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「ねえ、あんたは何処の小学校から来たの?」
 教室内で麻里の後ろに座っていた、会ったことも話したことも無い女の子が話しかけてきた。
 今日は市立飯峰中学校の入学式。式が終わったばかりの新一年生達は、初めて中学校の教室に入り、そして新たなクラスメイトたちとの顔会わせをしている最中である。
 文月麻里もその新一年生の中の一人である。
 先ほど初めて着たセーラー服に少し恥ずかしがりながら式を済ませた。新しいセーラー服は少し大きめで、まだ汚れたことの無い生地は真っ白で美しかった。
 麻里はセーラー服を着るということに少しあこがれていたので、実際に着ることが出来、本当にうれしかった。
 ああ、自分は本当に中学生になったんだと実感した。
 周りの生徒にしてもそうだろう。皆それぞれ着慣れないセーラー服、男子なら学ランを窮屈そうに着ている姿が、とても初々しく見えた。
 辺りを見回してみると、麻里の知っている生徒は少なかった。
 ここ飯峰中学校に入学してくる生徒は、ほとんどがこの市内の4つの小学校から上がってきた子達である。単純に計算してみても、クラス内には同じ小学校から上がってきた子は4分の1ほどしかいないのだ。しかも、同じ小学校だった子も、同じクラスになったことが無いという子が多く、そうなると知っている子など、ごく僅かに限られてくるのだ。
 麻里は新しいクラスで、ちゃんと友達が出来るかどうかが不安だった。
 そんなときに、突然背後から話しかけてきた女の子。麻里はどう対応したらいいのか少し焦った。
「ひ、東小学校・・・。」
 麻里はまるで片言の日本語を話す外国人のようになって、それだけ言った。
「東校かぁ〜。私は中央小学校出身なんだ。」
 その女の子は、麻里が緊張しているのを察したのか、緊張をほぐすかのような口調で返してきた。
 麻里のその女の子の第一印象。髪は長め、顔は整っており、はっきり言ってこの年から大人顔負けの美人であると思った。
「ん?私の顔がどうかした?」
 麻里はその女の子の言葉を聞いてハッとした。そして視線を下にそらした。どうやらその子の顔に見とれてしまっていたらしかった。すごく恥ずかしかった。
「い、いや別に・・・そんな訳じゃ・・・。」
 焦りながら何か言い訳をしようとしたが、麻里には良い言い訳が考え付かなかった。そして、
「綺麗な顔した人だな〜って思って・・・。」
 つい思ったままの事を口にしてしまい、その後ハッとして、ものすごい恥ずかしさで、顔を真っ赤にしてしまった。
「プッ!」
 目の前の女の子が笑い出した。
「あははは! いきなり何言うの!」
 笑われて当然である。今の麻里の発言は、初対面の人に向かって、普通は言える台詞ではない。それを真顔で言ってしまったのだ。麻里の顔はさらに真っ赤に染まってしまった。
「アンタ面白いわ〜!」
 目の前の女の子はまだ笑い続けていた。
「あんまり笑わないでよ。」
 麻里は視線を女の子の顔に戻した。いくらなんでも初対面の人にここまで笑われると、さすがの麻里も黙っているわけにはいかなかった。
「あはは、ゴメンゴメン。」
 女の子はさすがに失礼だと思ったのか、必死で笑いをこらえた。(しかし顔はまだ笑っていた。)
「でもさ〜、あんたのその発言も普通はないとおもうよ。」
「そうだけどさ。」
「じゃあ言わせてもらうけど、あんただって十分カワイイと思うよ。」
 女の子はにこやかに言ってきた。
 え?自分では思ってもいなかったことを言われた麻里は、さらに顔が赤くなってしまった。
「ねえねえ。あんたの名前は何っていうの?」
 女の子がそう聞いてきたので、麻里はそれに答えた。
「文月麻里です・・・。」
 女の子は相変わらず笑顔で、今度は自分の紹介を始めた。
「あはは、私の名前は牧田理江。これから3年間よろしくね。」
 そう言って理江と名乗る女の子は、麻里の手を握ってきた。


 これが麻里と理江の初めての出会いだった。
 これ以降、麻里と理江は一番の親友同士として付き合ってきた。苦しい時は一緒に苦しみ、悲しい時は一緒に泣き、うれしい時は一緒に喜び、そして楽しい時は一緒に笑ってすごした。いつの間にか、麻里にとって理江は無くてはならない存在になっていた。
 麻里は理江が大好きだった。

 そして今、麻里は理江を助けるために引き金を引いた。理江には絶対に死んでほしくなかった。
 麻里はまだ涙を流し続け、よく見えていない目で、理江と早紀のほうを見た。一人の女生徒が立っているのが見えた。そして、その足元では頭から血を流した女生徒が倒れているのが見えた。
 麻里は涙をぬぐって、その光景をもっとよく見ようとした。そして愕然とした。
 地面に倒れている女生徒は、早紀ではなく理江だった。



【残り 29人】



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