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 肉付きの良い少女の大きな手の中で、四角い装置の液晶ディスプレイが、薄暗い辺りをぼんやりとだが照らし出している。
 少女がふとそちらへ目を向けると、先ほどまで九つ表示されていた点が、今は七つに減っていた。どうやらどこかでまた二人死んだようだ。
 残された七つの点、それが意味していることは考えるまでもない。生き残っている生徒は男女合わせてたったの七人だけになってしまったということだ。
 しかしその装置、レーダーを持つ人物、
吉本早紀子(女子22番)はそれを見ても、何一つ表情を変えず、ただ自らの作業に没頭し続ける。
 早紀子は南東の住宅地の果て、支給地図が指す6−G地点に位置する小さなガソリンスタンドにいた。無人と化したそこで、彼女はひたすら動き回る。
 なにやら液体が入ったタンクを担いだと思えば、ガソリンスダンドの中心部にまで持ち運び、それをコンクリートの地面の上に撒く。そしてまた空になったタンクを担いで隅に行き、再び液体を満たした後に運ぶ。そしてやはりコンクリートの地面の上に撒く。そんな作業を延々と続けていた。
 普段ならば屋根があるためにスタンド内部が雨などにも濡らされることなどはないが、彼女の行動によってそこには徐々にその液体によって作り出された水溜りが姿を現し始めていた。
 彼女行動の意図を知らぬ者ならば、誰が見てもその行動は奇妙に思うであろう。しかし、これまでに幾多もの生徒たちを地に還してきた彼女のことだ。おそらくなにやら考えがあるのだろう。
 まるで感情が無いかのような無表情な顔をピクリと動かしもしない彼女。はたしてその冷たい目の奥で何を思っているのだろうか。
 彼女が作業に没頭している内に、レーダーの画面の中で、彼女に向かって一つの点が、徐々に接近してきていた。


【残り 7人】




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