−あとがき−
■物語作りの流れ
■「多重地獄」と「復讐鬼」とは?
■今作の本当のラスボスは?
■作中の薬物について←NEW
■物語作りの流れ

 多重地獄の復讐鬼、連載開始から実に三年と半年もの時間をかけて、ようやく完結させることができました。
 連載開始当初は、二年もあれば終わらせられるだろう、とたかを括っていたので、まさか社会人になってからも執筆が継続するなんて予想しておりませんでした。
 なんにしろ、こうして結末をしっかりと形にすることができたのは、今まで当作品を読んで応援し続けてくださった皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

 さて、前作のときは「あとがき」を一日で済ませてしまいましたが、今作は付き合いが長く苦労も多かったせいか語りたいことが数多くあり、一日ではとても語り尽くせないので、テーマごとに何日かに分割して話していこうかと思っております。
 初日である今日は、執筆に勤しんでいた際の私自身の動きなどについて振り返ってみたいと思います。

 そもそも今作、多重地獄の復讐鬼の構想を練り始めたのは、前作の岐阜県市立飯峯中学校三年A組プログラムが後半に差し掛かった頃でした。正確には次回作と決めて考えていたわけではありませんでしたが、「こういう作品があっても面白いかもなー」程度には思っておりました。
 当時の私は今よりも行動力があったのか、次回作の構想がある程度固まるや否や、まだ一作目を執筆中であるにも関わらず、キャラクターのデザインに取り掛かり始めていたりしました。キャラクターについては、また別のテーマの日にゆっくりと話させていただくつもりですが、ちなみに言うと一番最初にデザインしたのは、やはり御影霞でした。彼女のインパクトありきの作品であることは初めから決まっていたので。でも日記で最初にキャラデザを公開したのは羽村真緒でしたけどもね。2003年の事でした。
 そんな感じで前の連載中に既に準備に取り掛かっていたせいなのか、岐阜プロの終了から多重地獄の連載がスタートするまでは、およそ一ヶ月しか期間が空きませんでした。一作目が完結した直後に家の引っ越しがあったにも関わらずこの速度を出せたのには、今となってはただただ凄いなと、他人事のように感心することしかできません。

 多重地獄は2003の九月に連載がスタートし、そこから暫くの間は前作の勢いを残したまま好調なペースで書き進めていくことができていました。一作目が全137話構成の挿絵63枚で一年間の連載。今作は長さ的にはせいぜい150話くらいで挿絵もそれに相応の数で終わるだろうと予想しておりましたが、蓋を開けてみれば、全部で206話、尚且つ挿絵111枚という感じになり、一作目とは比べものにならない分量に達しておりました。
 こういう計算外なことが原因で、完結までに時間がかかってしまったと言えるかもしれません。
 まあ、他にも私生活の変化や、モチベーションの低下なども影響していただろうと考えられますが。
 私生活の変化とは、自由の身であった大学時代前半から→卒業制作期間→就職活動期間→会社勤め開始、という流れのことです。
 大学時代前半は自由に使える時間が膨大にありましたが、それより後は常に隙を見つけることもままならず。執筆速度の低下はとても避けることができませんでした。
 モチベーションの低下とは、二百話ほどもある長い物語を書いているうちに「飽き」が生じてきて、かつての意欲が失われてくるということです。
 日記でも話したことがありますが、例えば森の中の話ばかりを書いていると、毎回続く同じような情景描写に嫌気がさしてきて、筆が止まる回数が自然と多くなってしまうんですよね。それへの対策として、なるべく色んな舞台(廃ビル、病院、ダム、倉庫町など)を用意していたわけですが。
 だから逆に言えば、舞台や登場キャラクターに大きな変化が生じる部分では、やたらと意欲が向上しました。

