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 雅史はもうろうとする意識の中、遠くから誰かの声を聞こえてきているような気がした。
 誰の声かは今の意識の状態からでは判別することはできない。ただ男の声であるということだけは分かった。
 体が重い。そうだ、俺は武によって睡眠薬で眠らされていたんだ。
 雅史は無理矢理身体を起こそうとした。しかしまだ睡眠薬の効き目が残っているのか、身体のだるさは完全にはとれていなかった。とは言っても多少は眠っていたせいか、いくらかマシにはなったようだ。
 雅史はまだだるい身体に鞭をうって起き上がった。
『…時の禁止エリアは…』
 雅史は声の主が榊原だったと理解した。どうやら今は放送の最中のようだ。つまり時刻は午後19時ということか。どうりで辺りが暗くなってきているわけだ。
 雅史のすぐ側では大樹が地図の上でボールペンを走らせている。禁止エリアのチェックをしているのだろう。
 大樹の顔に疲労の色は全く見られなかった。少量とはいえ、雅史と同じく睡眠薬を摂取してしまったはずだというのに、平然としている大樹の様子には多少驚かなくてはならなかった。
 雅史の頭にある疑問が浮かんだ。
 前の放送の後から今までに、いったい何人が、そして誰が死んだのであろうか。
『以上だ! 残りはだいぶ少なくなってきたぞ! もうちょっとで生き残れるんだから容赦なく殺し合え!!』
 その言葉を最後に放送は途切れた。
 大樹は必要事項をすべて書き終えると、地図とペンを足元に置いた。
「よう。目が覚めたか」
 大樹が雅史が起きたことに気づき、声をかけてきた。
「ああ。悪かったな、一人で見張りなんかさせて」
「なあに、仕方ないさ。あの状態のお前に任せるわけにもいかなかったしな。で、体調の方はどうだ」
「ああ、おかげでだいぶマシにはなったよ。本当の事を言うとまだ少しだるいんだけどな」
「それも仕方ない話だ。お前が眠っていたのはたったの2時間程度だ。その程度で体力が万全に回復する方がおかしい」
 大樹は苦笑して言った。しかし雅史は逆に大樹を心配した。
「そういうお前こそ、睡眠もとらないで大丈夫なのかよ。お前だって睡眠薬飲んだんだろ」
「それは大丈夫だ。睡眠薬を混入されたといっても、どうやら量はたいしたことはなかったらしい。しかも俺が飲んだのはさらにごく微量だしな。
最初のころは多少意識がはっきりしなかったが、すぐにそれも直ったよ」
 大樹の表情を見ていると、まだ体力が有り余っているようにさえ見えた。やはり回復力に関しても雅史よりも圧倒的に上なのだろう。大樹の様子に安心した雅史は問う。
「また誰か死んだのか?」
 すると大樹の表情が突然真剣になった。
「ああ、5人死んでたよ」
「誰だ!?」
 雅史は緊張した。大樹は自分の名簿を手にとった。そして今、死亡のチェックを入れたばかりの生徒の名前を順に読み上げる。
「まずは女子の21番、森文代。15番の仲井理枝」
「森文代…あの携帯メール女か」
「それと残念なことに、女子の13番、戸川淳子も死んだ」
「戸川さんが!?」
 淳子といえば、忍が探していた、たった2人生き残っていた親友のうちの一人である。
「男子4番の加藤も死んでいた。おそらくいっしょにいた所を誰かに襲撃されたんだろうな」
 雅史は2人が誰かに襲われる所を想像しただけで身震いした。
「ああ、それから男子の13番、坪倉武。奴も死んだらしい」
「坪倉だと!」
 雅史は少し声を張り上げた。大樹が急いでそれを制したので、雅史も急いで口を閉じた。
 しかし驚くのも無理はなかった。武といえば雅史に睡眠薬を飲ませた張本人なのだ。まさかその奴が死んでいるとは。
「おそらく忍が奴をしとめたんだろうな」
 大樹のその言葉を聞いて雅史は急に思い出した。
「そうだ、剣崎。新城さんはどうなったんだ。見かけないが帰ってきてないのか」
 すると大樹は眉の間にいつもよりもさらにしわを寄せ、
「まだ帰ってきていない。しかし放送で奴の名前は読み上げられてはいない。無事であることは確かだ。だが帰ってこないということは、道に迷ったか、もしくは帰ってこられない状態に陥ってしまったわけだ」
 大樹は本当に心配しているのだろう。口調にもどこか陰りが感じられた。
「どうするんだよ。探しに行った方が良いんじゃないか?」
「いや、万が一忍がこっちに帰ってこようとしていたら、俺達が動いてしまったら逆にはぐれることになってしまう。だからもうしばらくはここで待機して様子を見ている方が良いだろう」
 確かにそれはもっともであった。しかし口でそういっている大樹も、本当は今すぐにでも探しに行きたいと思っているのではないだろうか。だが雅史は大樹の気を察し、その意見に同意することにした。
「大丈夫だ。奴がそう簡単に死ぬタマじゃねえてことは俺が一番良く知っている。奴は必ず生きてかえってくるさ」
 大樹が自分に言い聞かせるようにそう言っているように感じた。
 このプログラムが開始してから早18時間。残る生徒は20人。
 雅史は気が遠のいていくような感覚に襲われたが、それが睡眠薬の効果の続きなのかどうかは分からなかった。



【残り 20人】



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