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 柊靖治(男子19番)は再び森の中をさまよっていた。
 先ほどの放送で死を告げられたのは5人。そのうち森文代、そして仲井理枝の2人は靖治の目の前で死んだのだ。靖治は2人の間に割って入ったが、それを止めることはできなかった。
 自分の力の無さに不甲斐なささえ感じた。
 靖治の腰には文代の銃、『コルト・ハイウエイパトロールマン』。手には理枝から受け継いだ銃、『ジグ・ザウエル』があった。二丁拳銃だ。
 理枝は言った。

−柊くんみたいな人に生き残ってほしいな−

 靖治は思った。
 たった一人だけでは生き残らない。俺は絶対にほかのクラスメートたちとここを脱出したい。
 時刻はもう夜である。ここはもともと深い森の中であるため、常にあたりは薄暗いのだが、日が沈むに連れてさらに辺りの暗さが濃くなってきていた。
 風も止んで静かである。視界が悪くなってきていたこともあり、自然と靖治は神経を聴覚に集中させていた。するとどこからかガサガサという音が聞こえてきたような気がした。
 気のせいか?
 靖治は耳をすました。すると確かにそのガサガサという音は聞こえた。靖治の前方からである。その音は近くから聞こえた音ではない。遥か数十メートル向こうから聞こえてきたといった感じだ。しかし暗くなったこの森の中で、数十メートル向こうの様子は目で確認することはできなかった。だが音の感じから考えて、これは誰かが茂みの中を歩いている音であることは確実である。そしてその音は徐々に近づいてきているようだった。
 靖治は緊張した。
 誰だ?やる気になっている生徒か?
 靖治は急いで側の茂みの中に隠れた。ここでじっとしている限りは、相手がどんな相手であろうと見つかる心配はないだろう。
 茂みの隙間から覗き、近づいてくる者の正体を確かめることにした。
 そうしているうちにも音はだんだんと近づいてきていた。
 ガサ、ガサ…。
 靖治のこめかみ辺りに汗がにじみ出てきた。
 誰なんだ?
 隙間から覗くが、まだ相手との距離が離れているせいか誰の姿も確認できない。緊張がピークに達した。
 靖治はその正体が雅史か浩二か稔のうちの誰かであるようにと願った。しかし現実はそうも上手くはいかなかった。
 相手はすぐ側まで接近していた。そして靖治の目がついにその姿を捕らえた。そして愕然とした。
 す、須王!
 靖治の緊張はピークを通り越し、失神してしまいそうにまでなった。その正体が
須王拓磨(男子10番)だったからだ。
 最悪の相手である。靖治もこの男だけはどうしても信用することはできなかった。万が一この男に自分の存在がばれてしまえば殺されてしまうのは明らかだと確信すらできた。
 今すぐにでも駆け出して逃げたい衝動を押さえ、必死で息を殺した。この男に見つかったら最後、逃げ切ることは不可能だと思ったからだ。そう、今はとにかくこの男に見つからないように、静かにこの場をやり過ごすのが最善である。
 そう思っている間にも、須王はさらに接近してきていた。もう十メートルも離れてはいないだろう。しかし幸いなことに、どうやら須王はまだ靖治の存在には気づいてはいないようだった。
 このままだ。このままじっとしていれば…。
 須王はもう目の前にまできていた。手を伸ばせばお互いに触れられそうな距離である。微動でもすると見つかってしまうであろうこの状態、靖治は我慢の限界を超えていた。体中のありとあらゆる穴から汗が吹き出していた。
 早く…早く通り過ぎてくれ!!
 須王が靖治の潜む茂みの横をゆっくりと通過した。靖治は何とか隠れることに成功したのだ。だがまだ安心するのは早い。須王の姿が見えなくなるまではここを動くことはできないのだ。
 靖治は静かに音を立てないように身体の向きを変えた。そしてそちらの茂みの隙間から相手の姿を見ようとした。数メートル先を歩く須王の姿が見えた。そしてその後ろ姿は徐々に遠くへと移動していこうとしていた。
 助かった…。
 靖治がそう安心しかけたとき、ふと須王の持つ武器、チェーンソーに目がいった。目を凝らしてよく見ると、そのチェーンソーの刃がどす黒く染まっているように見えた。靖治は直感した。
 やはり須王はこのゲームに乗った。そしてもう誰かを殺している。
 靖治の手が動いた。それと同時にジグ・ザウエルの銃口も須王の背中へと向いた。
 須王はこのまま放っておいていいのか? この後さらに被害者が出るかもしれない。今自分に背中を見せているこの瞬間がアイツを仕留めるチャンスなのではないか?
 靖治の指に力が入りかけたときだった。突然、須王の足が止まった。
「…誰かいるな」
 須王のその言葉に、靖治の心臓が再び飛び出しそうになった。
 気づかれた!?
 引きかけた汗が先ほどよりも勢いを増し、全身を伝って流れだした。急いで息を殺す靖治。激しく振動する自らの心臓の音までもが聞こえてしまいそうにまで思い、必死で胸の辺りを手で押さえた。鼓動の激しさが胸を押さえる手に伝わってきた。
 須王は辺りを見回しはじめた。同時に耳をすましている様子だ。
 靖治は銃口を須王に向けたまま完全に硬直していた。ここで一発で須王を倒すことができれば、なんら問題はない。しかし一度も銃を撃ったことがなかった靖治は、それを命中させる自信が無かった。とにかく今は倒すことよりも、自分の身を守るために銃口の向きを須王からはずさなかった。
「そこか」
 須王の表情が不気味にニタリと笑った。引き金に触れている靖治の指に力がこもった。だがその瞬間だった。須王は靖治とは全く別の方へ駆け出した。
 靖治は訳が分からなかった。
 なんだ!?俺は見つかったわけじゃないのか!?
 その疑問はすぐに解けた。須王の向かった先の茂みの中から何かが飛び出した。
 人だ。人が飛び出したのだ。
 茂みから飛び出し、須王の手から逃れようと走り出したその人物は3年A組の女子、
坂東小枝(女子17番)だった。


【残り 20人】



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