018
−誘惑と偽り(1)−

 プログラム開始から四時間が経過。
 日が昇るにはまだ少しだけ早いが、遠くの空が光の鮮やかさに彩られるのを待ち焦がれ、何度も目を向けてしまう。
 山道の斜面で目を覚ました少年は、とりあえず高台に上って島全体を把握しようと考え、暗くて先の見えない山の中をひたすら歩き続けていた。
 山道とはいっても、ここ何年も人の通りがなかったのか、雑草などで荒れ放題で、辛うじて獣道程度の筋を確認できるだけである。
 バレー部に所属し、大柄で身体的に優れている彼であっても、学校指定のローファーで慣れない荒れた山道を進むことは容易でなく、苛立ちを覚えずにはいられなかった。
 彼の苛立ちを助長させたのが、夏前という季節柄多く見られる虫達の存在で、羽音が耳元に近づくたびに、過剰なほど手を振って追い払おうと奮闘していた。
「くそっ、怖ぇよ……」
 大瀧豪(男子三番)は小さく呟いた。ふいに頭に蜘蛛の巣が絡まり、誰かに触れられたのかと勘違いして心底驚いたのだった。一見強い精神力を持ち備えていそうな彼ですら、殺人ゲームの最中での単独行動に恐怖心を抱かずにはいられなかったようだ。
 そりゃあそうだ。いくらクラスや部活では頼られる側の立場であろうと、所詮ただの一中学生に過ぎない。生死の狭間という状況の中で、平静でいられるほど度胸が据わってはいない。
 豪は思った。男の自分ですらこんな状態なのだから、女性である望なんて今頃どれだけ怯えていることだろう、と。
 彼の脳裏に常に浮かんでいるのは須王望(女子六番)の姿。クラスで“ゴリラ”なんて呼ばれている自分にはもったいない、あまりに出来過ぎた美人の彼女である。

 美女と野獣にしょっちゅう例えられるこのカップル。二人が付き合うに至ったきっかけは、意外なことに、望からの豪への告白であった。
 望曰く、ひたすら熱心に部活に打ち込む豪の姿に惹かれた、とのこと。
 彼女のことを“姫”と崇めているクラスメート達にとって、眉唾ものに感じてしまうほどの羨ましい話であった。
 それまではむしろ、もう一人の“姫”である千銅亜里沙(女子八番)派であった豪だが、女性経験のない思春期の男子に、クラスで一、二を争う美少女のアピールを突っぱねる理由などなかった。数日考える時間を貰ったが、本当のところ答えに迷ってなどはおらず、即日OKを出すことに恥じらいを覚えてしまったからに過ぎない。
 結局、豪が返答するまでに費やした時間は四日。
「結構かかったね」
 とイタズラっぽく笑ったあの日の望の顔は、今でも忘れられない。
 正直なところ交際が始まった当初は、ファッションやブランドといった感覚がまだ強く、あまり真剣に望のことを想ってあげられてはいなかったかもしれない。しかし一緒に過ごしているうちに徐々に、外見だけではなく、軽い言動には似つかわしくない真面目さや、クラス中から信頼されているが故に成り立っている統率力、常に明るくグイグイと先に進もうとする前向きさなど、色んな魅力に気づいていき、いつしか豪も望のことを心から愛するようになっていた。
 望のことを理解していくごとに膨らんでいった、彼女のことを大切にしたいという気持ち。そしてそれは、プログラムの最中という死に直面した状況でも変わらなかった。

 自らの死に対する恐れはもちろんあったが、それ以上に、望が無事であって欲しいという気持ちのほうが、今となっては遥かに大きい。
 だが、プログラムが始まってからの約四時間、望はおろか、これまでに誰にも会えていない。そのため何も情報が入ってこず、現時点で望の安否は分からずにいる。
 もしかすると、六時間ごとに流れるという放送にて、禁止エリアについて以外の情報も入るかもしれないが、今のところそれは定かではない。
