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 淳子は直美や忍ともう一度会いたかった。しかし、それでもここから出て探す決心はつかなかった。なぜなら外に出ると、自分といっしょに行動する塔矢までもを危険にさらすことになるのだ。
 どちらが重いか量りにかけることはできないが、淳子はとにかく塔矢のことが友人たちと同じくらい大切であった。そんな大切な人を危険にさらすことなどできない。
 淳子はまた昔のことを思い出した。まだ中2の秋の話である。


「はい、それじゃあグループ分けはこれで良いですかー?」
 遠足委員を自ら買って出た淳子は、教室の前に立ってクラス全員に向かって元気よく言った。
 黒板には淳子がグループごとに、3、4人ずつに分けたクラス全員の名前が書かれていた。(須王拓磨と霧鮫美澪は欠席するとかで名前はなかった)
 淳子の書いた丸い字を見ながら、クラスメートたちは「このグループに入りたい」などの要望を伝える。それが上手くいくと、淳子によってグループのメンバーの名前が次々と書き換えられていく。
 淳子はひたすらクラスメートたちの声に耳を傾けながら、黒板の文字を消しては書き換えるという作業を続けていた。
 淳子は時々、何か違和感を感じた。
 何だろう。誰かが私を見ている気がする。
 淳子はクラスを見渡すが、誰の視線なのか分からなかった。
 仕方なく淳子は作業を続ける。しかし、淳子が黒板を向いたとき、決まって誰かの視線を背後に感じるのだ。
 クラスメートたちの意見を黒板に反映させていけば、いつのまにか、最初のグループ分けは何処に行ったのやら、全く変わってしまったグループ分けが出来上がっていた。
「もう意見はないですかー?」
 淳子はこれで終わりかと思ったが、一応念のためにと最後に聞いた。すると一人の男子生徒が立ち上がって言った。
「俺はCグループに入りたいんだけど」
 言ったのは加藤塔矢だった。
 Cグループのメンバーといえば、淳子と直美、それから福本修であった。淳子は奇妙思った。
 なんで加藤君はこのグループに入りたいんだろう。別に私や直美とも親しいわけでもないし、ましてや福本くんとも加藤君はあんまり関わり無いみたいだし。
 しかし特に反対する理由も意見も無かったので、結局は塔矢の名前をCグループに書き加えた。
「じゃあ淳子、先に帰るね」
 放課後になり、下駄箱で直美たちと別れた。まだ遠足委員の仕事が残っており、帰るわけにはいかず、この日は先に帰ってもらったのだ。
 あーあ。立候補したものの、実際委員やってるとめんどくさいなー。
 淳子は遠足のしおりを作りながら思った。本来なら遠足委員は男女1人ずついるはずなのだが、この日は男子の委員が風邪で欠席しており、作業は淳子が一人でせざるをえなかったのだ。
 もー、こんな季節に風邪なんかひくなよな。
 淳子は男子遠足委員に思った。
 淳子が一人で作業をしていると、突然教室のドアが開いた。
「手伝おうか?」
 入ってきたのは塔矢だった。一人で作業をするのが面倒になってきていた淳子は、
「本当!有り難う!」
 と感嘆の声を上げていた。

「ねぇ。どうしてCグループに入りたかったの?」
 淳子は印刷し終えたばかりのプリントの束をホッチキスでとめながら塔矢に聞いた。
「えっ」
 同じくホッチキスでとめていた塔矢は言葉を詰まらせた。それを見た淳子は「ははーん」と思い、もっと突っ込んで聞いてみた。
「目的は私? それとも直美?」
 淳子は、まず修は関係ないだろうと確信していたので、この考えには容易に行き着いた。
 核心を突かれたのか、塔矢の顔が引きつった。
 一瞬の間、沈黙が訪れた。淳子はこの沈黙という間が嫌いだった。仕方なく淳子は沈黙を破るためにも、更なる核心を突いてやった。
「グループ分けのとき、ずっと私を見てたでしょ」
 塔矢の顔がさらに緊張した。「まさかこの女、人の心が読めるのか?」とでも思ったかもしれない。
 観念したのか、塔矢はついに言った。
「ああ…見てたよ…」
「んで、何が言いたいの」
 淳子は意地悪だと分かっていながら、あえてこう言った。すると塔矢、
「俺、ずっと戸川さんの事が…」
「はい分かった!そこまで!!」
 塔矢の言葉を淳子は途中で止めた。これ以上言わせると恥ずかしくなってしまいそうだったからだ。塔矢は呆気にとられたようだった。
 淳子はなぜか、嬉しいというよりも、勝ったという感情を抱いた。不思議な感情だった。
 呆気にとられたまま、何も言えなくなってしまっている塔矢に向き合い、淳子は言った。
「じゃあ、私と付き合ってくれる?」
 突然の単刀直入な申し出に、塔矢はかなり戸惑ったようだった。
「…も、もちろん!」
 塔矢は表情に光を戻した。よほど嬉しかったのだろう。その塔矢を見て淳子、
「言っとくけどね、勝ったのは私だからね」
「えっ? どういう事だ?」
「さぁーてね」
 淳子は笑った。


 今になって考えると、なんて不思議な告白だったのだろうと思う。しかし、淳子はそれが嫌ではなかった。むしろそれが自分たちらしい告白だと思っていた。
 淳子の手は自然と塔矢の手へと伸びていた。そしてそれを握った。
 突然手を握られた塔矢はぎょっとしたようだったが、すぐにその手を握りかえしてきた。
「言っとくけど、勝ったのは私だからね」
 淳子は言った。
「ああ、お前には勝てないよ。」
 いつまでもリードを保たれたままの塔矢は言った。
 2人はそれから手を握ったまま、一言も喋ることなく座り続けていた。
 やっぱり、塔矢は私が守らなきゃだめ。危険なところに連れ出すなんてできない。
 淳子は友人たちに申し訳なく思った。


 ガシャン
 突如上から物音が聞こえた。ガラスの割れたような音だった。
「何! 今の音」
「しっ! 誰かが窓から入ってきたのかもしれない」
 淳子の声を塔矢が制した。淳子は慌てて口を閉じた。
 ギシギシと上から床のきしむ音が聞こえてきた。間違いない。誰かがこの上にいる。
 なんで? 私たちが入ってきた形跡なんかは残ってないはずなのに、ここがばれたの? それとも偶然入ってきただけなの?
 謎の進入者は家の中をぐるぐる回って何かを探しているようだった。ギシギシという床のきしむ音は止まらなかった。
 誰なの? お願いだから出ていってよ!
 淳子は神に祈るように手を合わせた。しかし、足音はだんだんと淳子たちの真上に近づいてきていた。緊張がピークに達した。同時に足音が淳子たちの真上で止まった。
 まさか! 地下室の入り口の存在がばれたの? なんで?
 ギギ…と地下室の入り口が開かれた。そこから薄暗い家の中のかすかな光が地下室に入り込んできた。ほんのりと照らされた地下室の光景が、淳子にははっきり見えるようにまでなった。
 入り口から何者かの影が、階段を2、3歩下りた所で止まった。そしてその何者かが、ガシャという音を立てながら、手に持っていたショットガンの照準を淳子たちに向けた。
「誰だ!!」
 塔矢が叫んだ。しかし、その大きな独特のシルエットで、何者かの正体はすぐに分かった。それは淳子の友人たち、上原絵梨果、小野智里、椿美咲を殺した張本人。
吉本早紀子(女子22番)であった。


【残り 22人】



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