雅史は目を覚ました。どうやら今までずっと眠ってしまっていたらしい。
 眠い。
 起きたばかりのせいか、雅史の眠気はまだとれていなかった。頭もきちんと働いていない。
 頭がガンガンする。まるで今までずっと硬い地面か何かに頭を押し付けて眠っていたみたいだ。例えるならば授業中につい眠くなって硬い机の上に頭を突っ伏して眠っていたとき、あれと同じような痛みだ。しかしそれはただの例え話ではなくなった。
 雅史はギョっとした。自分は確かバスの中にいたはずだと思っていたのに、今は学校の教室にいるのだ。そして本当に今まで机の上に突っ伏して眠っていたようだった。
 まさか自分は授業中に眠ってしまっていたというのか?
 じゃあ、今までバスの中にいたと思っていたのは夢?
 修学旅行なんてまだ先の話だったというのか?
 雅史はいろいろなことを考えたが、そうだとしてもおかしいことがある。教室の中が妙に薄暗い。
 今は夕方か?
 そう思ったがそうではない。どうやら今は真夜中のようだ。廊下から入ってくる非常口の緑色のライトだけが教室に射し込んでくる唯一の光だ。その光で照らされた薄暗い教室に何か違和感を感じた。その違和感は一瞬で何なのかわかった。
 ここは自分達の学校の教室ではない。その証拠に雅史たちの中学は鉄筋コンクリートで作られているのに対して、この教室はどう見ても木造であったからだ。それに教室の広さも雅史たちの教室とは異なっているようだ。
 雅史は周りをもっとよく見てみた。なぜ今まで気がつかなかったのだろう。この教室のいたるところで雅史と同じように机の上に突っ伏して眠っている人たちがいるのだ。教室の中が薄暗くてそれらの人の顔はよく分からないが、その一人一人の服装をよく見てみると、どうやら学ランやセーラー服を着ている人ばかり、つまり自分と同じ中学生か高校生であるのが分かった。
 この人たちはいったい誰なんだ。
 答えはすぐに出てきた。そう、雅史のクラスメイトたちだ。雅史はいちいち人数を数えたりはしなかったが、この教室には大体40人ちょっと、つまり雅史のクラスと同じくらいの人数がいることが確認できたのでそう思ったのだった。そしてどうやら雅史以外に起きている生徒はいないようだ。みんなぐっすり眠っている。
 なんでみんなこんなところで眠っているんだ?
 雅史は自分がこんなところで眠っていたこと自体が不思議に思っていたが、クラスメイト全員が一つの教室で眠ってしまっているこの光景を見て異常としか思えなかった。
 誘拐?
 雅史は突如そう思った。だんだん頭が働いてきて、自分たちが修学旅行のバスに乗っていたことを確信できるようになっていた。その上で、今のこの状態を見てしまったら、今の状況をしっかりと把握できていない雅史には自分たちが拉致されたとしか考えられなかった。
 雅史は昔読んだことがある小説を思い出した。西村京太郎氏の『ミステリー列車か消えた』である。
 確かこの話は国鉄が考え出した、目的地不明のブルートレインに乗って優雅な旅を楽しもうという企画、名づけて『ミステリートレイン』を利用した事件の話であった。
 走行中のミステリートレインが突然、線路の上から姿を消し、ミステリートレインに乗り込んだ数百人の乗客たちは人質にされ、犯人たちに田舎の予備校の建物の中に監禁された。そんな話であった。
 雅史は今の状況がこの話にそっくりだと感じた。そんなわけで、雅史は薄々とだが自分たちは拉致されたのではないかと思った。
 いろいろ考えているうちにほかの生徒たちも何人かが起き出したようだ。そして当然だが、皆自分のいる状況が理解できず周りをきょろきょろと見渡している。暗くて表情はよく分からないが、おそらく不思議そうな顔をしているのだろう。
「おい雅史」
 雅史のいる位置よりもかなり後ろのほうから、隣でまだ眠っている
桜井稔(男子9番)を手でゆすって起こそうとしている杉山浩二(男子11番)が雅史に向かって小声で叫んだ。
「なあ、これどういうことだよ?」
 浩二が知っているわけがないと知っていながらも、雅史は浩二に向かってそう言った。すると浩二はものすごく真剣な顔をして(まだ少々寝ぼけ眼ではあったが、雅史は浩二のこれほどまでに真剣な顔を見たことは一度もなかった。)言った。
「最悪なことになったぞ!」
「どういうことだよ!」
 雅史は訳が分からなかった。やはり浩二も雅史と同じく、自分たちは誘拐されたのだと思ったのだろうか?
「どうしたんだよ」
 柊靖治(男子19番)も起きたらしくどこからか寝ぼけた靖治の声が聞こえてきたが、暗かったせいもあり、柊がどこにいるのかは雅史にはよく分からなかった。
「よく聞けよ! おれたちは最悪なことに巻き込まれたみたいだ!」
 浩二がまた“最悪”という言葉を口走った。
「なんだよ最悪のことって?」
 雅史が浩二に聞く。
 浩二は少し間を置いてしゃべった。
 雅史には浩二が言ったその一言が信じられなかった。今やっと起きたらしい稔はそれを理解できたかどうか分からないが、おそらくさっき起きたばかりの靖治はそれを聞いて驚愕しただろう。

「プログラムだよ…」

 プログラム。つまりあの中学生同士に最後のたった一人の生き残りが決まるまで殺し合いをさせるという最悪のゲーム、『共和国戦闘実験第六十八番プログラム』である。今や小学校の教科書にすら載っているこの名称、もちろん雅史達が知らないはずがない。
「ま、まさかそんな…」
 誰の声か分からなかったが、浩二のその発言を聞いた誰かがそう言ったのが聞こえてきた。その発言をしたのは一人であったが、おそらく浩二のその発言を聞いた者全員が同じことを思っただろう。
 そうだ。そんなこと信じられるわけがなかった。
 その時だった。

「オラァ!! 全員起きたようだな!!」


【残り 46人】



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