 豪はやきもきするばかりだった。
 しかし、そのおかげで、望を探すという当面の目的ができたのも確か。右も左も分からない島に突然放り込まれて、何をすれば良いのか分からないでいるよりも、目的が定まっていたほうが自分を見失わずに済みそうに思えた。
 一刻も早く、望を見つけ出す。それのみを考えてひたすら前に進む。
 いくら女子の中で活発な部類に入る望であっても、殺人に乗り気な人間――とくに兵藤和馬(男子二十番)のような何から何まで無茶苦茶な人間に出会ってしまっては、きっと一溜りもない。しかし、普段から身体を鍛え上げている自分なら、たとえ相手が和馬であろうと、正面からぶつかって負けることはないという自信がある。
 望を守ってやれるのは自分だけだ。
 そうこう自らに言い聞かせていると、豪が歩いていた獣道は高さ二メートルほどの小さな崖にぶつかった。それによって道は大きく左に湾曲し、岩肌に沿うように続いているのが目視できる。
 人間が隠れ潜むことができそうな岩陰が所々あるので、豪はより慎重に気配を探る。敵がいきなり襲いかかってくるかもしれないし、望がどこかにいるかもしれない。
 足音をたてないように気遣いながら、岩の狭間を一つ一つ覗き込む。しかし一向に誰の姿も見えない。
 もしかして、偶然にも自分と同じエリアには誰もいないのかもしれない。
 そう思いだした頃、突如岩肌とは反対側にある茂みがガサガサ音をたて、豪は飛び上がりそうになった。
「誰だ!」
 反射的に、自動拳銃『USSRマカロフ』構えると、むしろ驚いたのは相手だったようで、茂みから半身だけを出した状態で足を止め、慌てて両手を高く上げていた。
「えっ? ご、豪?」
 夢かと疑ってしまうほどの奇跡が起こった。目の前に現れたその人物こそ、豪が誰よりも愛する大切な恋人、須王望だったのである。
 先天的に弱い右目の視力をカバーする、お洒落な赤いカラーコンタクト。編み込んだ何本もの毛束が揺れる独特の髪型。上半身を動きやすくするために脱いだブレザーを、腰に巻いた活発そうな格好。どれを見ても間違いなくいつもと変わらない彼女だ。
 宗教だとか神話だとか、そういう実体のないものはとことん信じない質の豪だったが、この時ばかりは神様に感謝せずにはいられなかった。
「ま、待って! 撃たないで!」
「馬鹿! 撃つわけねぇだろ!」
 こちらの正体を分かった今でも望が怯え続けているのを見て、豪は慌ててマカロフを下ろした。
 いくら現実離れした危機的状況とはいえ、ゲームに乗ったのかと少しでも疑われてしまったことが、ちょっぴり悲しかった。
「ほらっ、銃を下ろしたぞ。これで文句ないだろ」
 肩にかけたバッグの上に銃を乗せて、空になった両手をひらひらとさせて見せる。
「……本当に、豪はやる気になってないんだね」
「あたりまえだろ」
 上目遣いでの問いかけに若干照れながら答えると、突然望が飛びついてきた。
 その衝撃でマカロフがバッグから落ちそうになるのを手で抑えるも、腕の上から抱きつかれたため、それ以上の身動きがとれない。
「よかった……。一人でいて凄く怖かったし、豪が無事かどうかも心配だった……」
 そう言って、豪の胸元に顔を埋める望。実は今まで一度も抱き合ったことなど無かったため、プログラムの最中だというのに、やたらとドキドキしてしまった。
 誰も知らないような望の女の子らしさを、自分だけが全て知っているつもりだったが、こういうか弱い一面を見たのは初めてだった。
 恐る恐る、彼女の背中に手を回してみる。決していやらしい気持ちなどではない。大切な人をもう離したくないという思いから、唐突に抱き寄せたくなったのだった。