 執筆の中では、作品の質を向上させるために、改めて「大事だな」思い知らされたことがありました。
 それは、書き手である自分自身が色んな経験を重ねていくということ。文章力の向上というのも大事なことだとは思いますが、それだけではリアルな描写をするのに限界があるなと感じたわけです。
 食べたことの無い物の味。行ったことの無い町の風景。実践したことの無い技術。それらを無理に書き起こしていこうとすれば、間違いなくリアルさの無い話になってしまいます。いくら文章力という器があっても、作者自身の経験という中身が無ければ、物の構築なんて成立しないということです。
 例えば、私達のようなオリバトを執筆している人間としては、森や山の中を歩いたことがあるかどうか、というのは結構大切な要素であると思います。行く手を阻むように木々が立ち並び、伸びに伸びた雑草が足に絡んでくる感覚を体験したことがなかったら、そういう場所を歩いている様子を描写するにも限界が出てくるでしょうから。
 だから私は執筆の最中に色んなことをあえて経験し、作品の中に生かしていけるよう努めてきました。どうあがいても体験できないようなこともありますが、そういう場合はなるべく沢山の本や資料などに目を通して、知識を蓄え、間違ったことだけは書かないように気をつけましたね。
 そんな風に、普通に読んでいるだけでは分からないようなところで、実は私は結構色々なところで努力を積み重ねてきました。

 さて、第一回目のあとがきはここまで。
 次回はまた別のテーマで書こうと思っておりますので、どうかお楽しみに。


■「多重地獄」と「復讐鬼」とは?

 作品のタイトルに含まれている「多重地獄」とは何なのか?
 物語が始まった当初は謎に思うでしょうが、少し本文を読み進めていけばすぐに、大方の意味は分かっていただけたかと思います。
 梅林中三年六組プログラムと、松乃中等学校大火災のことですね。 そして、後に明らかになる竹倉学園大火災も加え、今作は大まかにはこの三つの地獄を中心に繰り広げられました。

 そして「復讐鬼」。こちらにはちょっとした引っ掛けがありました。
 物語の冒頭で、復讐を強く誓う描写がある御影霞のことだと皆さんすぐに理解したでしょ うが、実は復讐鬼は一人ではなかったのですね。 薬物の乱用によって父を失った湯川利久も、松乃の火災で娘を失った醍醐一郎も、細かなことまで言えば、竹倉の火災で息子を失った木田聡や、火災で祖母との約束を経たれた山崎和歌子など、火災を経験して何かに対する復讐心を内に宿らせた人物が何人もいました。
 こちらには「多重」のような、複数の存在を匂わす言葉がかかっていなかったので、復讐鬼が霞以外にいることを事前に予想することは難しかっただろうと思います。 全ては、物語解決への鍵を持つ御影霞以外の存在を隠匿するための小細工でありました。


■今作の本当のラスボスは?

 オリバトという作品を様々な所で読んでいると、必ず“宿敵”、または“黒幕”といったラスボス的存在が明確に姿を現します。殺戮者――よく耳にする言い方ではジェノサイダーがこれに相当することが多いですね。殺戮者が複数存在する作品もありますが、やっぱりその中でも明確に“メイン”となる敵の存在があるわけです。
 毒人間の館のオリバト一作目では、吉本、須王、沼川など殺戮者が複数出てきましたが、メインとなっていたのは吉本だと、分かっていただけていると思います。
 時に作品のテーマそのものにもなる重要な役割を担っている“宿敵”や“黒幕”という存在ですが、多重地獄の復讐鬼においては、宿敵という言葉が誰を指しているかがちょっとあやふやに見えるのではないでしょうか。
 作品の序盤のうちは、御影霞っぽいように思えるでしょうけど。それは、もう一人存在する殺戮者の黒河隆介よりも、御影のほうが抱えているものが圧倒的に大きく、驚異的に思える存在だからといえます。
 しかし物語が中盤に差し掛かってくると、最初に読者の皆さんが理解していた作品の構造は、大きく変化してしまったことでしょう。
 火事の被害者である御影霞とは対立するような立場である、加害者側の湯川利久が登場したからです。
 御影と湯川の対立は、誰が主人公達にとっての宿敵なのかという疑問を複雑化させたことでしょう。力の優劣は分かり難いし、主人公達が向ける想いは双方共に対して大きく、物語が片寄ることがなかったからです。
 さらには後に、担当教官の田中一朗が、主人公春日千秋との因縁を明かし、彼もまた宿敵に名乗りを上げました。
 白石桜の戦闘技術が、御影霞をも圧倒するほどにまで成長したころには、書き手である私ですらも、誰が真の宿敵であるか分からなくなってしまいそうでした。
 これは物語にどういう影響を与えることになるのでしょうか。

