６３ 杉山め…。 榊原教諭はしばらく杉山浩二と桜井稔の会話を盗聴する事のみに集中していたが、浩二はほとんど言葉を発さず、何かしゃべったとしてもそれは榊原には興味のない内容ばかりであった。 浩二の思想の真相を掴む事の出来ない榊原は、次第にイライラしてきた。 くそっ！ ピピピピッ！ピピピピッ！ 突如、分校内で携帯電話の音が鳴り響いた。榊原はその音に驚き、急いで目の前に置いてある携帯電話に手を伸ばした。 榊原は携帯電話を手にすると、その折りたたみの本体を開き、ディスプレイに目をやった。 誰からの電話だ？ ディスプレイには『須王』と表示されていた。 ああ、あの殺人鬼の親か…。 榊原は電話の相手の正体が分かると、すぐさま通話ボタンを押し、電話を自分の耳に押し当てた。 「あいどうも。榊原です。仕事は今終わったばかりですか？ …ああそうでしたか。それは大変でしたな〜。…ああ分かってますよ。須王さんのお子さんはまだがんばって生きておられますよ。…えっ、お子さんが殺した生徒の数ですか？ ちょっと待っててくださいね」 榊原はさっきまで持っていた資料の中から一枚の紙を引き抜き、上から下までをなめるように見て確認した。 「…あ〜お子さんは今までに５人殺していますね。生徒名簿は持っておられますか？ …あ、そうですか。それじゃあ名簿はファックスでそちらに今から送りましょうか？ …分かりました」 榊原は脇で忙しそうに働いている兵士一人を捕まえ、名簿を手渡した。 「おい、この名簿を須王さん宛に今からファックスで送れ」 兵士は無言で了解のポーズをとると、すぐさまファックスの送信をはじめた。 「今こちらの人間に送らせました。…あ、届きましたか？ え〜とですね。お子さんが今までに殺した生徒の名前を順に挙げていくと。最初は、男子の３番、奥村秀夫。次に女子の４番、霧鮫美澪ですね。その後に男子の８番、剛田昭夫と、１８番の野村信平を連続で殺害しています。そしてつい先ほど女子の１７番、坂東小枝を殺していますね。ええ、いいペースですよ。しかもそのうち、霧鮫と剛田は賭けでもかなり人気でしたからね。この２人を討ち取ったお子さんは本当にすごいですよ。 …ああ、それは言い忘れていましたね。お子さんの武器はチェーンソーですね。なかなか器用に扱っているみたいですよ。さながらジェイソンといったところですかね。ハハハ。あっそうそう、どうやらお子さんは顔にかなりの火傷を負ったみたいなので、今のうちからどこか整形外科を予約しておいた方が良いのではないでしょうかね？ …えっ、お子さんに匹敵するほどの敵はまだいるかって？ ええ、まだ楽しめそうなヤツは多く残っていますよ。要注意人物を挙げましょうか？ …分かりました。 え〜と、まず目に付くのは女子の２２番、吉本早紀子ですかね。彼女は既に７人殺しているんですよ。容赦というものが全く無いのがウリですかね。 それから男子の１７番、沼川貴宏ですね。奴はまだ２人しか殺していないですが、銃に関しての知識と技術は尋常ではないので注意ですね。 男子の７番、剣崎大樹も格闘術に長けているのでかなりの有力選手として票を集めていますよ。 女子の９番、新城忍も同じ理由で人気は高いですよ。あ、ちなみにこの２人は殺害人数は共に１人ずつです。 男子の９番、杉山浩二は運動能力が全般的に優れていますし、どうやらなにやらよからぬ事を考えているようなので、こちらとしても厳重に注意しています。 まあお子さんの敵になるとしたらこの辺りではないでしょうかね。…いえいえ、まあお子さんが優勝する確率はかなり高いと思いますよ。なんせ残りはもう１９人ですし」 「榊原さん！」 突然兵士の一人が駆けつけてきた。 「なんだ！いま電話中だぞ！！」 榊原が怪訝そうに返すと、兵士は「スミマセン」と言い小声で用件を伝えた。 「…ほう、そうか。よし、お前はもう下がって良いぞ」 そう言われ、兵士は軽く会釈しその場を下がった。 榊原は再び携帯電話を耳にあてた。 「…ああスミマセンでした。どうやら今また一人、崖から転落して死亡したとの情報が入りまして。…はい、これで残りは１８人になりました。…はい。…ええ。ではまた何か展開がありましたら連絡しますので。…はいどうも、本日はお疲れ様でした」 榊原はその言葉を最後に通話を切った。 ふぅ、疲れた。やはり上司との会話は体力を使うな。 榊原はまた腰を叩き、ソファーの背もたれに体重を預けた。そして先ほど手にとっていた名簿を再び手前に引き寄せ、右手に握ったペンで一人の生徒の名前の上に線を引いた。 男子１９番、柊靖治、崖から転落して死亡…っと。  『柊靖治（男子１９番）・・・死亡』【残り １８人】 トップへ戻る BRトップへ戻る ６２へ戻る ６４へ進む |
