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 あれからどれだけの時間が経ったであろうか。雅史は何時間も大樹とともに待ち続けていたが、忍はこの場所に戻ってはこなかった。
 辺りはすでに真っ暗だった。当然だ。時計の針はすでに真夜中を指しているのだ。そう、このプログラムが始まってから2度目の夜が訪れたのだ。
 月は天高く舞い上り、地球の裏側へとまわってしまった太陽の光を反射し、雅史たちのいる森林をかすかに照らしてくれている。もちろんこの程度の光では森林の闇がかき消されることなどはないが、それでもないよりはいくらかマシであった。
 この夜という時間は昼間なんかよりも、雅史が感じているこのゲームへの恐怖感をよりいっそう高めた。
 この暗闇の中、どの方向からも敵が飛び出してきそうに感じるのだ。恐怖のせいでコルトパイソンをがっちりと握る両手が汗で湿っていた。
 暗闇の恐怖に脅える雅史とは対照的に、大樹はなおも冷静に辺りの監視を続けている。もちろん敵の監視をすると同時に、忍の帰還を待っているのだろう。
 大樹はゲームが始まってから、一度もろくな休息をとっていないのだ。だというのにこの冷静さには雅史もさすがに恐れいった。
 しかしそんな大樹の思いもむなしく、忍の姿など全く見えることはなかった。
 忍はいったいどうしたのであろうか。前の放送の時点では忍の名前は挙げられなかった。つまり最低でもその時点ではまだ生きていたということなのだが、それからもすでにかなりの時間が経過してしまっている。
 最悪の場合として忍の死亡というケースも考えられるのだが、大樹はそんなことは全く考えていないようだ。それは雅史も同じであった。少しの間とはいえ、忍とともに行動した雅史には、おそらく女子では最強と言ってよいであろう忍が死ぬなんてことなどは考えられなかったのである。
 では忍はなぜかえってこないのか?
 この疑問が浮かぶのは当然のことである。しかしそれは雅史にも、当然大樹にも分からなかった。
 とにかく今は忍の無事の帰還を願う他はなかった。
 雅史が腕時計に目をやると、表示されている日付は何時の間にか一日進んでいた。そう、気づかないうちにこのプログラムは二日目に突入していたのだ。そして時刻はもうじき1時。四回目の放送が入る直前である。
 見ると大樹はすでに名簿と地図とペンを手にしていた。どうやら大樹も放送の時間が近づいてきていることに気がついていたようだ。
「もうすぐ放送だな、剣崎」
「ああ…」
 雅史、大樹ともに緊張がピークに達していた。自分たちが探している者達の死亡を告げられるのを恐れていたのだ。
そしてその時間はすぐに訪れた。

『聞いてるかお前らぁ! プログラムは2日目に突入した! それじゃあ今から4回目の放送を始めるぞ!』
 相も変わらず無駄に怒鳴りつけるような声で榊原の放送が始まった。
『それじゃあまずは死んだ奴の名前を挙げるぞ!』
 雅史は祈った。
 頼む! みんな生きててくれ!!
 だが雅史のそんな希望はすぐに打ち砕かれた。
『男子は6番の北川太一。19番の柊靖治。女子は17番の坂東小枝ただ1名。以上3名がこの6時間内で死んだ!』
「や、靖治が!?」
 雅史は自然と声を上げていた。信じたくなかったのだ。自分の大切な友人の死を。
 今までは放送のたび緊張はしていたが、まだ親友の中では死亡者は出ていなかった。つまりこの時初めて親友の死という事態に直面したのだ。とたん雅史の身体は脱力感に支配された。
 その瞬間、雅史は靖治たちとすごした楽しかった日々を思い出していた。まさに走馬灯のようだった。
 悲しかった。大切な親友を失うということがこんなにも悲しい事だったとは。雅史はもう泣き出す寸前だった。しかし雅史は思い直した。
 もし靖治がここにいたら、自分に何て言うだろう。
(俺の事はもう気にするな。それよりも今は浩二と稔を見つけ出してくれ)
 靖治ならきっとこう言うだろう。はっ、何沈んでるんだよ俺は。靖治の死は当然悲しい。しかしこんなことでへこたれてはいけないんだ。
 雅史は溢れ出しそうになった涙をグッと必死にこらえた。
 雅史の側では大樹が禁止エリアのチェックをしている。雅史とは対照的に忍の生存を確認できた大樹は安心したようだった。それにしても生きているのなら、なぜ忍は帰ってこないのか。やはりこの疑問が頭の片隅にこびり付きスッキリしなかった。

「まだこの辺りは禁止エリアに引っかかることはないみたいだ」
 放送終了後、大樹が雅史に地図を差し出してきた。雅史はそれを受け取って眺めた。確かに禁止エリアの心配はまだ無さそうだ。
「柊が死んでもっと沈んでるかと思ったが、意外とそうでもないみたいだな」
 大樹が雅史の顔を見ながらそう言ってきた。
「ああ、確かに悲しいが今はそんなことでへこたれている場合じゃない。俺はまだ浩二と稔も探さなくてはならないんだ」
 雅史は力強くそう言った。だが突如目から涙がこぼれた。やはり悲しいものは悲しいのだ。雅史もさすがに勝手にあふれ出るその涙までは押さえることができなかった。
 大樹は雅史のその姿を見て、やれやれといった顔をした。だがその顔は突如緊張し、真剣な表情に変わった。大樹は辺りを見回した。
「おい、何か聞こえなかったか?」
 大樹が小声で雅史に問い掛ける。だが雅史には何も聞こえてはいなかった。
「いや。どうしたんだ?」
 雅史が止まらない涙を制服の袖でふき取りながら言う。すると大樹、
「近くに誰かいるぞ!」
 雅史は驚いた。
 誰だ? 誰がいるんだ?
 雅史も大樹とともに辺りを見回す。しかし視界に入ってくるのは辺りを埋め尽くしている無数の木々と茂みばかりであった。
 雅史の顔を伝っていた涙が何時の間にか緊張による汗に変わっていた。雅史のコルトパイソンを握る手に力が一段とこもった。すると突如それはおとずれた。
 バンッ!!
 林の中に火薬の破裂音が響いた。それはやはり銃声であった。
「伏せろ!!」
 大樹はそう叫びながら雅史を地面に押し倒した。やはり雅史よりも大樹の方が数段反射神経が良いようだ。
「そこの木の後ろに隠れるぞ!」
 大樹が雅史を引っ張るように先導してその木の後ろに隠れた。その瞬間、バンッバンッと続けざまに銃声が轟いた。
「だ、誰なんだ!?」
「分からねぇ。だがとにかく撃ちまくれ、名城!」
 大樹が雅史に銃を撃つように命じたその瞬間だった。
 パララララララ…。
 雅史たちの足元の地面に無数の穴が開いた。
 なんなんだ、いったい!?
 だが事態を冷静に把握した大樹がこう言った。
「ヤバイぞ名城! 相手は1人じゃねえ。2人いる!! しかもその内の片方はマシンガンを持ってるぞ!!」
「何だって!?」
 雅史は驚いた。今自分たちを殺そうとした人物は2人。しかも1人はマシンガンを持っている。まさに絶体絶命の状態であった。



【残り 17人】



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