 思っていたよりも、望の肩幅が小さかったことを初めて知った。望の両手の先が豪の背中でギリギリ届いているのに対して、豪の掌は望の後ろで反対側の肩にまで届いていた。
 彼女の肩が小刻みに震えているのを掌に感じた。
「俺も、望のことが凄く心配だった。けど、無事でいてくれて本当に良かった」
 平静を装って言ったつもりが、少し声が上ずってしまった。
「無事……ね。実はさっき危うかったんだけど」
「何かあったのか?」
 恐ろしいことを思い出したのか、望が視線を横へと逸らした。
「ここに来る途中で兵藤を見たの。暗くてはっきりは見えなかったけど、あの体格、髪型からして間違いなくあいつだった。幸い向こうからは気づかれなかったようだけど、私、怖くなって逃げてきたんだ」
 豪は、サンセット号の中でプログラムについて説明を受けていたときのことを思い出した。
 笹野先生やクラスメートたち数人の死に直面して、皆が混乱している中でも、動揺した顔一つ見せず、それどころかゲームに乗ることを堂々と宣言した和馬。間違いなく、最も出会ってはならない人物の一人だ。
 彼がここからそう遠くない場所にいたとの話に緊張する。それと同時に、望の存在に気づかれなくて良かったと安心した。
「望」
「ん?」
 豪が真剣な様子で名を呼ぶと、望は逸らしていた目を前に戻した。
「俺、命をかけてでも、お前のことを絶対に守り通すよ。たとえ兵藤だとか、転校生とかが目の前に現れても……。望のことが、何よりも一番大切だから」
 そう言い切った瞬間、視界の中で望の顔が急激に迫ってきた。
 唐突なことに何が起こったのか一瞬分からなかったが、唇に柔らかな弾力を感じた瞬間、望にキスされたのだと理解した。
 豪は望を抱いたことが無ければ、当然のようにキスなんかしたこともなかったので、これには驚くばかりだった。
 近頃荒れ気味の唇に触れられることに恥ずかしさを覚えるも、グロスでしっとりとした望の唇の感触が、豪の理性を全て吹き飛ばしてしまいそうなほどに心地よく、すぐにどうでも良くなってしまう。
 ほんの数秒の出来事が、とてつもなく長く感じられた。 
「ぷはっ」
 ようやく口を離した望は、一度大きく息を吸い込む。
「ありがとう、豪……。なんか、正直嬉しかった」
 唇を離してもなお、豪の顔に近づこうと肩を掴んだまま爪先立ちで耐えている姿が、この上なく愛しく思えた。
 しかし、冷静でいれたのはほんの束の間。恥ずかしそうにしている望の姿を見つつ、ファーストキスの光景を客観的に想像すると、急激に胸が高鳴り、沸騰しそうなほどに顔が熱くなってくる。
「望……今のって……」
 頭に血が登りすぎたか、既に落ち着いて物事を考えられるだけの冷静さは失われていた。何か言おうとしても、口がパクパクと動くだけで肝心の言葉が出てこない。
「もしかして、嫌だった?」
「いや……そんなこと……、う、嬉しかったに決まってるじゃないか」
 すると、ようやく搾り出した言葉を妨げるかのように、望が自らの唇で再び豪の口を塞いできた。我慢が出来なかったとでも言いたげに顔を赤らめている望。先程よりも強引に、強く圧力を感じる濃厚な口づけだった。
 十字に交差した唇の柔らかな感触に酔いしれながら、気分が高ぶってきた豪も欲求を抑えられなくなり、望の後頭部に手を回し、引き寄せた。
 互いの唇が圧力で潰れ、触れている面積が広くなると、今度は望が口を少し開けた。すると、吸着していた豪の唇もつられて自動的に広がった。
 まさか、と思った直後、開いた唇から入り込んできた望の舌先が、豪の口内を刺激的に舐めまわしてきた。さらにそれだけには留まらず、どうすればよいのか分からずタジタジとしていた豪の舌を誘うように、上下左右と這うようにくまなく攻め立ててくる。
