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 雅史が大樹達と合流した、まさにその時。雅史のいる場所からはかなり離れた林の奥地に、雅史が探している親友のうちの一人、桜井稔(男子9番)はいた。
 この時の稔が考えていたことは雅史と同じ、とにかく親友の3人を見つけようと考えていた。しかし実際に探すとなると、こんな広い島の中から、たった3人の人間を見付けるのは骨であった。
 稔の小さな体が震えた。気が強いわけではない稔が、たった一人でこの薄暗い林にいるのはやはり不安なのだ。しかも稔に支給された武器は裁縫針10本ときたもんだ。全く役に立ちそうにない。
 この不安を振り払うには、やはり親友3人との合流が必要である。歩き続けた疲れにも耐え、とにかく早く3人を見つけるため、休憩を取ることもなく歩き、そして探し続けた。
 かすかに吹く風により、時折、辺りの茂みがカサカサと音を立てた。稔はその音が聞こえるたびにビクビクしていた。本当にこの気の弱さを何とかできないだろうかと稔は思った。
 そう思ったとき、突然風が起こした音などとは比べものにならないくらいの大きな音で、すぐ近くの茂みがガサッと音を立てた。稔の心臓は飛び出しそうだった。すぐ側に誰かがいるのは明らかだった。稔は視線を音がした方へと移したが、そこには人の姿はなかった。
 おかしい。今の茂みの音は確かに人が鳴らした音だったように聞こえたが、ただの自分の思い過ごしだったのか?


「だ、誰かいるの?」
 恐る恐る茂みの中へと呼びかけた。もしかしたら誰かが隠れているのかもしれないと思ったからだ。しかし返事は返ってこない。
 稔は音のした方を凝視したまま体が硬直してしまった。寝癖のようなぼさぼさの髪の生え際から眉にかけて、一筋の汗が流れてきた。
 少しの間辺りは静まり返った。それは本当に少しの時間だったのだが、稔にはそれが無限の時のように感じた。
 そしてその少しの間が過ぎたときだった。稔が凝視していた茂みの中から誰かが飛び出してきた。そして立ち上がると同時に、その“誰か”は手に持っていた物、拳銃を稔に向けた。
 バン!
 稔はその“誰か”の姿が現れた時点で驚きまくっていたのだが、その音を聞いて腰を抜かしてしまった。稔はその場にヘタンと座り込んでしまった。
 稔は少しの間放心状態で立てず、ガタガタと震えていたのだが、少し考えてから「おや?」と思った。
 痛くない。拳銃で撃たれたはずなのに…。
 稔は手で体のあちこちを探ったが、どこにも銃弾による怪我など無く、かすり傷すら見つからなかった。
「お、おいおい。そんなに驚いたか?」
 その“誰か”が言った。その声を聞いて稔は本当に驚いた。
「こ、浩二ぃ!?」
 稔が目の前に立った誰かに視線を向けると、そこにはたしかに親友の一人である
杉山浩二(男子11番)がいた。不思議な感じだった。まさか本当に会えるだなんて。
「いや、悪い悪い。まさか口でバンって言っただけで、ここまで驚くとは思ってなかったよ。」
 浩二は頭をかきながら、少しだけ申し訳なさそうな顔をした。
「さ、探したよ浩二」
「俺もだよ。まさか会えるとはちょっと思ってなかったけどな」
 浩二は皮肉っぽい言い方で返してきた。いつもの浩二である。稔は悠久の時間会っていなかった友人に会えたかのように、心の底から喜んだ。態度にはあまり出さないが、それは浩二も同じであっただろう。
「しかし、その様子じゃあ、雅史や靖治には会えてないみたいだな」
 浩二がそう言った。その発言は浩二もその2人に会えていないということを稔に理解させるには十分だった。
「残念だけど、まだ2人には会えてないよ」
「まあ仕方ないよな。こうしてお前と俺が会えたのも偶然だったんだからな。そう上手く偶然ばかりが重なりはしないだろうしな。」
「そうだね。でも僕はまだあの2人を見つけることは諦めてはいないよ」
 稔は自分の意志を伝えた。
「それは俺も同じなんだが、それよりも俺は先にやっておきたいことがあるんだ」
 浩二のこの発言は稔にはよく分からなかった。
 なんだろう? 2人を見つけるよりも先にしたいことって。
 稔が浩二に聞こうとしたが、稔が言うよりも早く、浩二は話を先に進めた。
「実は稔に手伝ってもらいたいことがあるんだ」
「何? 僕が手伝うことって?」
 稔はますます訳が分からなくなったが、次の瞬間、浩二の口からとんでもない言葉が飛び出した。
「この島からの脱出計画さ」
 当然稔は驚いた。
「だ、脱出だって? まさか、浩二は脱出する方法を思い付いたの?」
 信じられなかった。脱出を2重3重に防いでいるこのプログラムのシステム、稔もさっきまで色々と策を考えてはいたのだが、全く良いアイデア等は浮かんでこなかったのだ。そんな難題を浩二は解いてしまったのだろうか。
「思いついた…うーん、まあそんなところかな」
「どんな方法?」
 稔は当然の質問をした。答えが分からない問題の模範解答が聞きたくなるのは、人間として当然のことだろう。しかし浩二はこう言った。
「それはまだ言えない」
 がっかりだ。
「悪いが訳あって、いくら稔にでも今は教える事は出来ない。だがこの方法は上手く事が進めばおそらく成功するはずなんだ。だけど問題はそれを実行するにはもう少し準備が必要なんだ。
当然雅史たちを探したいとも思っているが、今はそこまで時間に余裕はない。だから今は雅史達を探すよりも先に、それの準備を整えたいんだ。もちろんその後は2人を探すつもりだ。手伝ってくれるか、稔?」
 稔は脱出方法というのがどんなものなのか気にはなったが、今言っていたように、浩二がそれを言わないのは何か理由があるのだ。稔はそれに関してはもう何も聞き返さなかった。
「もちろんだよ、浩二」
 稔が言うと、浩二は「サンキュー、稔」と言った。いつもどおりの軽い口調だった。
「それじゃあ早速準備を整えたいんだが、ここじゃだめなんだ。だから悪いけど少し移動するぞ」
 浩二がそう言ったので、稔も立ち上がろうとした。しかし、いまだ腰が抜けたままで、立ち上がることができなかった。
「はは、何やってるんだよ稔」
 そう言って浩二が手を差し伸べてきた。稔はそれを握り、浩二の力を借りてなんとか立ち上がることが出来た。

 なんだか少し恥ずかしかった。



【残り 26人】



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