56 いったい何処へ行く気なんだろう? 桜井稔(男子9番)は自分を先導している杉山浩二(男子11番)の背中を見ながら思った。 浩二が口走ったこの言葉。 −この島からの脱出方法− あるのだろうか。本当にそのような神業的手段が。 確かに浩二の頭脳は稔には計り知れなかった。普段のテストの点数などあてにはならない。この杉山浩二という男、実はとんでもない頭脳の持ち主であることを親友である稔は知っていた。 とはいっても確信があったわけではない。ただ浩二という男は、自分たちとは何かが違う雰囲気を常に全身から放っているように感じるのだ。そしてそれが浩二の機転の良さや、行動力というものに影響しているのだと思う。 そういう事を考えていると、性格から何まで全く異質である自分と浩二が、なぜここまで仲良くできているのかが不思議にさえ思った。 “ウマが合う”という言葉があるが、稔と浩二の関係はすべてこの一言のみで片づけることが出来るのかもしれない。全く不思議な関係である。 先導している浩二は、なるべく見つかりにくく、かつ歩きやすそうな道を選んで進んでいる。ここでも浩二の判断力の良さが随所で見られた。 なるべく草木を踏む音を出さないよう、足元にできるだけ何もなく、前後左右を深い茂みが囲い、周りから自分たちの存在が見つかりにくい道を選んでいる。さすがである。浩二の冷静さは全く失われてはいなかった。 そんな浩二の背中を押しているかのように、辺りに比較的強い風が吹き続けている。吹き続いている風は茂みを揺らし、ガサガサと大きな音を立てる。その音がかすかに聞こえる自分たちの足音を掻き消してくれているようだった。 まさか神様までも浩二に味方してくれているのかと稔は思ってしまった。 深い森を歩き続けてもうだいぶ経った。最初は薄暗い森の中を歩くことに、稔は多少の抵抗を感じていたが、慣れのせいか気分もだいぶおさまった。 この調子だとまだまだ行ける。 稔がそう思った時だった。先を歩いていた浩二の歩が突然止まった。稔は何事かと浩二に近寄った。 「どうしたの?」 稔が浩二に問い掛けると、浩二は人差し指を自分の口元に持っていき「シーッ」言った。静かにしろということだろう。稔が慌てて口をキュっと閉めるのを見て、口に持っていった人差し指で前方を指差した。 稔がその方向を見ると、遥か前方の茂みの隙間から誰かの座り込んだ後ろ姿が見えた。女子だ。稔はドキッとした。それが敵であるかもしれないからだ。 「あれはおそらく佐藤だ」 浩二が小声で言ったその名前を聞き、稔はナルホドと思った。男子と比べ、今現在女子は生き残りが少ない。その少ない生き残りの中で、あの髪型や体格と一致するのは、確かに佐藤千春(女子7番)でしかありえなかった。またしても浩二の冷静さに感心した。 「仕方ない。見つからないように迂回するぞ」 「え? もしかしたら話の分かる相手かもしれないよ。声はかけないの?」 稔は疑問を投げかけた。先ほどは敵かもしれないと脅えた稔であったが、逆に仲間になれるかもしれないという多少甘い考えもあったのだ。そして浩二の脱出計画が実行可能なものなのなら、仲間を増やし、出来るだけ多くの生徒を脱出させたいとも思ったのだ。だが浩二は、 「佐藤には悪いが、今は出来るだけ人数を増やしたくはないんだ。俺達は佐藤と別段仲が良い訳でもないし、そんな奴と手を組んでもあまり信用することはできない。 それに人数を増やすとそれだけ他の敵から見つかる確率はぐんと上がってしまう。この脱出計画に自信がないわけではないが、今はまだその下準備の段階だ。だから早いうちにこの下準備を終わらせ、安全に計画を実行したい」 浩二の考えはもっともであったかもしれない。しかし善人であるかもしれないクラスメートをこのまま見捨てるような判断には稔も少し残念だった。そんな稔の様子を見て浩二はすぐさま言った。 「まあ慌てるな。この計画が最終段階までいく事が出来れば、俺達以外の奴を逃がすことも可能だ。だからそれまでの辛抱だと思っててくれよ稔」 浩二の気持ちを察した稔もすぐさま、 「分かってるよ浩二。がんばって皆で生きて帰ろう」 と言った。笑顔を作ってそう言った稔を見て、浩二は多少安心したようだった。 「その意気だ。やるぞ稔。俺達で『沖木島脱走事件』を再現するんだ」 2人は笑顔のキャッチボールを交わすと、再び目的地へ向かって歩きはじめた。 目的地はこの島で一番大きな集落。町といった方が正解であろうか。とにかくそこへ、この脱出計画に“必要な物”を調達しに行こうとしている。果たしてそこで目的の物を見つける事は出来るのだろうか。 何時の間にか太陽はほとんど沈み、2人の歩く森を漆黒の闇が覆いつくそうとしていた。 時刻は午後19時直前。3回目の島内放送はまもなくであった。 【残り 20人】 トップへ戻る BRトップへ戻る 55へ戻る 57へ進む |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||