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 富岡憲太(男子14番)は、デイパックの中に島の地図と共に入っていた46人の名前が書かれたクラス名簿を地面の上に開き、今の榊原の放送で名前が読み上げられた12人の名前の部分に、ボールペンで横線を引いた。
 これで、出発前に死んだ2人の名前を含めると、名簿の上には14本の線が引かれたことになる。つまりその14本の横線は、すでに死亡した生徒を表す。
 14本目の線を引き終わり、憲太はボールペンをペンケースの中にしまった。
 これで残り32人か…。
 憲太はチラッとそばに置いたままの拳銃、『スミス&ウエスンM19』を見やった。
 残り32人ということは、単純に計算すると、自分が最後まで生き残れる確率は32分の1である。確率は非常に低い。しかし、スタート時の44分の1と比べるとかなり前進したともいえる。このままのペースで、他のクラスメイト達が死んでいってくれれば、自分にも生き残れる確率は十分にある。なにしろ憲太は銃を持っているのだ。敵が現れた時も、自分がためらわずに引き金を引きさえ出来れば、まず負ける事はない。しかし、もちろんそれは相手が飛び道具類の武器を持っていなかったらの話である。
 数時間前に、雅史を見つけた際、確かに憲太はためらわずにスミス&ウエスンを発砲した。しかし、その雅史が銃を持っていたというのは、正直、計算外だった。それに先制できたにもかかわらず、一撃で仕留める事が出来なかったのも失敗である。最初の一発が雅史に当たっていれば、銃を持っていたとしてもなんら問題はなかったはずだ。次からは慎重に撃たなければ。
 憲太は自分の失敗に反省し、そろそろ移動しようと思って、そばの銃に手を伸ばそうとしたその時だった。
「けーんた君」
 その声に驚いて憲太は声がした前方を見た。目の前に立っていたのは
沼川貴宏(男子17番)、あの拳銃マニアだ。しかもその拳銃マニアの手には銃が握られており、さらにはその銃口が、明らかに憲太の眉間の方を向いていた。(もちろん、貴宏が持っていた銃は本物ではなく、ただのモデルガンであったが、憲太がそれを知るわけがなかった)
 それから貴宏のもう片方の手には、斧が握られているのも確認できた。
 くそっ! こんな時に!!
 憲太は銃をそばに“置いておいた”ことに後悔した。
 出発前、榊原に飯田健二が撃たれた時の一件を見た憲太は知っていた。自分と同じく貴宏は、このプログラムをやる気になっている側の生徒なのだ。そんな貴宏の目の前で、銃を拾おうとするのは不可能である。憲太が銃を拾い、そして貴宏に狙いを定めて発砲するよりも、貴宏が引き金を引くほうが早いに決まっているからだ。攻撃のしようがなかった。
「だいぶ前に、こっちの方で銃声が聞こえたから来てみたんだ。やっぱりここに銃があったんだね」
 銃声。おそらく雅史に向けて撃った時の音であろう。くそっ、あの後さっさとこんな所から移動しておけばよかった。
憲太は後悔したがもちろんもう遅かった。


「ねえ憲太くん。その銃、僕に頂戴♪」
 貴宏が要求してきたが、そんな要求に応じる事が出来るはずがなかった。
 冗談じゃない。自分の銃まで貴宏に渡してしまったら、ますます勝ち目がなくなるのだ。
「ねえ、憲太くん」
 貴宏が一歩前に歩み寄った。
 しかし、銃を渡さなかったら当然、貴宏の銃が憲太の額を撃ち抜くであろう。憲太には前にも後ろにも道は残されてはいなかった。しかしこの後どうするか、2つのうち1つを選択しなければならない。迷った挙句、憲太は銃を貴宏に渡す事を選択した。もしかしたら見逃してもらえるかもしれないという可能性を考えてのことだった。
「わかった! お前に銃を渡すから、俺を殺さないと約束しろ!」
「うん、いいよ」
 貴宏は即答した。銃を手に入れる以外には、何にも興味はないといった感じだ。
 貴宏は憲太のスミス&ウエスンの方へ近づいてきた。憲太はこのとき、貴宏がそばにきたときに反撃にかかれないかとも考えたが、貴宏の銃口が憲太の額を狙い続けており、恐ろしくて反撃などできなかった。
 貴宏はスミス&ウエスンを拾い上げた。
「さあ、渡したぞ! 約束どおり俺を見逃してくれよ!!」
「うん、ごめんね♪」
 貴宏は短く、その一言だけ言うと、ブンッと斧を振った。
 斧は瞬時に憲太の顔面を砕いた。ボキィと鼻骨が砕ける音がした。
 あまりにも一瞬の出来事だったので、憲太は何が起こったのか理解する時間もなく崩れ落ちた。
「やっぱり約束守れなかった♪」
 貴宏は、憲太の顔から流れ出して出来た、血の水溜りの中に立って、そう付け加えた。


 『富岡憲太(男子14番)・・・死亡』


【残り 31人】



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