 私が作品を描く際のこだわりとして、物語は一本の筋を中心に進めていく、というものがあります。
 明確に軸が存在していなかったり、逆に複数あったりしたならば、ストーリーが散漫して、まとまりのないものになってしまう恐れがあるからです。

 その考え方からすると、先に述べたような、テーマ性を抱えた強敵が複数いる今作はまさに、まとまりのない作品となってしまうでしょう。
 でも実はいうと、私の中では“宿敵”や“黒幕”にあたる存在が何であるか、はっきりと一つに絞られておりました。それは、数々の登場人物たちを操って多重の地獄を形成した、エンゼルやホワイトデビルといった薬物です。そう、今作のラスボス的存在とは、人間ではないと私は考えました。なんせ、何人ものクラスメートを掌の上で躍らせてきたあの湯川ですら、その薬物たちに人生をめちゃくちゃにされてしまった被害者に過ぎず、最後まで真相を掴むこともできなかったのですから。
(とはいえ、これは読んでいる人の捉え方によって、意見は分かれてくるでしょうね)

 というわけで、次回は薬物、エンゼルとホワイトデビルについて語ってみようと思います。


■作中の薬物について

 物語に登場したホワイトデビルとエンゼルといった二つの薬物について、本編では色々と説明仕切れなかった部分があったかと思われます。なにしろとてつもなく強大かつ深い意味合いを持つ存在ですので。

 ホワイトデビルとエンゼルには共通して“快楽を得られる”などの効果があります。細かく説明すれば“疲労回復”“眠気解消”といったものも望め、そのため長時間労働者や受験生などを中心に、人々の間で密かに行き交い、凄まじいスピードで大東亜じゅうに広まっていきました。
 しかしこれらの薬物には副作用があり、麻薬取締法の指定薬物とされすぐに所持することを禁じられました。
 副作用とは、目眩、興奮、吐き気などの誘発をはじめ、手足の痺れ、幻覚症状、興奮作用、あらゆる感覚器官の麻痺といった、重大なものまであります。とくにエンゼル趣向者にはこれらの症状が顕著にみられました。
 一方、ホワイトデビルはエンゼルの改良版というだけあってか、上記の副作用は幾分軽減されてはいたようです。そのかわり、筋力の増大という、ドーピングに近い効果が加わり、身体に大きな負担をかけてしまうという別の意味で使用を規制されることとなりました。
 しかし、実は大東亜では唯一、軍事用途としてのみ政府公認の下でホワイトデビルの使用が許可されていました。
 実際に、戦闘時の負傷による強い疼痛を軽減する目的でモルヒネを。第二次世界大戦末期には特攻隊の精神高揚を目的に、ヒロポンにお茶の粉末を混ぜたものが出陣の前に「特攻錠」として、日本では使われていたりしました。
 同様に、大東亜もまた軍で薬物を使用している国家だったのです。しかしホワイトデビルは製造され始めてから日が浅く、少々研究が不十分でした。
 梅林中三年六組プログラムにて支給武器としてホワイトデビルが使われたのには、まさにその研究不足を僅かでも解消させるためといった目的があったのです。戦闘時にホワイトデビルを使用するシミュレーションを行うのに、共和国戦闘実験はまさにうってつけでした。

 それでは以下に、作中で薬物を使用していた人物達の様子から、各薬物を使用した際の効果等をまとめていきたいと思います。


ホワイトデビル

 エピローグでの蓮木風花の独白でもあったように、体内への投与方法は複数ある。火で炙って煙草の要領で煙を吸う、という方法と、注射器で直接血管に送ると、いう二つが主流。作中では注射器による投与を行う者しかいなかったが。
 尚、注射する回数に応じて効果が倍増していくようで、それに応じて、おのずと副作用も酷いものとなっていく。
 ここでは注射した回数ごとに、三段階のレベルをつけて症状を説明していく。


