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 武はその光景を見て、腰を抜かし、へたりと地面に座り込んだ。
 新城忍。接近戦でのその強さは半端ではなかった。鎌で襲いかかってきた大介の腹部に正拳をたたき込み、そのたった一撃で大介を沈めたのだ。
「こ、この野郎…」
 相当痛むのか、大介はまだ左手で腹部を押さえながら、よろよろと立ち上がった。落としたはずの鎌は、再び大介の右手ににぎり直されていた。
「次はこの程度では済まさないよ」
 忍は大介をキッと睨み付けて言った。


 武は無意識で、忍の足下に視線を移した。すると忍の足下に、何か長く太い棒のような物が転がっているのが見えた。金属バットだ。おそらくそれが忍への支給武器なのであろう。もともと素手でも圧倒的な強さを誇る忍に、この金属バットは、その言葉のとおり、まさに“鬼に金棒”と言えるであろう。
「これでも食らえぇ!」
 再び大介が忍に仕掛けた。
「そんなもの食らうか!」
 忍は大介が振り下ろした鎌を、避けるまでもないといった感じで、大介の腕を掴んで、簡単に受け止めた。そして今度は忍が振り上げた右足の強烈なキックが、大介を直撃した。さらに間髪を空けずに忍の拳が顔面を捕らえた。
「フゴォ!」
 大介はそのまま地面に倒れ込んだ。両手で顔の中心部、鼻を押さえながら転げ回っている。鼻を押さえていた手の指の間から、真っ赤な血が溢れ出していた。忍の拳が鼻を直撃したのだろうか。おびただしい量の鼻血だ。あの様子では鼻の骨が折れているのかもしれない。
 だがそんな大介にも忍は容赦しなかった。素早く足下に転がる金属バットを拾い上げると、いきなり頭上にそれを振り上げた。
 大介は鼻を押さえながらも再び立ち上がろうとしていた。しかし大介が立ち上がる前に、忍はその金属バットを振り下ろした。
 ドゴッ!
 金属バットは正確に大介の側頭部中心に炸裂した。すると大介の体はそのままフウッっと傾き、口から泡を吹きながらドサッと土の地面の上に倒れ込んだ。再び起きあがる気配はなかった。
 一戦終えたばかりの忍は今度は武に視線を移した。
「ヒィ!」
 当然、武は怯えきっていた。
 新城さんもクラスメイトに殺意を持っているのか?
 ためらいなく大介を倒した忍である。武は当然彼女も殺意を持っている生徒なのだろうと思った。そのうえ、忍は武にとって勝ち目のある相手ではなかった。ゆえに武は逃げだそうと試みるが、腰が抜けているせいで走り出すことが出来ない。どうしても地面を這う形になってしまう。そもそも走ることが出来たとしても、武には足の速さで忍に勝つ自信などは元々なかった。
「…お前はこのプログラムにやる気か?」
 突如忍が言う。
「な、ないよ! 僕はクラスメイトを殺そうなんて思っちゃいないよ!」
 何で忍がそんなことを聞いてきたのかは分からなかったが、とにかく武は必死になって返した。
 勝てるわけがない…殺される。
 武が次は自分が攻撃されるのを確信した瞬間だった。忍の口から意外な言葉が出てきた。
「じゃあ聞くけど、アンタ、淳子や美咲たちをどこかで見なかった?」
 少し意外な質問に武は少しとまどったが、少しの間考えて「知らない」と言った。それも完全に怯えた声であった。
 武がこれまでに姿を見たクラスメイトと言えば、大介と忍を除くと、ガリ勉女、
島田早紀(女子8番)だけであった。武は忍が誰と仲が良かったかくらいは知っていたので“淳子や美咲たち”という言葉の中に早紀が含まれていないことくらい分かったのだった。
「本当だな?」
 なおも気迫を放ちつつ、忍が念を押すように聞いてきた。
「し、知らないよ!本当に何も知らないんだ!」
 武は必死だった。
「そう…。じゃあアンタには用はないわ」
 その言葉に武は焦った。
 用はない? まずい! 今度こそ殺される!
 だが武の考えとは裏腹に、忍は荷物を担ぎ上げてその場を去ろうとした。
「なんで? 僕を殺すんじゃないの?」
 忍の行動を予想もできなかった武はついつい聞いていた。
「あたしはこのゲームに乗る気はないよ。ただ狩谷は殺意を持っていたから、殺られる前に殺ってやっただけよ」
「じゃあ、新城さんは…」
 武がまだ言葉を言いきる前だった。
「くっそぉぉぉぉ! 殺してやるぅ!」
 倒れ込んでいた大介が突然立ち上がり忍に襲いかかってきた。そう、大介は死んではいなかったのだ。大介はなおも鼻から大量の鼻血を流し続けながら、鎌を振り上げていた。
「コイツっ!」
 忍もこれは予想もしていなかったらしく、襲いかかってきた大介に対して十分な受け身の体制がとれていなかった。
 まさに万事休す。
 だがここでまたしても意外なことが起こった。
 大介の鎌が忍の眉間を捕らえようとした瞬間、大介の動きが止まった。そして大介はまたしても倒れた。見ると大介の左胸部に、深々とアイスピックが突き刺さっていた。
 胸部から大量に出血している大介が、今度こそ死亡したのは誰の眼から見ても明らかであった。
 突然の出来事に驚いていた武、それに忍の目の前には、また別の男子生徒が立っていた。
「甘いな、忍」
「た、大樹」
 その男子生徒は
剣崎大樹(男子7番)であった。


 『狩谷大介(男子5番)・・・死亡』


【残り 32人】



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