31 貴宏は、憲太の銃、つまりスミス&ウエスンを手に入れて、とてつもない至福を感じていた。そう、今度手に入れたのはモデルガンなどではない。本物の銃なのである。夢にまで見た本物の銃が、今自分の手の中にあるのである。 撃ちたい。 貴宏は突如そう思った。 せっかく手に入れた本物の銃なのだ。さっそく試しに本物の銃を撃つ感覚を楽しみたい。 貴宏は辺りを見回した。的になるような物がないか探したのだ。だがここは林の中、辺りにあるのは当然、木々や茂みしかなかった。 しょうがないなぁ。じゃああの木の枝でいいや。 貴宏は一本の木の枝に目をつけた。周りの枝と比べても、細くもなく太くもない普通の枝である。とにかくその枝が、貴宏が決めた“的”であった。 貴宏は他の荷物を地面の上に置き、スミス&ウエスンだけをしっかりと握り締め、狙いを“的”に定めた。 ドゥンッ!! 辺りに大音響が響き渡った。貴宏自身もあまりの音の大きさに驚いた。耳鳴りまでしている。 話に聞いていたとおり、銃を撃った時の反動はすさまじかった。実際、撃った瞬間、身軽な貴宏の身体は後ろに倒れてしまっていた。撃ったときの衝撃で、手もしびれてしまっている。 そうだ! 枝は!? 貴宏はバッと起き上がり、狙っていた木の枝を見た。が、そこには狙っていたはずの枝がなかった。 その枝は木の根元に落ちていた。そう、貴宏の撃った銃弾が見事に枝を直撃し、折れて地面に落ちていたのだ。 やったぁ!! 見事に“的”を撃ちぬくことに成功した貴宏は更に喜んだ。 やっぱり本物の銃はすごいや!! 貴宏はそう喜んでいたが違う。自分でも気がついていなかったが、銃がすごかったのではない。初めて本物の銃を撃ったというのにもかかわらず、たった一発で的を撃ち抜いてしまった、貴宏自身が異常だったのだ。いままで貴宏の中に蓄積されていった“銃に関しての知識”がこれを成功させたのであろう。だが貴宏はそんなことに気がつくこともなく、次の願望を抱き始めた。 もっと別の“的”に向けて撃ってみたい。それも動く的がいい。 要するに生き物のことである。 貴宏の思っている事はおかしなことではない。趣味で狩猟をやっている人が、木の枝を撃ちぬくことに喜びを感じるだろうか? いや、そんなことはない。ハンターと言う者は、生きている獲物を仕留める事こそが快感なのだ。今の貴宏の心情は、まさにハンターそのものになっていた。 ガサッ そんなとき、タイミングよく茂みの中を、一匹の野ウサギが駆け抜けるのを貴宏は見つけた。 貴宏の銃を握った手は、まっすぐ野ウサギのほうへと向けられた。一瞬であった。 ドゥンッ!! 再び大きな銃声が鳴った。 やはり撃った時の反動はすさまじかったが、さっき一度経験したばかりなので、先ほどのように倒れる事もなかった。 貴宏は急いで茂みの方へ走り寄った。 茂みをかき分けて覗き込むと、そこには血を流し、既に動かなくなった野ウサギが倒れていた。 やったぁ!! 貴宏の銃弾は、またしても一発で“的”を撃ちぬいたのだ。しかも今度の的は先ほどの的とは違って“動く的”である。そう簡単に打ち抜けるものではなかった。だが、そんなことは貴宏には関係なかった。ただただ銃に対して「すごい」と思うだけであった。 やっぱり本物の銃はすごいよ!! さっきまで生きていた動物が一瞬のうちに死んじゃうんだよ! こんなすごい物他にはないよ!! 貴宏はその銃を見ながら笑い出した。喜びながら、貴宏は次の的は何がいいか考え出した。すると一つの願望がそのとき生まれた。その願望は今までの願望よりもよりいっそう恐ろしいモノであった。 この銃で人を撃ってみたい…。 【残り 31人】 トップへ戻る BRトップへ戻る 30へ戻る 32へ進む |
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