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 苦痛に近い表情を浮かべる忍を脇に、創太はこれらの情報から得られる結論を述べた。
「残念だけど、前の13時の放送の時点で、もう生き残りはわずか11人にまで減っていたわけだよ」
 創太も苦い表情を浮かべたが、忍は更なる不安も感じていた。前の放送の後、さらにそれ以上の死人が出ている可能性も否定は出来ないのだ。(忍たちは知らなかったが、実際、桜井稔や杉山浩二も、前回の放送の後にゲームから脱落している) そのため、今もまだ大樹たち、それに直美も生存し続けているとは保証できない。いくら13時の時点ではまだ生きていたとはいっても、それだけで安心など出来るはずが無かった。
 逆に今も生きているとしても、何時彼らに魔の手が迫るとも限らない。つまり、再会を望むのならば、とにかく急いでこの場所から出発し、そして探し出さなければならないのだ。
 そうと決まれば…。
 忍がベッドから立ち上がろうとした、まさにその瞬間だった。
「ねえ新城さん、お腹減ってない?」
 創太が突如そう言った。立ち上がろうとした瞬間に投げかけられた、緊張感の無いその言葉に、手足に入れようとした力を、つい内側に引き戻されてしまった。
「お腹?」
 立ち上がることに失敗した忍は、その突然投げかけられた言葉の意図を掴む為に、逆に創太に聞き返した。
「うん、新城さんって、もう24時間近く何も口にしてないんでしょ? それじゃあ、当然お腹もすいてるんじゃないかと思ってね」
 創太のその言葉により思い出したのか、忍の腹が突如空腹を訴え始めた。
「た、確かにすいてはいるけど…」
 忍は正直に答えたが、今はそんなことに構ってなどはいられない。急いでこの場を出発し、自分が捜し求めている大切な人たちとの再会を果たすことが、何よりも先決なのだから。しかし忍の今の発言を聞くやいなや、
「そうでしょ! だからそう思って、僕この近くにあるスーパーマーケットに行って、何か食べる物が残されていないかどうか調べてみたんだ。でも、どうやら島の人たちが避難すると同時に、ほとんどの食品は運び出されちゃったみたいで、店内にはほとんど何も残されてなかったんだ。でも店内中をくまなく探して、ようやくある程度の量の食べ物、それと固形燃料も見つけたんだ。これさえあればガスが止められてて火が使えなくても、ちょっとした料理なら出来るでしょ。だからそれを持ち出してきて、今台所でご飯作ってるんだ」
 と少し口調を早めながら、創太は嬉しそうに話し出した。
「そ…そう」
 ものすごい勢いで話す創太に圧倒され、忍は特に何も言えなかった。
「もうちょっと待っててね。完成したら持ってきてあげるから」
 そう言ったのを最後に、創太は再び部屋を出て行こうとした。
「えっ! ちょっと待ってよ」
 忍がそう言ったときには、創太は既に部屋を出て行ってしまっていた。
 しまった。またここから出発するタイミングを逃してしまった。
 せっかく創太が忍のことを想って、いろいろと手を焼いていてくれているのだ。そのうえ彼は命の恩人だ。その彼の恩に答えず、早々と退散してしまうなど失礼極まりない。少なくとも忍個人はそう考えた。
 それに空腹である事は本当だ。先ほどの疲れに関する考えとも重なるが、今後どんな戦いが待ち受けているかも分からない今の状況下で、空腹のまま行動するなど、あまり大丈夫だとは思えない。ここは創太の善意をありがたく受け止めるべきなのかもしれない。
 しかし忍の心境は複雑であった。すぐにでも出発するべきか。それとも、もう少しこの場にとどまるべきか。
 たった2つしかない選択肢。そのうちどちらか一つを選ぶだけで良いのだ。しかしこのたった2つしか選択肢の無い問題が、この時の忍にはこの上ない難問にすら感じた。
 痛っ!
 立ちはだかる難問に苦戦していたのが原因か、首の傷が再び痛んだ。須王との戦闘の際につけられた傷だ。
 忍は須王との戦闘のことを再び思い出した。
 坪倉武殺害後、運悪く戦う羽目になってしまった強敵。一戦終えたばかりの忍は、100パーセントの力を出し切って戦える状態では無かった。そのうえ相手の戦闘力も相当高い。まさに忍にとってかなり不利な状況であったと言っても良いだろう。しかし、それでもその相手に背を向けて逃げ出してしまった事は、忍にとっては相当な屈辱であった。
 見てろ須王。今度会った時には、絶対にアンタを倒してやるんだからな。
 傷口の上に張られたガーゼに手をあてながら、忍は心の中でそう叫んだ。
 それにしても、辻本の奴、結構丁寧に傷の手当てしてくれたんだな。
 ガーゼに手を当てた時、忍は初めて傷を手当てされていたことを実感した。自分の足を見ると、確かに先ほど創太が言っていたように、右足の打撲は上からシップを張られ、それも剥がれぬように包帯で丁寧に固定されていた。
 さらに左足の擦り傷は、上から簡単にバンソウコウが張られている。救急箱の中を見ると、スプレー式の消毒薬を開封した形跡があった。おそらくこの左足の擦り傷の消毒のために使ったのであろう。
 まじまじと手当てされた傷の箇所を見ているうちに、忍の中でだんだんと考えがまとまりつつあった。
 辻本創太か…悪い奴じゃないな。
 そう思うと、立ち上がりかけていた自らの身体を、ゆっくりとベッドの上に倒した。
 まあ、もうちょっとだけ好意に甘えてやっても良いだろう…。
 ベッドの上に寝転がりながら、顔にうっすらと無意識に笑みを浮かべた忍であったが、本人は全くそれに気付かなかった。



【残り 9人】




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