に目立たない存在であった
時任乙葉(女子13番)だったのだ。これまで“このゲームに乗った女子”には遭遇したことのなかった雅史にとって、それは衝撃の事実であった。
 となると逃げ去ってしまった乙葉の相方。奴も女子なのだろうか? それは今の時点では分からない。だがこれだけは言える。奴は完全にやる気になっている。しかも拳銃とマシンガンを持っているのだ。放っておくのはあまりにも危険すぎる。
 しかし、雅史にはそれよりももっと気になることがあった。
「それよりも剣崎。お前に一つ聞いていいか?」
 雅史のその態度に何かを感じ取ったのか、大樹は怪訝そうに返した。
「なんだ」
「お前はこれでクラスメートを2人殺したんだな」
「ああ、それがどうかしたか?」
「なんでお前はそうも簡単に人を殺すことが出来るんだ?」
「なんで殺せるかだと? はっ、今更何を言ってるんだ。これは生き残りを賭けた殺人ゲームだぜ。生き残るために敵を殺すのは当然だろう」
 大樹は悪びれる様子もなく答える。雅史は続けた。
「確かにそうかもしれない。しかしとはいっても相手は2年以上もいっしょにすごしてきた仲間だぞ。狂気に支配されちまった連中ならまだしも、お前みたいに冷静な人間が、なぜそうも簡単にクラスメートを殺せるのかが納得できないんだ」
 すると大樹は何か痛い所を突かれたのか、多少驚いた顔をしたようにも見えた。
 大樹は少しの間黙り込んでしまった。ほんの少しの間の沈黙が訪れた。すると大樹は雅史の目をじっと見ながら口を動かした。
「知りたいか? 俺が人殺しを冷静に行えるようになってしまった、忌まわしい過去の出来事を」
「ああ、知りたいね」
 雅史はきっぱりとそう答えた。雅史は大樹が狩谷大介を殺したという話を聞いた頃から気になっていたのだ。そんな雅史が大樹のその話を聞きたくなるのは当然の話だっただろう。
「そうか…分かった…」
 大樹はゆっくりと話しはじめた。
 こうして雅史は大樹の信じられない、忌まわしい過去を知ることになるのだった。



 『時任乙葉(女子13番)・・・死亡』


【残り 16人】



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