経験者:御影霞、黒河龍輔、後藤蘭
 ホワイトデビルの注射一回目。痛覚が薄れ始め、擦り傷程度の浅い怪我なら痛みをほぼ感じなくなる。身体が軽くなり宙に浮くような錯覚を覚えることもあるようだ。
 身体中に若干の痺れが広がり、これを快楽に思う者が多い。この快楽を一部の人間は『白き悪魔の抱擁』と称している。
 筋肉も引き締まるようだが、遠目には普段との違いはまだ分かり辛い。とはいえ、実際に運動能力は格段に上昇するため、戦闘時においては相手が強力な武器をもっていたり、よっぽどの超人だったりしない限りは、有利に事を進められるはずである。
 腕力が上がると銃撃の反動にも耐えられるようになり、作中で御影霞は、サブマシンガンを乱射する里見亜澄を遠距離から一発で撃ち抜くことに成功した。
 また、私物として自らホワイトデビルをプログラム会場に持ち込んでいた唯一の生徒、後藤蘭は、疲労回復や眠気解消を理由に、日常から薬物吸引を行っていたようだが、プログラム中は運動能力向上を目指し、珍しく注射器による投与を行った。しかし殺人機械と化した白石桜には全く敵わなかった。


経験者:御影霞、黒河龍輔
 ホワイトデビルの注射二回目。心拍数が急激に上昇した影響で血液の循環が過剰になりすぎて、身体中の血管が表面上に浮き上がり、目は充血して赤くなる。呼吸が猛獣のように荒くなったりもすることがあり、相手は威圧感を覚えることとなるであろう。
 一度目の注射の際よりも、筋肉は隆々と膨れ上がり、黒河龍輔は腕力のみで木の幹を掴んで固い樹皮を砕いて見せた。
 このころにはもはや、あらゆる痛みを感じなくなっている。
 ただ、短時間でホワイトデビルの注射を連続して行うと、身体にかかる負担が大きすぎる。このLEVEL2ですら既に限界に近い状態であるため、これ以上の投与はたいへん危険である。

経験者:御影霞
 ホワイトデビルの注射三回目。筋肉のふくらみはMAXを向かえる。脈が波打つスピードはさらに速まり、身体の表面のそこかしこが小さな虫に寄生されてしまっているかのように、ビクンビクンと動くのが見える。もはや一回目の注射以前よりも身体のサイズが大きくなっていることは一目で分かってしまう。
 確かに戦闘能力は最強と言えるかもしれないが、危険区域を完全に越えてしまっているここまできてしまうことは、自らの身体を急速に破壊してしまう愚かなる行為としか言い様が無い。


エンゼル

 投与方法はホワイトデビルと同じく、吸引と注射といった複数の方法がある。そして投与を重ねるごとに症状が酷くなっていくという点も、ホワイトデビルと同じと考えられる。

経験者:山峰道夫
 エンゼルはホワイトデビルよりもさらに「負」の要素がとても大きい。日常的に使用して依存症に陥ってしまえば、その先には人生の破滅しか待っていない。
 湯川利久の父親、山峯道夫は末期には、目が据わって、手足が小刻みに震えだしていた。まともな意思の疎通もできなくなって離婚を招き、最後は幻覚症状の中で灯油を被って焼身自殺をしてしまった。

経験者:松乃中等学校生徒全員
 二年前、松乃中等学校の生徒は全員、火事の中で気化したエンゼルを知らず知らずの間に吸引していた。
 火災が発生した時に、エンゼルが保管してあった理科準備室のより近くに居た者ほど酷い症状に襲われていたとみられる。
 手足の痺れを起こし歩行できなくなった者。幻覚症状の中で三階の窓から地面に向かって飛び降りてしまった者。興奮状態に陥って殺人を犯してしまった者。冷静な思考力を欠いた結果、我先にと押し合いながら逃げ惑い、脱出口へと続く通路に人詰まりを発生させた者達。
 大抵の者にとって、それらの中毒症状は一時的なものだったはずだが、氷室歩の幻覚症状のように、事件から数年経ってからもフラッシュバックを繰り返す者はいたようだ。


 いかがでしたでしょうか?
 本編で理解し切れなかった、今作の「黒幕」について、少しでも理解を広めていただければ良いなと思います。
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