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 大樹と武が雅史の方を向いた。敵襲を恐れていたらしい武の顔が、明らかに引きつっているのが分かる。対して大樹の顔はいつもと変わらなかった。
「何か用か、名城?」
 全く驚いた様子すら見せず、大樹はいつもと変わらぬ口調で話しかけてきた。どうやら雅史を敵と見なしていきなり攻撃してくるという気はなさそうだ。少しホッとした。
「3人に聞きたいことがあるんだ」
「何よ?」
 返してきたのは大樹ではなく忍であった。忍は警戒した眼差しでこちらを見ている。雅史は気にせずに続けた。
「誰かいままでに、靖治か浩二か稔の姿を見かけなかったか?」
 わりとすんなりと本題に入ることが出来てよかった。
「いや」
 大樹はそれだけ言うと視線を忍に向けた。それに気づいた忍も「あたしも知らないよ」と言い、今度は全員の視線が武に向かった。
「えっ!?し、知らないよ! 僕も知らない!!」
 全員の視線が自分に向かっているのに気がついた武が、焦りながら答えた。
 ガッカリだ。せっかくまともそうな人間を見付けたというのに、収穫はゼロ。泣きたい気分だ。
「そういやその3人は名城の連れだったな」
 忍が思い出したように言った。
「じゃあ今度はこっちから質問させてもらおうか」
 大樹の突然の切り返しに焦った。まさか自分が答える側になるとは。
「忍」
 大樹は忍を肘でつついた。忍は「ああ。」と大樹の言っていることを理解したらしく、名城に向かって質問を始めた。聞きたいことがあるのは大樹ではなく、どうやら忍の方だったようだ。
「あんたも人探ししてるみたいだけど、じつはあたしも探してる子がいるんだ」
 先ほど雅史が盗み聞きしていた会話のことだろう。雅史は特に余計なことは何も言わず、ただ「誰?」と必要最低限の質問だけした。
「直美と順子だ」
 忍がそう答えるのを、雅史はじつは少し予想していた。
 この殺し合いゲームの中、一番信頼できる人物といえば、普段からの親友である。忍にとっての親友とは石川直美と戸川順子の2人を含む、あの女子仲良しグループメンバー達である。しかし、今現在早くもそのメンバーの中で生き残っている者といえば、忍を除けば直美と順子しかいないのだ。となると忍の探し人とは、自然と直美と順子に絞られるのだ。
 しかし、雅史は忍の期待に応じれるような回答は出来ない。雅史がこれまでに出会った者といえば、奥村秀夫と富岡憲太の2人だけなのである。しかも秀夫は既に死亡しているとはいえ(雅史は放送後に憲太も死んだ事を知らなかった)雅史が出会った2人は、ゲームに乗った人間なのだ。なのであえてその話には触れないようにした。
「いや、残念だけど、どちらも俺は見てないよ」
「そう」
 雅史のその回答に平然とした顔で返した忍であったが、どこか声は沈んでいるように感じられた。

「お前はまだその3人を探すのか?」
 大樹が静かな声でたずねた。雅史は自分の決意を伝えた。
「…もちろんだ。俺は死ぬ前に、あの3人にはもう一度会っておきたい…」
「なるほどな…」
 大樹がつぶやいた。
「もしもだけど…、良かったら、俺もお前たちの仲間に入れてくれないか?」
 雅史は聞いた。もしかしたら大樹はこれを拒否するかもしれない。しかし、大樹たちは初めてであったマトモな人間である。そういう人間を探していた雅史が大樹たちと手を組みたいと思うのは、当たり前の感情だっただろう。すると大樹は少し間を空けてから言った。
「裏切りは厳禁だ。もしもそういうことがあったらタダじゃおかないからな」
 雅史は少し驚た。その返答はおそらく雅史が仲間になることを了解したであろう返答であったからだ。
「ああ、当然だ」
 雅史が言った。


「ちょ、ちょっとまってよ!!」
 横から声を挟んできたのは武だった。
「まだ名城が安全な奴かどうか分かんないだろ。しかもあいつ銃もってるんだぜ」
 武が指を刺した方向、そこにはコルトパイソンを握った雅史の手があった。
「このグループに入り込んでから全員を殺害しようとか考えたりしてるかもしれないんだぞ」
「てめえはだまってろ、坪倉!」
 突然の大樹の怒鳴り声に武はビビり、抗議をそこで止めた。
「名城のほうが、武、お前なんかよりは、よっぽど役に立ちそうなんだよ。
心配するな。名城がもしやる気だったとしたら、俺たちに声をかける前に銃を撃ってきてるはずだ。なのにあえて近づいてきたんだ。おそらくこいつには害はない。それに万が一裏切ろうとしても、接近戦で俺が名城に負けるはずがないしな」
 大樹の言う事はもっともであろう。
 とにかくこんな時に、ここまで冷静に考えられる大樹を雅史は少しすごいと思った。ただ空手が強いだけというわけではなかったようだ。もしかしたら浩二と似たタイプなのかもしれない。
「反論は受付けねえぞ、坪倉」
 武は怯えた様子で以後反論はしなかった。
「忍も反論はないだろうな?」
 忍は「別に」とだけ言った。
「こういうわけだ。名城、俺達は手を組むのには問題はないぞ」
「ああ、よろしく頼むよ剣崎」
 雅史は表情を少し和らげて大樹に言った。
 大樹のしわを寄せたままだった眉間が、すこしだけ緩んだように見えた。



【残り 26人】



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