44 雅史たちは依然として、探している者たちを、一人として見つけられずにいた。 もう少しで1時だ。2度目の放送はもうすぐという訳である。 誰も死んでいなければ良いが…。 だが誰も死んでいないことは無いだろう。最初の6時間だけで12人も死んでいたんだ。その後の6時間も相当な人数が死んでしまったのではないだろうか。そんな不安がよぎる。 靖治も浩二も稔も、3人とも生きていてくれよ。 3人の安否を心配していた雅史だが、自分自身への身の危険の恐怖は薄れていた。今はそばに仲間がいるからだ。(内一人は役に立つかどうか怪しいが) 大樹、忍、共に接近戦なら最強レベルの実力者である。この2人がそばにいることが雅史の大きな励みとなった。 「ねえ大樹、もうすぐ1時だよ」 「ああ、分かってるさ」 忍と大樹が時間を気にしだした。放送が気になるようだ。 「覚悟しとけよ」 大樹の一言に忍が頷く。はたして淳子や直美も無事でいるのだろうか。 2人の背後では武がうつむいたままトボトボとついてきている。相当に気が滅入っているようだ。 「1時だ」 大樹が腕時計を見て言った。 『おらぁ!! 1時になったぞ! それじゃあ、前の放送の後から今までの、6時間の間に死んだ奴の名前を発表するぞ!!』 全員放送の声を聞くのに集中した。 『まず男子から、8番、剛田昭夫、14番、富岡憲太、18番、野村信平、21番、福本修。 次は女子、8番、島田早紀、19番、文月麻里、20番、牧田理江。以上7名だ! まあまあのペースだな!』 何がまあまあのペースだ!! 雅史は激怒した。この6時間の間死んだのは7人。今までの死者数と合わせると、もう21人も死んだということになる。くそっ! だが少し安心もした。靖治も浩二も稔もまだ、3人とも生きている。それに忍が探している淳子や直美も大丈夫なようだ。おそらく忍も雅史と同じく、多少は安心しただろう。 雅史が安心しているその間に、榊原は次の禁止エリアを発表していった。大樹が代表してそれをメモしていく。 『今回の放送はこれで終わりだ! このペースで殺していけよ!!』 ブツンというスイッチを切る音と共に、放送はそこで終わった。 「これで残りは25人、今生き残ってるのは、クラスの約半分になっちまったわけか」 誰かに話しかけるでもなく、大樹は呟きながら、名簿に死亡者をチェックした。 残り25人…。誰なんだ? 誰がクラスメイト達を殺していってるんだ? 半日の間にクラスの半分が死んでしまった。そして、殺している側の人間は、今生き残っている25人の中にいるのだ。考えるほど恐ろしかった。 「分かったか。やる気になってるクラスメイトがいるんだ。これからは、やる気になっている生徒を見つけ次第、容赦なくこっちから攻撃するぞ」 大樹が全員の指揮をとるように言ったその言葉。雅史は驚いた。 「ちょっと待てよ、剣先。お前はそう簡単にクラスメイトを殺してしまうのか?」 「殺らなきゃ、こっちが殺られるかもしれない状況だ。敵が現れたらそいつを消す。当然だろう」 「そいつも混乱しているだけかもしれないんだぞ。話し合えば、もしかしたら…」 「混乱している奴ほど危ない奴はいない。いいか、甘い考えなんか持つな。これはそういうゲームなんだ。」 雅史は黙るしかなかった。雅史をハンマーで襲った、奥村秀夫も雅史の呼びかけには応じなかったのだ。一度それを体験した雅史には、大樹の言うことも間違いとは言い切れなかった。 しかし、この手でクラスメイトはやはり殺したくなど無い…。 「名城、お前がどう思うかは分からない。だがこれだけは言っておく。俺はこのゲームですでに狩谷を殺しているんだ」 「なんだって?」 雅史は驚いた。自分と手を組んだ大樹は、殺意など微塵も持っていないと思っていた。その大樹がすでにクラスメイトを殺していたなんて。雅史は大樹に何と言い返したらよいのか、考えつかなかった。 「勘違いしないで。狩谷は完全にやる気になっていたわ。あのまま放っておけば、いずれクラスメイトの誰かを殺していたよ。大樹はそれを阻止しただけよ」 力強く弁解したのは忍であった。忍は大樹が大介を殺した現場に居合わせたのだろうか? いずれにしろ、雅史はそれが正しい行為であるのか、過ちなのか、判断することが出来ず、押し黙ってしまった。 「そういうわけだ。以後、俺の敵となる奴は容赦なく排除するつもりだ。もちろん、お前たち3人の中から裏切り者が出た場合も、即消すことになる」 大樹が言う。それに忍は無言でうなづく。古くから大樹と忍の関係はこうだったのであろう。 「分かったな」 大樹は雅史と、怯えきっている武に向けていった。武はただガタガタふるえ、首を何度も縦に振り続けた。 殺したくない。でも殺さなければならない場合もある。そんなときは俺も人を殺すべきなのか? 雅史には分からなかった。 今雅史は“大樹”という名の“虎”と、同じ檻に入ってしまったかのようにすら思えた。 【残り 25人】 トップへ戻る BRトップへ戻る 43へ戻る 45へ進む |
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