 思いがけない積極さを見せる望に、驚きを隠すことができない。が、高揚を抑えられなくなった豪は負けじと、慣れないながら望に対抗するように、自らのものをその舌に絡ませてみせた。
 表から裏、先端から奥へと、互いのツボを探しながら這い回る。
 ほどなくして望の舌が後ろに下がったかと思いきや、突然豪の舌先が相手のすぼめた口に吸引され、攻防の舞台が望の口の中へと移された。
 望の唇を通過すると、口内の柔らかな感触が伝わってきた。水気を帯びた肉感に豪の欲はさらに掻き立てられ、息継ぎするのも忘れるほどに、愛する人の内部をまさぐった。
 プログラムの最中にこう思ってしまうのは不謹慎かもしれないが、正直なところ幸せだった。
 今までも順調に愛を育んできたつもりだったが、ここにきてより固く深く、相手と一つになれたかのように思えた。
 今の時間が永久に続けば良いのに……。
 そんな考えが頭の中に浮かんだ瞬間、激痛が全身を駆け巡った。
 豪は閉じていた目を咄嗟に開く。同時に、首の後ろに回されていた望の腕が素早く解かれ、胸元を強い力で突き飛ばされた。
「んあぁっ?」
 岩肌に背中をぶつけながら勢い良く地面に尻餅をついた。
 ぼたぼたと真っ赤な血がワイシャツの胸元に滴り落ちる。
 口内に酷い痛みを覚えた。
「あえっ?」
 頭だけを動かして、未だ立ったままの望を見上げると、ぺっ、と彼女が何かを吐き出すのが見えた。
 豪の足元に落ちたそれは、ピンク色をした肉の塊のようだった。
 まさか、と口の中で舌を動かそうとして、根元の感覚しか無いことに気づく。
 信じられないことに、望に舌を噛みちぎられたのだ。
「うえっ! 血の味きっしょっ」
 キャラクターの可愛らしい柄が描かれたハンカチで口元を拭う彼女。全体的に黄色っぽかった布地が、すぐに真っ赤に染まっていた。
 訳が分からず呆然としていると、望はこちらを見下ろしつつニヤリと口を歪めた。
「バッカじゃない! あたしが本気で好きであんたとキスなんてすると思う?」
 アハハハッ、と甲高い笑い声が上がる。
 無邪気で可愛らしく思えた顔つきは、悪意に満ちたおぞましい表情に豹変し、かつての可憐さを微塵も感じさせない。
「まんまと騙されてやんの。だいたいさぁー、あたしみたいにチョー可愛くて男なんて選び放題の子が、わざわざあんたみたいなゴリラ君と付き合いたいなんて思うはずないじゃん。そもそもあんたを選んだのは、男を顔じゃなくて内面で選ぶ人だって、クラスの中で自分の評価を上げたかっただけだしぃー。あんた、全然気づかないんだもん」
 言いながら、豪が落としたマカロフを拾い上げる望。
 彼女が話していることが全く理解できなかった。右の耳から入った言葉が左に抜けていく感じ。


「つーかマジ、童貞って騙すの楽勝だわ。ちょっと気がある演技したら、ソッコー食いついてくんだもん。なんだっけ、『俺がお前を守る』だって? あーまぁどうでもいいや、忘れた。とにかく何あのくっさい台詞。ゾッとするわ」
 望は編みこんだ自らの毛束の内の一本を、指先にくるくる巻いたりして弄ぶ。
 彼女の嘲笑が豪の大切な思い出を次々と穢していく。幸せだった日々が偽りだったという事実が受け入れられず、耳を塞ぎたくなる。
 とめどなく口内に溜まっていく血液の味が気分をさらに悪くさせる。
 ちぎれた舌と同じくらい胸が痛い。
「よぅ、そろそろ終わったか?」
 豪が地面に手をついて血を吐き出していると、脇の茂みから誰かが待ちわびたように出てきた。
「んだよ、まーだ生きてんじゃん」
「だってぇ、やっぱ舌切られたら死ぬって迷信みたいなんだもん。そりゃあ、放っておけば出血多量でそのうち死ぬかもしれないけど、今噛みちぎったばっかだしー」
 視界の端で望が、新たに現れた人物の方へ駆け出し、そして、抱きつくのが見えた。
 望?
