24


 友子と透の2人は、岩影の後ろの地面に腰を下ろして座っていた。
 洞窟内はごつごつした岩が所々から露出しており、それは地面も同じだった。座る場所によってはお尻が痛く感じる場所もあった。
 友子と透は並んで座っていたが、常に2人の間には、近過ぎず、遠過ぎずというほどの、ある程度のスペースが空いていた。
 友子はいまだに涙が止まらず、少しうつむいて岩だらけの地面を見つめながら黙っていた。そんな友子を見ながら透が話しかけてきた。
「ねえ、どうしてここに入ってきたの?」
「……」
 なぜか友子は口を開くことが出来なかった。
「いままでずっと一人だったの?」
「……」
「ここに来るまでに誰かに会ったりした?」
「……」
 辺りが静かだと落ち着かないという、お調子者の習性なのだろうか。なにも話そうとしない友子に向かって透は次々と話しかけてきた。だがそんな透の話に、友子は尚も全く反応を見せなかった。友子には人と話す気力がもう残されていなかったのだ。とにかく3日後には、自分はもう死んでしまっているという未来への不安がよぎり、完全な抜け殻状態になりつつあった。
「だいじょうぶ? 体どこか悪いの?」
 そんな友子に向かって、あきらめることなく透も話し続ける。だが、そんなことで友子が簡単に口を開くことはずなどなかった。しかし次に透は予想もできないようなことを口にした。
「じゃあ、こんな話聞いたことある? これは僕が小学校の4年生の時の話なんだけど…」
 気力が無くなっていた友子も、突然の透の話の切り換えに驚いた。
 何話してるのこの人? 今は絶望的な殺し合いプログラムの中だよ? なんで突然こんな関係ないような体験談なんて話し始めるの?
 友子の疑問をよそに透は話をやめようとはしない。
「その5人のメンバーで海に泳ぎに行ったんだけど、そこで…」
 友子は透の話の意図が分かった。それは透お得意のおもしろネタ話だ。そしてどうして突然、透がこんな話をし始めたのかも分かりはじめた。
「博史っていう奴がさぁ…」
 そうだったのか…。
「そのときクラゲが…」
 相川くんが私にしきりに話しかけてきたのは、静かだと落ち着かなかったからではなかったんだ…。
「それでさぁ…」
 相川くんはただ私を元気づけようとしてくれてたんだ…。
「…ってことがあったんだ」
 透が話し終えたとき、友子は自分でも気が付かなかったが「クスッ」と笑ってしまっていた。
「あ、笑った!」
 透は友子が笑った顔を見せたことに喜んで言った。もちろん相手を笑わせることに快感を感じるという、お調子者独特の習性もあるだろうが、この時の透は純粋に友子に笑顔が戻ったことに対して喜んだようだった。
「なんだよ。ちゃんと笑えるじゃないか」
 友子は心なしか体に少しだけ力が戻ったような気がした。
 ああ、やっぱり気持ちって大切なものなんだな。
 友子は心からそう思った。
 透くんってすごいな。ここで最初に会ったときなんか、透君のことを私みたいに本当は気が弱いだけの人かと思ったけど、やっぱりいつもの透君もそうだったけど、ただ明るいだけの人じゃなくて、他人を元気にする力を持ってる人なんだな…。
 なんか尊敬してしまった。同時に自分に元気を与えようとしてくれたことに、透に深く感謝した。そして言った。
「透くん…。ありがとう…」
 まだ元気な声では言えなかったが、思っている気持ちをすべて出し切ることが出来て友子は満足だった。
 透も友子に少し元気が戻ったことに安心したらしかった。
「いえいえ。どういたしまして」
 透の返事も心なしかちょっとぎこちなかった。
「あー、でも本当に南条さんの元気がちょっとでも戻って良かった」
 そう言って透が背後の岩壁にもたれかかったときだった。地盤がかなりモロくなっていたのだろうか、突然透の背後の岩が崩れ始めた。
 友子は目の前で突然崩れだした岩にどうしたらいいのか分からなかった。
 突然の出来事だったので、透も驚いて一瞬どうしたらいいのか分からなかったようだったが、直後「危ない!」と叫びながら側にいた友子を突き飛ばした。その後すぐ、崩れた岩が次々と透の上にのしかかってきた。あまりにも大きな岩が次々とのしかかってきたので、透の姿はすぐに岩に埋もれて見えなくなった。
 友子は透に突き飛ばされて地面に倒れていたが、透が座っていたはずの場所を見て呆然とした。岩に完全に埋もれてしまった透の姿は全く見えなかった。
「相川君!」
 友子は岩に埋もれた透に向かって呼びかけたが、返事は帰ってこなかった。
 急いで透の上に降り注いだ、無数の岩をどけようとした。
 友子が岩の一つ一つをどけ始めてしばらくしたとき、岩と岩の間から何か赤い液体が流れ出てきた。血だった。
「相川君! 相川君!」
 友子はそれでも岩をどかす作業をやめなかった。
 透の上に降り注いだ岩の大きさと数、そして流れ出した血液の量を見れば、透は岩に潰されて死んでいることは一目瞭然だった。だが、それは見た人の精神状態が正常だったらの話だ。今の友子にはそれが分からなかった。というよりもその事実を受け止められなかったのだ。
 殺し合いの中、偶然出会えた救世主を失いたくなかった友子は、とにかく岩を取り除きつづけた。
「相川君! 相川君! 相川君!」
 辺りに取り除いた岩が次々と散乱していった。その一つ一つが、とても友子が持ち上げられるような大きさの岩には見えなかった。火事場の馬鹿力というやつだったのだろうか、とにかく友子は信じられない力で岩を取り除く作業を続けていた。
「相川君! 相川君! 相川君! 相川君! 相川く…」
 テープレコーダーが壊れたかのように、「相川君」を繰り返していた友子の口が突然止まった。同時に岩を取り除き続けていた友子の手の動きも止まった。そしてそのまま前のめりになって、透が埋もれている岩の山の上に倒れ込んだ。
 友子の首には後ろから、鋭利な刃の部分が光っている鎌が突き刺さっていた。


 『相川透(男子1番)・・・死亡』

 『南条友子(女子16番)・・・死亡』



【残り 33人】



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