38


 麻里は自分の目の前で起こっている出来事に呆然とした。
 確かに麻里は、早紀に向けてグロックを発砲したはずであった。しかし見ると、地面の上に倒れているのは、早紀ではなく理江であった。


「…えっ?えっ?」
 しかし、麻里はその状況を理解できなかった。
「り、理江…?」
 麻里は目を霞ませている自分の涙を制服の裾で拭き取り、もう一度目の前で起こった出来事を把握しようとした。しかし、拭き取っても拭き取っても、まだ痛む目からは次々と涙が溢れ出し、まともに前を見ることができない。それでも涙で霞む目を凝らして見ようとした。すると、かすかにだが、やはり早紀の足元で理江が倒れている姿が確認できた。
「理江ぇーーーーーー!!」
 麻里は早紀の存在など気にも止めず、とにかく理江の方へと駆け出した。
 理江の倒れている場所に着いた麻里は、理江の上半身を抱き上げた。
「理江!!しっかりしてぇ!!理江ぇ!!」
 麻里はまったく動きすらしない理江に向かって呼びかけた。しかし理江からは返事が返ってこなかった。
 理江の体を揺さ振ると、理江の頭が、まるでのけぞるかのように、ガクンと背中の方に折れた。理江の首には、すでに頭を支えるだけの力は込められていないのだ。つまり、この時点で理江は事切れていたのだった。
 麻里の目はまだ霞んでいたが、これだけ近寄ると理江に何が起こったのか知ることができた。
 理江の頭には、内部で一直線に伸びた、何かが貫通した穴が開いており、そこから考えられないような量の血が流れ出していた。そして流れ出したその血が、理江のからだを抱きかかえている麻里が着ている真っ白な制服を、赤々と染めていった。
 死因は一目瞭然であった。早紀が石を叩き付けて出来た傷などではない。明らかにこの貫通した穴が致命傷となったのである。
 麻里は訳が分からなかったが、考えられることは一つであった。そう、涙のせいであまり前がはっきりと見えていなかったため、麻里の銃の照準が狂い、撃ち放たれた銃弾が、早紀ではなく理江に当たってしまったということだ。つまり、理江を殺したのは他ならない、麻里自身であったのだ。
 しかし麻里は自分が理江を殺したなどと信じられなかった。
 あれだけ友情を誓い合った麻里と理江。その友情にピリオドをうったのがまさか自分だなんて。
 理江の生気の無い、虚ろな瞳が麻里を見上げている。その瞳が昔のように、生き生きとした輝きを見せることは、もう二度と無い。
 麻里の目からさらに涙が溢れ出した。しかし、今度の涙は目の痛みによるものとは、まったく別の涙であった。
「…あ、あはははははは!!」
 麻里のその光景を呆然と見ていた早紀だったが、突然笑い出した。
「良い!!すごく良いわ!!自分の親友に殺されるなんて、あの女には最高にお似合いの死に方よ!!」
 その言葉一つ一つが麻里の何かに突き刺さった。
「あらやだ、私まだこんなの握ってたんだ。」
 早紀は自分の手に持っていた、理江の血で真っ赤になっている石を、もう動かなくなった理江の頭に向けて投げつけた。石は麻里の膝の上に乗っている、理江の頭にダイレクトで命中した。すると、頭蓋骨に大きな損傷を負っている理江の頭が、ガコッという音とともに、いとも簡単に陥没した。
 その時、理江の頭から飛んだ血の数滴が、麻里の顔にかかった。
 そのとき、麻里の中で悲しみとは別の感情が目覚めた。
 早紀のせいだ…。早紀さえ現れなかったら…。早紀が理江を襲わなかったら…。早紀が生きていなければ…。早紀が死んでいたならば…。理江は…。理江は…。
 麻里の中で新たに目覚めた感情、そう、それは早紀に対する怒りであった。
 突如、麻里の手が何かに操られるかのように動いた。そしてその両手を突然早紀の方へ向けた。
「な、何なのよ!?」
 突然の麻里の行動に早紀は驚いた。麻里の手には、理江を死に追いやったあの銃、グロックが握られていたからだ。
「何よ!あの子を殺したのは私じゃないわ!!アンタよ!!アンタがあの子を殺したのよ!!」
 それが引き金となった。麻里の指は自然と動いていた。
 バンッ!!
 乾いた音が森林に響き渡った。同時に早紀が血を辺りに撒き散らせながら、バタンとその場に倒れた。
 地面に倒れた早紀の頭には、理江の致命傷となった穴が出来ていた場所と、全く同じ場所に、銃弾が貫通した穴が開いていた。
 麻里の手から離れたグロックが地面に落ちた。
 麻里は焦点の定まらない目で、どこか遠くの方を見ているようだった。そして言った。
「ごめんね…理江…」
 それは麻里の膝の上にいる理江以外には、誰にも聞こえないくらいの小さな声での呟きであった。


 『牧田理江(女子20番)・・・死亡』

 『島田早紀(女子8番)・・・死亡』



【残り 27人】



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