 彼女の名前を呼ぼうとするが、舌を切られたせいでうまく喋れない。口から出てくるのは言葉になっていない唸り声と、赤黒い血液ばかり。
「あ、ごっめんねー。あたし実は彼と付き合ってたんだー」
 涙で滲む視界に映ったのは、こちらに見せつけるように望と抱擁しながら、口づけを交わしている兵藤和馬。
 顎にある古傷を手でさすりながら、つり上がった目をぎらつかせている。
「わりぃな大瀧。お前が付き合ってると思ってた女、実はとっくに俺のお手つきだったんだわ」
 和馬のその言葉を、すぐに鵜呑みにすることはできなかった。優等生で人気者の望と、悪名高い和馬に接点があるとは思えなかったからだ。
 少なくとも、学校で二人が絡んでいるところを見たことはあまりない。
「あー、まぁピンとこねぇわな。俺と望が絡んでたのは、基本的に外で遊んでるときだけだったしな」
「だって学校内で和馬と仲良くしてたら、せっかく築き上げた優等生のイメージに傷がつきそうだしー」
「うっせーな。おい大瀧よぉ、コイツのことをただの元気がいい女だと思ってたか? 残念ながらコイツ、とんでもなくヤリマンなんだぜ」
「もぉーっ、そういうふうに言わないでよ」
「事実じゃん。なあ大瀧、お前は望の背中にある痣のこと知らねぇだろ。コイツの服脱がせたことも無いだろうし」
「えっ、そんなのあるの? あたし気づいてなかった」
「痣っつっても小せぇからさ。普段はブラとかで隠れて見えねぇんじゃねーの?」
 豪の中で、望の可憐なイメージががらがらと音をたてて崩れ去っていく。
 クラス中から支持されていた優等生ぶりは演技。
 自らの容姿を自画自賛しない控えめさは計算。
 豪にだけ見せてくれた純粋な恋心は嘘。
 豪はようやく、騙されていたという現実を理解した。
 豪と会う前に、とっくに和馬と合流を果たしていた望は、こちらを油断させるために、あえて一人で現れたのだ。
 まんまと掌の上で踊らされていた自分のことを、豪はとてつもなく情けなく思った。
「まあとにかく、そんな訳なんだわ。あたし、他人を騙す演技が得意でさ。さっき『兵藤を見た』っつったでしょ。あれも嘘つくときのコツ。嘘のなかにちょっとだけ本当の話を混ぜておくとボロが出にくいんだ。勉強になった? まあ、これから死ぬ人間が今更勉強なんてしても意味ないけど」
 死ぬ?
 彼女の言葉に心の底から恐怖が湧いた。
 望はマカロフを和馬に差し出す。
「お、銃じゃん。あいつ良い武器支給されてたんだな」
「放っておいてもなかなか死にそうにないからさ、和馬がこれでとどめさしてよ」
「お前がやんねぇのかよ」
「えーっ、自分の手で殺すのって、なんか怖いー」
「お前がそんなタマかよ」
 なんて言いながら和馬が望を抱き寄せて再びキスしたタイミングで、豪は必死に立ち上がって逃げ出そうとした。
 口内の激痛が神経を介して全身に伝播し、無傷なはずの四肢が本来の力を発揮してくれない。それでも悪魔のような二人から逃れようと、必死になって手足を動かした。
 だが、銃を持った敵がみすみす見逃してくれるはずがなかった。
 二、三発の銃声が轟いたかと思いきや、頭に強い衝撃を受け、振り絞って出した力が四肢から抜ける。
 岩肌にぶつかりながら地面の上にダイブした豪の意識は、瞬時に闇に飲み込まれて途切れた。

 その様子を男と抱き合いながら見ていた望は、キスを終えると、ぷはっ、と大きく息を吸い込む。
「キスしながら人が死ぬの見ると、なんかすごく興奮するね」
 口に引いた糸を拭きながら、彼女はにっこりと笑った。


 大瀧豪(男子三番) - 死亡


【残り四十一人】

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