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「さ…早紀子…」
 突然の訪問者に淳子は何かの恐怖を感じた。それは早紀子のショットガンが淳子たちに向けられているからなどではなかった。
 淳子の目は明るさに徐々に慣れ、早紀子の姿がはっきりと見えるようになっていた。恐怖を感じる原因はそこにあった。
 淳子たちを見る早紀子の目が、信じられないほど冷たかった。もともと早紀子とはあまり関わりのなかった淳子だったとはいえ、いくらなんでも向けられている視線が冷たすぎた。まるで相手を睨み付けただけで凍らせてしまえるくらいにまで感じた。
 この恐怖感は尋常ではなかった。このクラスでの最も危険な人物といえば須王拓磨だと思っていた。しかしこのときの淳子はなぜか、この早紀子に、須王に対して以上の恐怖を感じてしまっていた。


「おい、なぜここが分かった!」
 塔矢が早紀子に向かって言った。そう、淳子もそれが分からなかった。淳子たちがこの地下室を見つけたのは本当に偶然であったといってよいだろう。しかし、早紀子はこの集落の中からこの一軒を選らんで入り、かつこの地下室を見つけ出したのだ。これは淳子たちが何らかの侵入の形跡を残していない限りは考えられない話である。しかし、淳子たちは形跡を全く残していないという自信があったのだ。では何故、早紀子はこの場所を見つけることが出来たのか?
 早紀子が無言で睨み付けながら、淳子たちからは3メートルほど離れた階段の上に立ちながら、ポケットから何かを取り出して淳子たちに見せた。もちろん銃口は向けたままである。
 淳子は早紀子が見せているものに見覚えがあった。そして何故自分たちの居場所がばれたのかという謎も解けた。そう、それは美咲が出発直後に淳子に見せた、あのレーダーであった。
「まさか! アンタが…アンタが美咲達を…!」
 淳子がそう言った瞬間であった。
 突如地下室内にドウンッという銃声が轟いた。早紀子のショットガンが火を吹いたのである。
 撃ち放たれた弾丸は途中ではじけて細かく分裂した。散弾の特徴である。
 その細かく分裂した無数の弾丸は、次々と塔矢の頭から胸にかけて、上半身に無数の穴を開けながら体内に入り込んでいった。
「塔矢!!」
 倒れそうになった塔矢の身体を、急いで淳子が支えた。しかし、支えたその身体は力なく、頭をガクンと前に倒した。淳子に衝撃が走った。
「塔矢ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 淳子は動かなくなった塔矢の身体に抱きつきながら泣き叫んだ。
 死んだ…。塔矢が死んだ…。
 淳子は信じられなかった。
 ガシャンと、再び早紀子がショットガンを構えた。今度の標的は明らかに淳子であった。
「うぅ…あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 淳子は気がつくと、支給された武器である警棒を振りかざしながら、早紀子に向かって駆け出していた。
「アンタなんか!! アンタなんかぁ!!」
 淳子が階段を駆け上がろうとした瞬間、再び銃声が響いた。
 淳子の意識は一瞬のうちに遠のいて行った。そのとき、いろんな人の顔が頭の中を駆け巡った。
 絵梨果、智里、美咲、そして塔矢…。私もすぐにみんなに会える…。
 淳子の胸部一帯から流れ出した血が塔矢の血と混じり合いながら、早くも血溜まりをつくりだした。
 忍…。直美…。

 早紀子はきびすを返し、階段をゆっくりと上って行った。
 早紀子はレーダーの画面を見た。表示されている点は、残り20となっていた。



 『加藤塔矢(男子4番)・・・死亡』

 『戸川淳子(女子12番)・・・死亡』



【残り 20人】



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