17


 これが…銃…。
 名城雅史(男子16番)は困惑していた。雅史に支給された武器は『コルトパイソン』。要するに銃の一種である。
 もちろん雅史はいままでに本物の銃を手にしたことなどはない。これが初めてである。初めて銃を手に持って、雅史は想像していたよりも銃とは重い物だと思った。
 銃の付属品として、箱いっぱいに詰められた弾丸が、デイパックの口から顔を出している。このくだらない鉄の弾ひとつで一人の人間が殺せるのだ。
 ばかげている。こんな意思も持たないような、ただの鉄の塊ごときで、人間の命を奪うなんて事自体がばかげている。こんな銃なんか意地でも撃つもんか。
 そう思って銃をその場に投げ捨てようと思ったが、それができずにデイパックの中に再びコルトパイソンをしまい直している自分に腹が立った。


 雅史に銃を捨てさせることを出来なくさせたもの。それは“恐怖”だった。
 雅史はすでに奥村秀夫
に襲われ、そして殺されかけたのだ。雅史の頭にはそのときの恐怖がこびり付いてしまっていた。
 また誰かに襲われる危険性があると思った雅史は、自己防衛のために銃を捨てることが出来なかった。だが、それでも誰かに銃を発砲するということを拒んだ結果が雅史に再び銃をディパックにしまわせたのだ。
 銃など撃ちたくはないが、手放すのも怖い。そんな複雑な心境だ。
 雅史は銃をデイパックの中に入れた。デイパックの口のファスナーを閉めようと手を伸ばしたが、いつでも銃を取り出せるように開けたままにしようと考えて手を引っ込めた。
 いつでも銃を取り出せるように…。そう考えている自分にまたムカムカした。
 もう雅史はちょっとしたパニック状態に陥っているのだ。銃を使う気が少しでもあるのなら、常に手に持っていたらいいのだ。なのに銃をデイパックの中に入れておく。いくら口を開けておくとはいえ、かなり効率が悪い。突然誰かに襲われたとしても、すぐに取り出せない可能性もあるのだ。反撃できない状態、それはつまり死を意味する。だが雅史は銃を持っていると自分までこのゲームに乗ってしまう気がして怖かったのだ。
 俺は絶対にだれも殺さない。
 雅史はそう強く思った。そのときだった。雅史の右前方2メートルほど離れたところに立っている木の一部がはじけたのだ。
 雅史は急いで振り返るとそこには
富岡憲太(男子14番)が銃を構えて立っていた。そうだ、雅史に向かって発砲したのだ。
 富岡まで…。
 雅史はそう考えた瞬間、自分でも驚くほどの素早さでデイパックから銃を取り出して憲太に向けて構えた。
 憲太は雅史も銃を持っているということに驚いたらしく、再び発砲することなく一目散に走ってその場を去っていった。
 ふぅ…。
 あっさりと襲撃者が去っていってくれたために雅史は安心して肩をなで下ろした。だがいくらこのゲームに乗った者が襲ってきたとはいえ、雅史はためらいなく銃をクラスメイトに向けて構えたのだ。
 だめだ、このままだと自分もこのゲームに乗ってしまう。そしてかつてのクラスの仲間達をこの手にかけてしまうかもしれない。
 雅史は自分の行った行動に嫌気がさした。
 しかし雅史は今の一件によりさらなる恐怖に襲われ、銃を手放すなんて事など、もはや考えることもできなくなってしまった。そして絶対に撃たないと自分に言い聞かせながらも、コルトパイソンを手に持って歩くことにした。
 もうどうしたらいいのか何も分からない。
 背中にリュック。左肩にはデイパック。そして右手にコルトパイソンを持って歩き出した。目的地は最初に考えていた集落。別にそこに何かがあるというわけではない。なんとなくだ。
 雅史はもう何も考えてはいなかった。「自分は誰も殺したくない」という思い以外は。
 いや、もう一つだけ思っていることがあった。
 靖治に、浩二に、稔に、生きている内にもう一度会いたい・・・。



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