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 雅史たちは依然として、探している者たちを、一人として見つけられずにいた。
 もう少しで1時だ。2度目の放送はもうすぐという訳である。
 誰も死んでいなければ良いが…。
 だが誰も死んでいないことは無いだろう。最初の6時間だけで12人も死んでいたんだ。その後の6時間も相当な人数が死んでしまったのではないだろうか。そんな不安がよぎる。
 靖治も浩二も稔も、3人とも生きていてくれよ。
 3人の安否を心配していた雅史だが、自分自身への身の危険の恐怖は薄れていた。今はそばに仲間がいるからだ。(内一人は役に立つかどうか怪しいが)
 大樹、忍、共に接近戦なら最強レベルの実力者である。この2人がそばにいることが雅史の大きな励みとなった。

「ねえ大樹、もうすぐ1時だよ」
「ああ、分かってるさ」
 忍と大樹が時間を気にしだした。放送が気になるようだ。
「覚悟しとけよ」
 大樹の一言に忍が頷く。はたして淳子や直美も無事でいるのだろうか。
 2人の背後では武がうつむいたままトボトボとついてきている。相当に気が滅入っているようだ。

「1時だ」
 大樹が腕時計を見て言った。
『おらぁ!! 1時になったぞ! それじゃあ、前の放送の後から今までの、6時間の間に死んだ奴の名前を発表するぞ!!』
 全員放送の声を聞くのに集中した。
『まず男子から、8番、剛田昭夫、14番、富岡憲太、18番、野村信平、21番、福本修。
次は女子、8番、島田早紀、19番、文月麻里、20番、牧田理江。以上7名だ! まあまあのペースだな!』
 何がまあまあのペースだ!!
 雅史は激怒した。この6時間の間死んだのは7人。今までの死者数と合わせると、もう21人も死んだということになる。くそっ!
 だが少し安心もした。靖治も浩二も稔もまだ、3人とも生きている。それに忍が探している淳子や直美も大丈夫なようだ。おそらく忍も雅史と同じく、多少は安心しただろう。
 雅史が安心しているその間に、榊原は次の禁止エリアを発表していった。大樹が代表してそれをメモしていく。
『今回の放送はこれで終わりだ! このペースで殺していけよ!!』
 ブツンというスイッチを切る音と共に、放送はそこで終わった。

「これで残りは25人、今生き残ってるのは、クラスの約半分になっちまったわけか」
 誰かに話しかけるでもなく、大樹は呟きながら、名簿に死亡者をチェックした。
 残り25人…。誰なんだ? 誰がクラスメイト達を殺していってるんだ?
 半日の間にクラスの半分が死んでしまった。そして、殺している側の人間は、今生き残っている25人の中にいるのだ。考えるほど恐ろしかった。
「分かったか。やる気になってるクラスメイトがいるんだ。これからは、やる気になっている生徒を見つけ次第、容赦なくこっちから攻撃するぞ」
 大樹が全員の指揮をとるように言ったその言葉。雅史は驚いた。
「ちょっと待てよ、剣先。お前はそう簡単にクラスメイトを殺してしまうのか?」
「殺らなきゃ、こっちが殺られるかもしれない状況だ。敵が現れたらそいつを消す。当然だろう」
「そいつも混乱しているだけかもしれないんだぞ。話し合えば、もしかしたら…」
「混乱している奴ほど危ない奴はいない。いいか、甘い考えなんか持つな。これはそういうゲームなんだ。」
 雅史は黙るしかなかった。雅史をハンマーで襲った、奥村秀夫も雅史の呼びかけには応じなかったのだ。一度それを体験した雅史には、大樹の言うことも間違いとは言い切れなかった。
 しかし、この手でクラスメイトはやはり殺したくなど無い…。
「名城、お前がどう思うかは分からない。だがこれだけは言っておく。俺はこのゲームですでに狩谷を殺しているんだ」
「なんだって?」
 雅史は驚いた。自分と手を組んだ大樹は、殺意など微塵も持っていないと思っていた。その大樹がすでにクラスメイトを殺していたなんて。雅史は大樹に何と言い返したらよいのか、考えつかなかった。
「勘違いしないで。狩谷は完全にやる気になっていたわ。あのまま放っておけば、いずれクラスメイトの誰かを殺していたよ。大樹はそれを阻止しただけよ」
 力強く弁解したのは忍であった。忍は大樹が大介を殺した現場に居合わせたのだろうか? いずれにしろ、雅史はそれが正しい行為であるのか、過ちなのか、判断することが出来ず、押し黙ってしまった。
「そういうわけだ。以後、俺の敵となる奴は容赦なく排除するつもりだ。もちろん、お前たち3人の中から裏切り者が出た場合も、即消すことになる」
 大樹が言う。それに忍は無言でうなづく。古くから大樹と忍の関係はこうだったのであろう。
「分かったな」
 大樹は雅史と、怯えきっている武に向けていった。武はただガタガタふるえ、首を何度も縦に振り続けた。

 殺したくない。でも殺さなければならない場合もある。そんなときは俺も人を殺すべきなのか?
 雅史には分からなかった。
 今雅史は“大樹”という名の“虎”と、同じ檻に入ってしまったかのようにすら思えた。



【残り 25人】



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