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 信平は自分の右肩を見た。信じられなかった。自分の右肩から今まで見たことが無いくらいの量の血が噴出していたのだ。
 痛い!!肩が千切れそうな感覚だ。
「信平!!」
 すぐ隣の昭夫もそれを見て驚いたようだ。急いで信平の肩の方へ駆けつけようとした、が、何かを見て信平を突き飛ばした。
 突き飛ばされた信平は、地面の上にドサッと倒れた。
 何が起こったのかわけが分からなかったが、ふと上を見上げると、ついさっきまで自分の首があった辺りの空中を、何かが一瞬で通過したのが見えた。それはチェーンソーの刃だった。昭夫に突き倒されなければ、今頃信平の首は切り刻まれていただろう。
「ヤロォ!!須王!!」
 昭夫が信平の背後に立つ人物に向かって言った。今の昭夫の一言で、信平を襲った者の正体は分かった。そうだ、
須王拓磨(男子10番)だ。
 信平はその姿を自分の目で確認しようと振り返ると、そこに立っていた須王は何かがおかしかった。顔だ。顔の右半分が火傷のようにただれ、右目も白目をむき、血管を浮き上がらせているのだ。その顔に薄気味悪い笑みを浮かべた須王の姿はさらに不気味であった。


「さすがに反応がいいな。剣道部主将さんよぉ」
 須王は何事も無かったかのように、淡々としゃべった。
「おい、テメエその顔はどうした!?」
 昭夫も信平と同じ場所に目が行ったようだ。当然だ。あの顔を見て、火傷に気が付かない奴など、まずいないはずだ。同時に、それを見た者は間違いなく、それについて問うであろう。それぐらい今の須王の顔は強烈だった。
「これか? ちょっと油断したら霧鮫の奴に硫酸かけられちまってな。まあ気にするほどのことじゃねえよ」
 霧鮫…?
 信平は痛みをこらえながら、すでに不良少女霧鮫美澪が死んでいるということを思い出した。
 前々から信平も、美澪が早くも死んだことが放送されて、気になってはいたのだ。いったい、あの霧鮫を殺したという恐ろしい人物は誰だったのか? だが、その答えは今見つかった。そう、今、目の前にいる男、須王拓磨こそが、あの美澪を殺した本人だったのだ。
「信平をこんな目に合わせた、テメェは絶対にゆるさねえ!!」
 昭夫は今にも須王に飛びかかりそうな勢いで睨み付けていた。
「おいおい、お前は確か誰も殺したくないんじゃなかったのか? それから死ぬのを待つって言ってたよな? だから俺がお前達のその望みを、手っ取り早く叶えてやろうと、手助けしてやっただけじゃねえか」
「それとこれとは話が別だー!!」
 昭夫はついに須王に飛びかかった。もちろん日本刀を握りしめながらだ。
「そうこなくっちゃな」
 須王はまるで楽しんでいるかのような口調で言いながら、右手に持っていた物を構えた。チェーンソーだ。
 あれで俺の肩を…。
 先ほど信平を裂いたばかりのチェーンソーは、機嫌良く音を鳴らしながら、勢いよく回転しだした。
 信平自身も須王に飛びかかりたかったが、肩の痛みのせいで、体が全く言うことを利かない。そもそも信平では飛びかかれたとしても、チェーンソーを持つ須王には勝ち目は無かっただろう。
 そうこうしている内に、昭夫は怒りの一撃を放った。しかし須王の頭に向けて振り下ろされた日本刀は、須王の頭にたどり着く前に、横から飛び出してきたチェーンソーに行く手を阻まれた。しかし振り下ろされた日本刀の勢いは止まらず、チェーンソーにぶつかった。瞬間、チュイィィィンと火花を飛ばしながら、勢いよく回転するチェーンソーの刃に刀が弾かれた。
「クソッ!!」
 昭夫はそれでも猛攻を止めなかった。
「ハッハ!! そうだよ!! 手を休めずに本気でかかってこいよ!!」
 須王の口調には余裕すら感じられた。
 キィィィン!! ギュィィィン!! ヂュィィィン!! ガキィィィン!!
 日本刀とチェーンソーは何度も何度もぶつかった。昭夫の攻撃がことごとく須王に防がれているのだ。
 だが、信平には昭夫が押されているようには見えなかった。須王の攻撃も、昭夫が全て防いでいるのだ。そう、2人は完全に互角の戦いをしているのだ。
「クソ死ねぇぇぇ!!」
 昭夫が剣道の“胴”を打つのと同じ形で日本刀を須王へ向けた。須王はギリギリのところでそれを止める。
「面白ぇ!! やっぱり強え奴と戦うのは楽しいぜ!!」
 くそぉ。こいつ楽しんでやがる!!
 信平の肩がまた一段と痛み出した。
 須王は後ろに飛び上がって着地すると手を地面に着けた。
「それじゃあ、これでどうだ!!」
 すると須王は地面をぎゅっと握り、つかんだ砂を昭夫の顔めがけて投げつけた。砂は昭夫の顔にかかった。
「ぐあっ!! 目が…」
「隙あり!」
 目に砂が入って苦しむ昭夫に向かって、須王はチェーンソーを突き出した。
「やめろぉぉぉ!!」
 信平は無意識で叫んでいた。



【残り 31人】



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