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霧鮫美澪(女子4番)はひたすら林の中を歩き続けていた。彼女はこの林の中で獲物を探しているのだ。
 このゲームで言う獲物とは、すなわち自分以外の生徒のことを指す。そう、雅史が予想していたとおり、美澪はこの殺人ゲームに乗ったのだ。彼女はとにかく誰かに出会ったら、誰だろうと問答無用で相手に襲いかかる気でいた。
 美澪の手には当然武器が握られているのだが、この武器がどうにも彼女に似つかわしくない。
 美澪のディパックに武器として入っていたのはエアウオーターガン。要するに水鉄砲のことだ。
 このエアウオーターガンは、夏祭りの夜店にでも売っているようなちゃちな水鉄砲とは違う。本体の上部に取り付けられているタンクには400ミリリットルもの水を入れておくことができ、この水を空気の圧縮された力を利用して数十メートルも離れた的に向かって撃つこともできるのだ。だが、いくら普通の水鉄砲より優れているとはいえ、やはり水鉄砲は水鉄砲である。つまり、美澪のディパックに入っていた武器は、いわゆるハズレの武器であるのだ。だとしたらなぜ美澪はそんな役にも立たないような武器を持ち歩いているのか? それは美澪にしか分からない理由があったのだ。
 バサバサッ!!
 突然、美澪の右手の茂みの奥からカラスか何かが飛び立ったが、美澪はその飛び立つ音に驚くこともなく体の方向をそちらの方へ向けて身構えた。
 音の正体がカラスか何かの仕業だと分かると、何事もなかったようにまた元の方を向き直った。
 やっぱり出発したときに分校の入口前で身を潜めて、出てきたばかりの生徒に奇襲をかけて、手っ取り早く殺していった方が良かっただろうか。
 なかなか誰とも遭遇しない今の状況に少しづつ苛立ってきていた。いくら美澪だってこんな殺人プログラムの中で死にたくはなかった。
 さっさと自分以外の生徒を始末しておかないと。私にだって、まだ生きてやりたいことはたくさんあるの。だってまだ15歳よ。遊び盛りなんだから…。
 当然だが、美澪の言う遊びとは、普通の中学生が行うような遊びではなかった。簡単に言うなら、裏の世界の遊びと言うべきであろう。
 金の為なら、売春から殺人まで何でもこなしてきた。美澪はいままでそういう世界の中で過ごしてきたのだ。
 美澪はスカートのポケットの中からワイルドセブンの箱を取り出し、その中から出した一本に、慣れた手つきでライターの火をうつした。たちまち辺りの林にワイルドセブンの煙が広がっていった。
 美澪はスーっと煙を吸い込んで、じっくりと煙の味を楽しんでから煙をはきだした。そして美澪はまだ半分も残っているタバコを、火を消すこともなく地面に捨てた。
 美澪は今度は、自分のブランド物のバッグに手を突っ込んでいろいろ探ってみた。
 美澪は目当ての物(楽しいお薬よ)が見つからなかったので、仕方なしに我慢してワイルドゼブンを一本取り出し、再び火を付けた。と同時に前方の人影に気がついた。
 誰だ?
 美澪は誰か確認しようと思ったが、そうするまでもなく、その人影の正体はすぐにわかった。
「よう。霧鮫じゃねぇか」
 この低いトーンの声には聞き覚えがある。
須王拓磨(男子10番)の声だ。
「あら、須王じゃない」
 美澪は声の主に向かって話し返しながら思った。
 やっと獲物を見つけたわ。しかもかなりの大物ね。


【残り 40人】



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